研究プロジェクト

調査データ

書籍・提言

機関誌 Works

研究所について

  Home > SPECIAL THEME > 次世代リーダー育成のいま(番外編)2005年4月
 マクドナルド
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
次世代リーダー育成のいま(番外編)
マクドナルド マクドナルド 会社のミッションを自分の言葉で語れるか
−人材ラボ 社長 下山博志氏(元マクドナルド人材教育責任者)
次世代の経営を担うリーダー人材の育成。近年各社で大きな課題となっているこのテーマに、リーディング企業はどのように取り組んでいるのだろうか。これから期待されるリーダー人材の役割と機能、それらの人材をどのように育成、処遇しているのか。各社の人材育成責任者にインタビューする。

今回は番外編として、マクドナルド株式会社に 28年間在籍し、1999年から 2004年にかけて全従業員の人材教育責任者を担当した、(有)人財ラボ 代表取締役社長 下山博志氏にご登場いただく。下山氏は人材教育責任者を担当した当時を振り返って同社の人材育成の強みを語った。マクドナルド社が評価されるべきなのはその規模の大きさではなく、人材開発が企業文化として浸透している点だという。同社は、どんな次世代リーダー育成に取り組んできたのか、13万人の従業員を率いるトップに求められるものは何なのかを聞いた。
インタビュアー:古野庸一
文、構成:内田美代子
――マクドナルドでは、これまで次世代リーダーの育成にはどのように取り組まれてきたのでしょうか。
下山氏
下山 次世代リーダーの育成に取り組み始めたのは 2000年ごろからです。マクドナルドでは人材開発が企業文化になっているほど、会社設立以来、人材開発を重視してきました。マクドナルドでは、階層を下から見て、研修生、店長補佐、店長代行、店長、さらに店長の監督役であるコンサルタント、コンサルタントを統括するオペレーションマネジャーと階層が作られており、階層別の教育はすべて取り組み、制度も完成度の高いものでした。しかし、企業 30年説ということがあるように、1971年の設立から 30年がたったとき、マネジメント層の交代など大きな過渡期を迎え、「本当にこの次のリーダーはどうなるのか、コアになる人材は社内にいるのか」という問題が、大きな危機感を持って具体化しました。そこで 2000年ごろから、中間層以上の教育システムに取り組み始めたのです。ただ当初は、オペレーションレベルの教育システムはしっかりしているが、マネジメント層の教育システムは弱く、整備をしなくてはいけないという感覚でしたので、厳密に次世代リーダーの育成という意識ではありませんでした。

その後 2002年ころから、マクドナルドのグローバルレベルでサクセッションプランの考え方が導入され始めました。このサクセッションプランの導入を受けて、2002年後半ころからは補助的に機能する研修プログラムも実施してきました。これは、リーダーに求められる能力としてビジョン、ミッション、バリューをどのように組織内に浸透させるか、に関するプログラムです。
*サクセッションプラン:後継者候補の選抜および育成のこと
13万人の従業員に企業理念を伝えるために
――なぜそのプログラムを実施したのでしょうか。そのプログラムの目的は何だったのですか。
下山 マクドナルドでは、例えばハンバーガーの作り方などの現場レベルのマニュアルはしっかりとしたものを作っています。マニュアルに従った仕事を教えることは必要ですが、ここで問題になるのは、マニュアル通りに仕事ができるように教えることではありません。仕事を教えるのは難しいことではないのです。ここで問題になるのは、教えたことをいつでも正直にやってもらえるかどうか、ということです。そうした場合に重要なのは、現場での人間関係や信頼関係、上司とのコミュニケーションです。マクドナルドのハンバーガー大学は、ハンバーガーの作り方を教えるところではありません。店長やコンサルタント、オペレーションマネジャーを対象にリーダーシップやコーチング、戦略策定といったことを教えているのです。

