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改正雇用対策法が、10月1日に施行される。今回の改正は少子高齢化、人口減少社会の到来、外国人労働者の増加等に対応するもので、ポイントはいくつかあるが、ここでは「募集・採用に係る年齢制限の禁止を義務化」(改正法10条)に注目する。
2003年に同法が改正された際、事業主の募集・採用における年齢制限の緩和について努力義務が規定されるとともに、厚生労働大臣による年齢指針(2003年厚生労働省告示第295号「年齢指針」)が制定されたが、実務において十分な実効性が示されたとはいえない状態が続いていた。今回の改正では、努力義務規定が禁止規定となり、事業主が改正法に違反して年齢制限をした募集や採用を行った場合、罰則はないが、厚生労働大臣から助言・指導・勧告を受けることがある(改正法32条)。また、企業としては、不利益を受けた労働者から損害賠償を請求されるというケースも想定しなければならない。
ただし、この年齢制限禁止には例外がある。合理的な理由で例外的に年齢制限が認められる場合(例外事由)が厚生労働省令で規定され、(1)長期勤続によるキャリア形成を図る視点から、若年者等を募集・採用する場合、(2)技能・ノウハウ等の継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定して募集・採用する場合、(3)芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請がある場合、(4)60歳以上の高年齢者又は特定の年齢層の雇用を促進する施策の対象となる者に限定して募集・採用する場合、(5)労働基準法等法令の規定により年齢制限が設けられている場合、(6)定年年齢を上限として募集・採用する場合、の計6項目が案として示されている。
これまで努力義務だった年齢制限の禁止が義務化されれば、中高年の再就職が促進されると期待を寄せる声もある。果たしてそれほどの効果があるのか、懸念せざるをえない材料も少なくない。
1つは、例外事由において若年者に限った募集・採用が比較的容易に認められる点だ。中高年の再就職を促進することが、募集・採用における年齢制限禁止の目的である。例外事由が拡大解釈されて運用されると、中高年が再就職の際にぶつかる年齢制限という障壁は低くならないのではないか。
若年者の失業やニート・フリーター化が社会問題化している現状を考えると、職務経験のない若年層の雇用促進が重要な政策課題である点ではコンセンサスがとれている。しかし、雇用対策法における年齢制限禁止の目的が中高年の再就職促進である以上、目的に矛盾するような例外事由は最小限に留めるべきではないか。若年者の雇用促進は別の施策として行う方が、整合性を保つ上でも、本来の目的を完遂するという点でも、望ましいと思われる。
実際的な観点から懸念されるのが、履歴書や応募書類における年齢に関する情報の取扱いである。10月1日の改正法施行まで1ヶ月を切っているが、実務上もっとも気にかかる点が明らかになっていない。
アメリカでは、1967年「雇用における年齢差別禁止法」により、募集・採用、解雇、賃金、労働条件などすべての面において、年齢を理由とする差別行為を禁止している。同法の主たる目的は中高年齢者の雇用保護と雇用促進にあり、適用対象は40歳以上の者としている1。
1 同法の例外規定には、(1)真正な職業資格に基づく場合、(2)年齢以外の合理的な理由に基づく場合、(3)真正な先任権制度に基づく場合、(4)真正な労働者福利制度に基づく場合、などがあるが、定年制は原則として認められていない。
同法は使用者が応募者に年齢を聞くことを明白に禁止していないが、募集・採用段階で年齢を尋ねる行為が中高年齢者の求職活動を阻害し、年齢にもとづく差別を意図するものであると解釈されるおそれが高いため、使用者が募集・採用時に応募者の年齢を確認することはまずない(年齢に関する質問をすることが合法的な目的のために必要であると立証できる場合は除く)。そのため、アメリカでは、履歴書や応募書類に応募者の年齢や生年月日を記載する慣例がなく、「(年齢差別禁止法に違反するおそれがあるので)年齢や生年月日を記載しないように」という注意書きまで記されている。また、履歴書や応募書類に写真を貼付することも雇用差別禁止の観点から認められていない。したがって、求人側が応募者の年齢を履歴書や応募書類から推測するのは容易ではなく、実際に採用しアメリカで合法に働けることを証明する書類を提出してもらうまで、企業は応募者の「実年齢」を知ることはない。このように、アメリカでは、少なくとも名目上は、募集・採用段階での年齢差別が発生しないように徹底している。
アメリカの制度を真似せよとはいわないが、10月1日の改正法施行以降も、企業が履歴書や応募書類上に年齢や生年月日の記載を求めるなら、年齢制限を禁止する実際的な意義は小さくなる。募集において年齢制限をしなくても、提出された応募書類上の年齢をもとに、求人側があらかじめ設定した「(未公表の)望ましい年齢層」に該当する応募者だけを抽出することは可能だからだ。
求人側による黙示的な年齢制限が可能となれば、年齢制限禁止の義務化は求職者にとってマイナスとなりかねない。この点について政府は、改正法が施行される前に、明確なガイドラインを示すべきである。
| 日本 | アメリカ | イギリス | EU | |
|---|---|---|---|---|
| 名称 | 改正雇用対策法(2007年) | 雇用における年齢差別禁止法(1967年) | 雇用における均等(年齢)規則(2006年) | 雇用平等に関する指令(2000/78/EC) |
