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  Home > SPECIAL THEME > 人を活かす高年齢期就業へのヒント 2006年10月
 人を活かす高年齢期就業へのヒント
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
人を活かす高年齢期就業へのヒント
第一回 計画が難しい定年後 必要な「キャリア環境変化対応性」
60歳定年制は1980年に法制化されて以降、段階的に義務化され定着した制度である。働く個人にとって60歳定年で雇用がいったん終了することは明らかであるにもかかわらず、それ以降の生活や就業の計画をしっかり立てることは、なかなか難しいのが現実のようだ。難しさは何に起因するのか、そこで求められる行動特性「キャリア環境変化対応性」とはどんなものなのかをレポートする。
文:ワークス研究所 笠井恵美  編集・五嶋正風
2007年に60歳となる団塊世代のサラリーマンにアンケート調査した「退職後のリアルライフII」(電通シニアプロジェクト調べ)によると、現在定年を迎えていない人で、60歳定年後の仕事や暮らし方を決めている人は57.8%であるという。定年を迎える前年であっても、4割の人はまだ仕事や暮らし方を検討中である。定年後の生活は直前まで具体的に計画しづらいようである。

定年2、3年前から計画では遅い
堀越弘氏定年後の計画が難しいのはなぜなのだろうか。キャリアカウンセリングや人材育成を専門とし、企業のキャリア研修や、個人のキャリア相談に応じているキャリアステージ研究所代表の堀越弘氏はいう。「40代から50代前半までは仕事に忙殺され、定年後のことまで真剣に考えている人はあまりいないように見受けられます。キャリア研修を行うと、本当はいろいろなことに関心があるのに、現実は仕事の比重が極端に高く、家庭や地域、余暇などにおける役割が少ない。それが57〜58歳ぐらいになると、定年後どんなふうに生きるかが急に気になり始め、『今後はどうなるんでしょうか』とこちらに質問される方もおります。しかし、定年2、3年前から60歳以降の生活の方向性を考え始めるのでは、やはり遅いと思います。自分としてどうしていきたいのか、方向性についての考えを深めていくには10年くらいの時間が必要です」。

堀越氏の指摘のように、定年が近づくまで、定年後の生活に意識が向かないことに加えて、仮にそれを意識し早めに計画を立てたとしても、定年前の思いもかけない環境変化や経験によって、計画が変わることも現実には起こりうる。大手メーカーで働き、この8月で60歳定年を迎えた林幸男氏のケースはその好例だ。職業に関する研究業績の多い心理学者、D.E.スーパーは著作のなかで、人が仕事を選ぶ理由は大きく分けると3つであると述べている。「生計を支えていけるか」、「好きな仕事内容か」、「そこでの人間関係に満足できるか」の3点だ。通常、高年齢期になればこの3点は安定しあまり変化しないものとみなされていないだろうか。だが林氏のケースは、変化が起こり得ることを物語る。

「雇用延長はしないと決めました」
林氏大手メーカーで働き、この8月で60歳定年を迎えた林氏は、もともとは「60歳定年後も、継続雇用を希望してこの会社に勤め続けたい。この会社で職業人生を終わりたい」と考えていたという。それが、「雇用延長はしません。この会社に未練はありません」と語るに至った。きっかけは2年前の出来事だ。

「以前の上司は転籍の相談がきても、断ってくれていました。私に任せている仕事があるから転籍はさせられない、と。その後、上司が変わると、新しい上司は転籍の相談をそのまま私にもってきました。『転籍の話がきたんだけど、どうだ』と。今の仕事の状況はどうかと私に尋ねたり相談したりするのではなく、選択肢をそのままもってきたんです。私の仕事ぶりを全然見ようとしなかった、見てくれなかったんですね。転籍先のグループ会社の社長とはそのとき一緒に仕事をしていたので、その社長が『ぜひ』と言ってくれていたことは、以前から知っていました。私は、人とのつながりで認めてくれるなかで仕事をしたいと思ってるんです。だから、出向経験期間を経て何も言わずに退職、そのグループ会社へ転籍しました」

新しい仕事に挑戦したい
大手メーカーの技術職として30年強の経験を積んだあと、5年前にひょんなことから人事・カウンセリングの仕事に就き、転籍先でもその仕事は広がり、現在はさらにキャリアに関する仕事にも取り組み、新たなことを吸収・実践する面白さ、自分が変化する嬉しさを感じている。「20代、30代は設計の仕事に携わった。終電で帰り、朝8時には出社、土曜日も出社が当たり前でした。そのなかで、きっちり、自分の思うとおりの製品を作るのが好きでした。白か黒かはっきりさせる、自分の価値観で決めてきた30年間です。それが、今はグレーが好きなんです。今、就職活動を始めているんですが、『技術系の経験を活かすのであれば求人はあるんですけど』と言われるのを断っているんです。新しい人事やキャリアの仕事をしたいんですよね。でも、残念ながら、その仕事では経験が足りないこともわかっているんですが」

さらに、フルタイムの仕事をする必要も出てきたという。「子どもが大学に入りなおしたんです。以前は、定年後は週に2、3日働くくらいがよいと思ったり、好きなサーフィンで毎年行っていたハワイで暮らそうかと妻と相談したりしていたんですが」と笑う。