こうした環境にあるマクドナルドにおいて、企業のトップマネジメントに一番必要なのは、確固たる企業理念を 13万人の全従業員に一つの言語で語られるかということです。365日、全員に語り続けるのは現実には困難です。しかし少なくとも、経営層が発した言葉を、各階層の者が自分の言葉で伝え、会社がどちらの方向に向かっているかを伝えられなくてはいけません。そこで 2002年後半から中間管理職を対象にして、ビジョンやミッション、バリューを浸透させるプログラムに取り組むことになったのです。
働く理由と会社のミッションを結びつける
――中間管理職というのは、マクドナルドでは具体的にどういう人を指しますか。店長ぐらいでしょうか。
下山 店長はマクドナルドの最も重要な管理職ですが、当時のマクドナルドでは、次の世代の管理職になるべくオペレーションマネジャーをターゲットとしました。オペレーションマネジャーは、10名程度の店長を管轄するオペレーションコンサルタントを十数名統括します。このプログラムではオペレーションマネジャーに対して「あなたはなぜこの会社にいるのですか」「なぜ仕事をするのですか」と、「なぜ」という問いかけを何度も繰り返したのです。こうした問いを重ねることで自分を見つめ直し、答えを導き出します。そのときに、出てきた答えと会社のミッションを結びつけることができるようになり、会社のミッションを自分の言葉で語れるようになるのです。
――そのプログラムの成果はどうでしたか。
下山 プログラム自体は非常に成果があったと思います。プログラムの効果は、プログラム参加後の彼らの部下からの意見から確信できました。ただ同時に、教育を担当としていた私としては、このプログラムだけでは次世代リーダーを育成することはできないとも思いました。
教育システム構築のための3つのキーワード
下山 当時の取り組みから、今後さらに次世代リーダー育成の教育システムの構築をする上で最も重要なキーワードが 3つあると考えるようになりました。

下山氏1つ目のキーワードはダイバーシティです。つまり多様性を重視するという考え方です。当事マクドナルドは従業員の退職率が非常に低く、勤続年数も長い会社で、成功も失敗体験も従業員の間で共有し、こうした人たちが会社を支えてきました。最近では、外部からスペシャリストを採用し、プロパーの社員と融合したことで、組織としてさらに強い企業になっていると思います。

過去の成功体験に基づいて人を育成することはできますが、同じタイプの人材を育成しても意味がありません。現世代のリーダーは次世代のリーダーになるとは限らないからです。次世代のリーダーを育成するには、今われわれがいる状況から一歩踏み出す必要がありますが、その際には多様性を受け入れていく必要があります。そのため社内研修だけに頼るのではなく、ビジネススクールに参加させたり異業種交流を実施したりしましたが、いかにマクドナルドが自分たち固有の文化や手法を形成しているのか実感しましたね。

2つ目は、エンゲージメントで、会社と個人のつながりを考えることです。能力のある優秀な人であれば、所属している会社の外の世界に自分の成長の可能性を見出すのは当然のことです。自分が会社に貢献できている、仕事に満足していることを実感できなければ、個人が本当にこれから会社で何かをしようと思うようにはならないのではと思います。権限は与えられないのに責任ばかり大きかったり、仕事の内容と報酬のバランスがとれていなければ、会社への帰属意識を保つのは困難でしょう。会社への思い入れや仕事上の満足感が帰属意識を生ませ、そうして始めて会社で何をしていこうかと考えられるようになると思います。ですから本気で人を育てようとするなら、仕事をある程度任せ、リーダーを疑似体験させることも必要でしょう。
――例えば関連会社の社長や海外の工場を担当させることが必要ということですか。
下山 そうした配置もありますが、ある程度は自身で判断し、行動できる環境を与えることが必要でしょう。権利、権限の付与が中間管理層を中心に企業風土の中に浸透していけば、成果も自分自身のものとして確信でき、さらに高い成果への欲求も沸き、更なる成果を追及するという連鎖反応が起こると考えています。
会社と個人の関係を強くする
下山 マクドナルドは、従業員の会社への帰属意識やマクドナルドブランドに対する自負が強い企業です。一緒に働くのが好き、あの人についていくという信頼関係が成立しています。ただしそうした働く人相互の信頼関係は、崩れ出せば組織はすぐに崩壊してしまう脆弱なものです。またマクドナルドは、暗黙知が多い会社です。先ほど成功と失敗体験の共有ということを申し上げましたが、あまりにも共通の体験が多いため、体では分かっていても、言葉で語れないということが多いのです。だからこそ、従業員のエンゲージメントを意識することがリーダーには必要となってくるのです。

