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リクルートワークス研究所
デマンド・サイドからのリーダー育成アプローチ - 意図的な育成は、経営陣の仕事
『ワークス』誌53号特集「グローバルCU現象:経営と学習の融合』で、CU(コーポレート・ユニバーシティ)が、従来の教育研修から事業目的と直結した効果を実現する経営のインフラへと進化している点をリポートした。進化した「新世代のCU」が共通に取り組んでいる課題の一つはマネジメント人材の早期育成と活用であり、経営陣は人材育成のための会議にかなりの時間を費やしている。重要なポイントは、CEO自らが事業戦略の実現に不可欠な人材を定義、発掘し育成することにコミットメントしている点である。「デマンド・サイド(=事業戦略の実現)から見たリーダー育成」を提唱するマッキンゼーのシニア・パートナー、門永宗之助氏に、その実践ポイントを聞いた。
インタビュー:ワークス研究所主任研究員 蒋麗華
リーダー育成は、待っていては間に合わない時代
―― 「リーダー育成はトップが扱う事柄だ」という見地から、戦略コンサルテーションにリーダー育成までを含めた形で取り組んでいらっしゃると伺いましたが、まず、リーダー育成はトップが扱う事柄だという問題意識を、どのようにしてお持ちになったのですか?

門永宗之助氏 写真
門永宗之助氏
(マッキンゼー シニア・パートナー)
人材育成の基本的考え方には、意識的に育てるのか、人が育つのを待つのか、2つの考え方があります。今まで日本の多くの企業は、「育つのを待つ」という姿勢を踏襲してきましたが、それではもう間に合わない時代になっています。競争が激しく、事業環境の変化も著しい。戦略も複雑になってきていますから、人材にもますます高度な能力が求められる。事業のボトルネックが人材の供給になってきているのです。だから、経営陣がイニシアチブを取って、意図的に育てていかなければいけないと考えています。
企業には、新製品開発や新規分野への進出、生産や営業の生産性の向上など、さまざまな事業目的や戦略がありますが、それらの目的を達成するための人材を、もっと会社が意図的につくっていかないといけない。とりわけリーダーとなる人材は、育つのを待っているだけでは、せっかく企業としてよい事業目的を持ち、よい戦略を立てても、人材の供給がボトルネックになって、実現できなくなります。
―― 戦略コンサルタントの目から、従来のリーダー育成のあり方はどんな点に問題があると見えますか?
そうですね、今までのやり方は、階層教育、集合座学形式で、もっと論理的な考え方ができるようにしょうとか、マネジャーとはどうあるべきかを教えるとか、そういう研修はたくさんあります。けれども、それらはいわば、「畑に種をまいて、じょうろで定期的に水をやり、その中から芽が出るのを自然に待つ」というもので、それではある確率でしか人は育たない。それで間に合うのかどうか、やはりまじめに考えなければいけないと思います。
最も見直すべきだと思うのは、カフェテリア式トレーニングです。「会社はいろいろ用意しますから、皆さん選んでください。会社は自己実現の場です」といって、好きなものを選ばせ、それでトレーニングを施しますというもので、本人任せの自然発生的、受け身なやり方です。会社としてはある種の責任回避ではないでしょうか。全く駄目というわけではないが、それでは足りない。その意味でCUも、これを作りさえすればという発想ではリーダーはなかなか育ちません。
人材デマンドを明らかにするのは経営に携わる人
―― では、「リーダーを意識的に育てる」には何が必要でしょうか?
手順的な話になりますが、最初にどういう人材が、どの時点で何人ぐらい必要になるのかというデマンド(需要)・サイドを、経営に携わっている人に押さえてほしい。次に、うちの人材にどういう人がいますかという、サプライ(供給)・サイドを押さえる。そしてそのギャップを見る。このギャップが自然発生的な、受け身の研修をやっていて埋まるのであれば、それはそれで結構。

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しかし今後は、先ほど述べたような環境変化から、それでは埋まらない事態が発生すると確信しています。埋まらない場合、どうやって埋めるか。埋め方をかなり意図的に進めるということを考えたいわけです。
ある種の選抜教育になりますが、リーダー候補として育てたい人が、ある部署の課長だったとします。その人を5年で事業部長にするためにプログラムをきちんとつくり、通常のキャリア制度などと違うところで異動させ、育てる。それでもダメな場合は、早い時点で外から採ることを考える。外から採用もできない場合、そもそもの原点に立ち返り、立ててきた戦略や目標の修正をします。
―― リーダーの定義を事業上の目的・目標から導き出すという手法ですね。人材マネジメントの世界では、企業全体の戦略と人材マネジメントをつなぐという考え方=SHRM(戦略的人材マネジメント)の重要性の認識はずいぶん浸透しているかと思いますが、実践の面ではなかなか苦労しているのが現状です。
例えば、新しい事業を5年かけて軌道に乗せることをイメージしてください。それには始動期間のマネジメントをする人が必要です。また、これからはM&Aを通じて他力をうまく使い会社を伸ばしていくとなると、どこにどういう会社、またはどういうビジネスの種があるかという目利きできる人が必要だ、それからその交渉ができる人が必要だとなる。法務の面でも、相当専門知識を持った人が必要になるかもしれないし、もしくはそういうプロフェッショナルをマネジメントできるような人が必要になるかもしれない。または事業部長ができる人が5人欲しいとか、浮かんできます。
戦略から戦術レベルまで一つ一つ、必要な施策を考えていく。途中で人材不足が原因でつまずきそうだとか、ここにこういう人材がいないと、そもそもこの戦略は実行できないよねとか。例えば、アメリカで企業を買収しますといっても、現地のオペレーションを考えると、向こうの人材を活用して実行できる人がうちにいるか、ちょっといないねと。人材不足がボトルネックになって、つまずきそうな場面はどこかと想定するわけです。そうすると、どうしても欲しい人材が明らかになりますね。
もちろん、適切な人材の不足がボトルネックにならずにすむ戦略、戦術も検討したうえで、人材不足がボトルネックになるところを徹底して見つけていくのです。こうした人材のデマンドは、経営トップや事業部長たちが考えなければ出てきません。
360度インタビューで潜在能力データを徹底収集
―― では、「サプライ・サイドを見る」という点をお聞かせください。
先ほどの畑に水をやるような方法で、例えば、必要な事業部長候補が5人育っていればよいのですが、実際にはそう都合よくいきません。多くの企業は、たいてい過去に経験のない新しいことや、更に高度なことにチャレンジしなくてはならない状況にあります。だから「今できていること」を見てもなかなか適材かどうかわからない。すると、なんとか潜在能力を見たくなるわけです。これにはまた工夫が必要で、「どうやって潜在能力を見極めるのか」という話になります。