| 概要 | 募集・採用における年齢制限の禁止 | 雇用における年齢差別を包括的に禁止 *40歳以上を対象 *20人以上の事業所を対象 |
雇用における年齢差別を包括的に禁止 | 雇用における年齢等を理由にする差別を包括的に禁止 |
| 例外規定 | (1)長期的キャリア形成のために、若年者等を募集・採用する場合 (2)技能継承のために、特定年齢層に限定した募集・採用をする場合 (3)芸術・芸能の分野での表現の真実性等の要請による場合 (4)60歳以上又は特定の年齢層の雇用を促進する施策の対象となる者に限定して募集・採用する場合 (5)労基法等により年齢制限が設けられている場合 (6)定年年齢を上限として募集・採用する場合 |
(1)真正な職業資格による場合 (2)年齢以外の合理的な理由に基づく場合 (3)真正な先任権制度による場合 (4)真正な労働者福利制度による場合 |
(1)正当な職務要件である場合 (2)ポジティブアクション (3)定年制(65歳以上) (4)勤続年数に基づく福利制度 (その他、年齢に応じた最低賃金、年齢に応じた法定整理解雇手当、定年年齢を超えた生命保険提供の打ち切り等は差別とならない) |
(1)各国内法の文脈において、客観的・合理的に合法的な目的に基づき正当化される場合: a) 高齢者、若年者、及び介護者の雇用促進や雇用保護のため、雇用及び職業訓練への参加、雇用及び職業条件につき特別条件を設定 b) 雇用へのアクセスまた雇用に関連する特定の便益について、年齢、職業経験や勤続年数を設定 c) 問題のポストにつき訓練要件や退職前の合理的な雇用期間要件に基づき、上限年齢を設定 (2)定年制 (3)真正かつ決定的な職業要件 (4)ポジティブアクション (5)公的な社会保障給付 |
(出典:以下のウェブサイトを参考に作成。
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/08/tp0831-1.html、
U.S.EEOC http://www.eeoc.gov/policy/adea.html、
U.K. Statutory Instrument http://www.opsi.gov.uk/si/si2006/20061031.htm、
Official Journal of the European Communities http://ec.europa.eu/employment_social/news/2002/jan/2000-78_en.pdf)
1960年代に年齢差別禁止法を制定したアメリカは先駆者といえるが、少子高齢化を背景に募集・採用段階を含む雇用における年齢差別禁止を立法化する動きが世界的に広がっている。EUは2000年に雇用平等に関する指令(2000/78/EG)を採択し、同指令のなかで年齢を理由とする雇用差別を禁止する。同指令をうけて、これまでにフランス、ドイツ、イギリスを含む加盟国が雇用における年齢差別禁止法を制定している2。
日本における今回の年齢制限禁止の義務化も、少なからず世界的な流れを受けたものだと考えられる。もっとも、日本と欧米では、雇用慣行、労働市場の需給構造、労働者の意識などが異なるので、年齢差別禁止政策を導入するうえで、相違点を考慮する必要がある。
2 同指令には多くの例外規定がある。そこには、80年代まで、若年者の雇用促進のために高齢者に早期引退を慫慂し、高齢者の雇用促進に重点を置いてこなかったという欧州特有の歴史的な背景があり、年齢差別禁止という概念を導入するには、広い例外を設定しなければ加盟国の国内法化が厳しかったという事情がかいま見られる。
マンパワーが世界25カ国の2万8,000社を対象に行った調査によると、「戦略的に高年齢者労働者を維持している」と回答した比率は日本が83%ともっとも高く、欧米諸国はいずれも30%にも満たなかった3。つまり、欧米における年齢差別禁止政策の第一義的な目的は、高年齢者の雇用保護なのである。
3 Manpower, "Older Worker Recruiting and Retention Survey Results (2007)" http://www.manpower.com/research/research.cfm (retrieved on Aug 31, 2007).
他方、日本の場合、高年齢者については、高年齢者雇用安定法の相次ぐ改正などにより積極的な雇用政策が導入されてきた。対照的に、過去の政策から抜け落ちてしまったのが、40歳-50歳代―いわゆるミドルエイジの再就職支援である。
厚生労働省は、中高年齢に絞った求人、たとえば「40歳以上の方募集」のような求人は望ましくないというスタンスを示している。
今回の改正の目的は中高年の雇用促進であり、募集・採用における年齢制限禁止は、これまで「35歳位まで」といった求人票や求人広告により再就職活動を妨げられてきたミドルエイジ層を支援すべきである。本来の目的に即して、ミドルエイジを優遇する募集や採用については、認める方向で議論してもよいのではないか。でなければ、今回の改正がもたらす利益が限定的なものになってしまうと危惧せざるをえない。
年齢に関わりなく働ける社会を実現するには、募集・採用段階だけでなく、賃金、労働条件、退職・解雇を含むすべての雇用段階において、年齢ではなく、能力・技能・職務・意欲を評価軸として位置づける必要がある。そのために、雇用における年齢差別禁止法制を拡大するのは避けては通れない道である。
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