スーパーのいう仕事を選ぶ3つの理由が、林氏の場合、定年前に大きく変化していることが見て取れる。定年前には予想していなかったフルタイム勤務が必要になり、同時にキャリアカウンセリングという、新たに挑戦してみたい仕事分野が見え始めた。さらに、定年退職を決めるきっかけとなる人間関係の変化もあった。その結果、「この会社で職業人生を終わりたい」から「もう未練はない」へ思いの変化が50代後半で起こり、職業生活の変更に至ったのだ。林氏に起こったような変化は、その時にならなければなかなか予測できないだろう。

環境変化対応性を伸ばすには
このような定年後の計画の難しさや、定年前にさまざまな変化が起こるという現実に対応していくためには、何が重要となるのだろうか。堀越氏は、充実した職業生活を中年期以降に送るためには、自らが変化することによってより適切な状況を作り出す、「キャリア環境変化対応性」という行動特性が重要になるという。
「企業と社員の関係が大きく変化してきています。そのなかにあって、職業人生を主体的に送り意味のあるものにするためには、環境変化を前向きに認識して、その変化に積極的に対応する力、『キャリア環境変化対応性』を身につけることが大切です。このことに着目をして、40歳代および50歳代を対象として調査を行った結果、『キャリア環境変化対応性』は、4つの事柄によって促進されることがわかりました。その4つとは、『エンパワーメント』『自己の模索』『世代性』『開放性』です」(図1参照)(堀越氏)。

図1 キャリア環境変化対応性への影響要因
図1 キャリア環境変化対応性への影響要因
40歳代および50歳代の中年期社員(男性)への質問紙調査によって明らかになった、「キャリア環境変化対応性」に影響を及ぼす要因。中年期発達課題への取組みである「自己の模索」「世代性」と、自己イメージの明確さ等によって強められる「エンパワーメント」、そして、性格特性の1つである「開放性」の4つの要因が、「キャリア環境変化対応性」に直接、影響を及ぼしていることがわかる。
(クリックで拡大)


なかでも『エンパワーメント』の影響は最も強く出ていたという。『エンパワーメント』とは、有意義感(「今の仕事はわたしにとってやりがいがある」など)、有能感(「これだけは誰にも負けないという仕事領域をもっている」など)、自己決定感(「仕事のやり方が決まっていても自ら工夫して裁量の幅を広げている」など)、インパクト(「私の仕事は職場や会社に何らかの好影響を与えていると実感できる」など)からなる概念だ。「エンパワーメントを高める企業施策としては、社員の自己裁量の幅を広げ、ある程度自由に仕事を設計する権限を与えるといったことが大切かと思います。社員自らが、どんな仕事をしていきたいか、考えを深め、それを自己裁量において実行するという取組みを通して、エンパワーメントは高まります」(堀越氏)

自ら決定したという納得感を
40代前半は「組織人としての役割責任を担う一方で、『本当にこれが自分がやりたいと思っていることなのか』と疑問をもつ人も少なくありません」と堀越氏。そのときに、自分のやりたいことを模索するにしても、現在の役割を継続して受け入れるにしても、そこに意味を見出し、自分が決定したのだという納得感をもつことが重要であり、そして仕事にその決定を活かしていくことができるかどうかで、その後のエンパワーメントのあり方も異なってくると見ている。「中年期の発達課題に対処したり、自己イメージを明確にしたりするなど、エンパワーメントにつながる取組みがキャリア環境変化対応性を高め、ひいては定年という節目をより自分らしく迎え次のライフステージを満足したものにしていくことにもつながるのではないでしょうか」

ワークス研究の調査で55〜74歳の人に保有能力の程度について尋ねたところ、「自分で決めたことをやり遂げる力」の平均点が最も高かった。逆に、「新しいことに挑戦する力」は、やや平均点が低かった(「シニアの就業意識調査2006」)。計画が難しい高年齢期の就業にあたっては、あきらめずにやり遂げる力はもちろん重要だ。同時に今回の取材においては、変化への対応や、新しいことへの挑戦にもより意識して取り組むことの重要性がみえてきた。このことは、高年齢者自身だけでなく、高年齢期の就業を支援する側も心しておかなければならないだろう。
堀越 弘(ほりこし・ひろし)氏プロフィール
キャリアステージ研究所代表

1955年群馬県生まれ。筑波大学大学院教育研究科修士課程(カウンセリング)修了。 富士ゼロックス総合教育研究所で、人事研修、キャリアデザイン研修などに従事。 2004年独立しキャリアステージ研究所代表。専門はキャリア発達心理学、キャリアカ ウンセリング、人材育成。主な論文、著書は「中年期におけるキャリア環境変化対応 性への影響要因」(産業・組織心理学研究)、「オーガニゼーショナル・カウンセリ ング序説(共著)」(ナカニシヤ出版)。
現在9割を超す企業が60歳定年以降、65歳までの継続雇用制度を導入している。高年齢期の就業は、定年後60歳以降も現役で働くというかたちへ変わりつつある。定年=引退ではなく、定年=新しい職業期間の始まりとなってきているのだ。では、実際に60歳定年後も仕事を続けていく場合、個人にとってどんな点が注意すべきポイントになるのだろうか。また高年齢者活用という新たな人事課題に取り組む企業は、何を視野に入れていく必要があるのだろうか。高年齢期の就業・活用のヒントを探っていきたい。
(2006年10月11日掲載)

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