3つ目のキーワードはアウトプットの重要性です。通常、育成ではインプットを重視しますが、私はアウトプットを重視すべきだと思っています。アウトプットを出せる人材が、会社への貢献感や自己満足感を持ちながら、次世代リーダーとして結果を出せる人材だと思います。単にMBAを取得してもらっただけでは何がどう変わったのかわかりません。アウトプットまで評価するプログラムを作る必要があります。
4時間で決まった新しいトップ
――そうした3つの視点は経営者層も認識しているのですか。またグローバルではどう認識されていますか。
下山 これは、あくまでも当時の人材教育責任者としての私の考えです。しかし、言葉としての表現は違いますが、グローバルレベルでもそうした視点を持ってプログラムの開発を進めていました。ただ、これだけ大きな組織となると、他にも取り組むべき課題を抱えた中で、プログラムを組み立てて実行するまでには、数年という時間がかかるのは事実です。

グローバルではサクセッションプランは重要な戦略の一つで、既に機能しています。実際、2004年の年頭にグローバルのトップが急死したとき、4時間後にはナンバー2であった者が新しいトップと決まりました。実際には世界中に 24人の候補者がおり、その中からナンバー2が新たなトップとなったのです。
優れたシステムが機能しない理由
――少し広い観点でお話を伺いますが、なぜ日本では次世代リーダーの育成、研修がうまくいかないケースが多いのでしょうか。
下山 研修のシステムとしては優れていると思います。しかしうまく機能していないのにはいくつか理由があるでしょう。一つは開始時にプログラムを企画した人が現役でなくなっている場合があります。また人材戦略と教育戦略が関連せず、ときには齟齬を起こしている場合もあります。また、レールを敷いてもレールに乗っていなかったということもあります。それは仕組みではなく人材の選び方に問題があるからです。必要なスキルや資質の選定がされていないのです。厳密に言えば、されていないというより難しいのです。求めるものは時代によって変化します。そうなるとトップパフォーマーに求めるものを決めても、それに基づいて選んだ人は将来のトップパフォーマーになるとは限らないでしょう。
――今優秀な人と将来優秀な人を見分ける方法はあるのでしょうか。
下山 それを見分けるのは難しいですね。将来のトップパフォーマーに何が必要かは分かりませんので、ポテンシャルを見つけ出すしかないでしょう。ではどうやって見つけ出すのかといえば「あの人いいよね」といった人の感覚に頼っているのが現実です。ただ人の感覚だけでは決められません。一方、コンピテシー的なものは、作るのに3年、教えるの 2年かかり、実施するときには定義を改定する必要が出ているでしょう。また、すべて数値化したら、現実には存在し得ない人物像になりますので、数字に当てはめることについては疑問を持っています。

次世代リーダーの選び方、育て方に正解はありません。次世代リーダーもいろんなタイプが出てきて、そういう人たちが自分はどうやって育ったのかということについて自ら語ってくれるのがいいのではないかと思います。
プロフィール
下山博志(しもやま・ひろし)
(有)人財ラボ 代表取締役社長
1977年、日本マクドナルド株式会社入社。店長、スーパーバイザー、ハンバーガー大学プロフェッサーに就任。その後、本社営業統括部にて各種プロジェクトを担当。営業部長、業務部長を経て、1999年から 2004年までは全従業員の人材育成の責任者として、本社人事本部トレーニング部長、リクルート部長を歴任。2004年9月に退社。同年10月より、人材開発を総合プロデュースするコンサルティング会社として(有)人財ラボを設立、代表取締役社長となり現在に至る。3社の非常勤顧問をする傍ら、NPO活動法人日本イーラーニングコンソシアム理事、神奈川県立総合教育センター事業推進にかかわる構成委員や能力開発全国大会企画委員など、社会活動も行なう。
◇ 次世代リーダー育成のいま 目次
第1回 セイコーエプソン株式会社
第2回 アサヒビール株式会社
第3回 富士通株式会社
番外編 日本マクドナルド株式会社
第4回 ソニー株式会社
(2005年4月15日掲載)

 読者アンケート
このページへの感想を教えてください。
※下記の質問にお答えいただくと、これまでの集計がご覧になれます。
※送信は 1回 しかできません。ご注意下さい。
この記事は、あなたにとって満足できる内容でしたか?
   とても満足
   まあ満足
   やや不満
   とても不満
↑TOP へ戻る
HOME サイトマップ 検索 お問い合わせ サイトについて RECRUIT