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では、人事部に潜在能力を見極めるためのデータがあるのかというと、なかなかそこまでデータベースに落としていないのが現実です。例えば「目標の数字を達成した」「非常にリーダーシップがあり、責任感もある」「自己形成に励んでいる」「研修受講履歴」「TOEIC700点」といったデータはありますが、それを見ても潜在能力は分からない。
―― サプライ・サイドでは潜在能力をどう見るかが鍵だということですね。
やはりリーダー候補については、一人ひとりかなり時間をかけ、精査しなければいけない。例えばA課長がいたとします。A課長本人、その上司、部下と、周りの人に話を聞いていきます。本人には、「あなたのやりたいことは何ですか?」といったことから、今までいちばんうまくいった自慢話、大失敗の話、自分の強みなどを聞きます。同じようなことを上司、部下にも聞く。A課長は何が得意で、何が弱みだと思うかなど。「これは評価ではなく、本人の育成のためです。内容は秘密にしますから、正直に話してください」と、情報を集める。
これを人事部の中ではなく、経営トップ、例えば常務会や経営会議など、常務以上が集まる会議でひと月に1回缶詰めになって、Aさんをはじめとするリーダー候補について議論します。例えば、Aさんは研究開発部門で研究員をしている。Aさんは研究で成果も挙げているが、周囲のみんなに聞くと、お客さんのところでニーズを拾ってきたり、生産現場に出掛けてあれこれ話をしたりしている。それらを見ると、Aさんはもっと幅広くものを見て、融合的に新しいものを考えることが得意ではないか、と見えてくる。こんな議論をするのです。
人事の情報では、どうしても研究員としての評価が中心になってしまうのですが、この会議は違う。上記のような議論をして、「では5年、あるいは3年で事業部長候補に育てよう。そのために半年後の人事異動でAさんを一度海外に出すか、営業に出そう」とか、その会議で大体決めてしまう。人材の需要と供給のギャップを見て、埋める方法を考えるわけです。そして、社内にどうしても人材がいなければ外部に求めるしかない、といった話を経営トップの間でやってほしいのです。
―― それぞれの段階で、経営陣、人事部はどういった形でかかわるのでしょうか。
デマンド・サイドは完全に人事部ではないところが考えます。トップや各事業部長に考えてもらう。サプライ・サイドの方は、人事部がかなりの役割を果たすのですが、最初Aさんに関してインタビューで情報を集めるのは、人事部に任せず、例えば常務など経営陣が出掛けていって話を聞く。なぜなら、デマンド・サイドの視点でサプライ・サイドをとらえて欲しいからです。聞いた人が常務会へAさんのケースを報告するわけです。私が見たAさんの状態はこうですと。その際、人事が横から情報を追加する。データベースの情報などを付け足すのです。
またリーダー候補の人材は、いろんな人に見てもらう。通常、常務会のような組織には、営業、生産、研究と、いろんな部門出身の役員がいる。例えばAさんのケースでは「そういうタイプの人は、一つのことに集中させた方がいい」と別な意見が出てくるでしょう。それで議論が深まり、最終的により良いプランになります。
デマンドとサプライをつなぐ共通ボキャブラリー
―― リーダー候補のデマンドとサプライをつなぐというとき、人事部門のボキャブラリーと事業部門のボキャブラリーがかみ合わないということはありませんか?
そうですね。人事部門と事業部門は、特に人を表現するとき、使うボキャブラリーが違います。人事部の方は、管理指標で表現してしまう。「この人は去年の成績はAでした」といった形。さらに定性的なところでは「積極性」「協調性」といった言葉が非常に増える。一方、事業部門は違う表現をします。例えば、新規事業の場合「こういう人材が欲しい」というのを「全くの白紙に絵を描ける人はいないか」などという。

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「大きな絵が描けていれば、細部は詰めることができ、いろんな部門間を走り回って、ちゃんと取りまとめられる人はいないか」とか、そういう表現になる。
ここでボキャブラリーを合わせる必要が出てきます。建築に例えるなら、白紙に絵を描ける、アーキテクトタイプ。決まったことはきちんとやる、ゼネコンタイプ。一方でどこにどんな家を建てたらいちばんいいのかと、都市計画を考える戦略的な参謀型などなど。要するにこの人はナニ型、あの人はナニ型と、意識合わせをして話を進めないとピンときません。
最初にボキャブラリーをそろえておくと、デマンド・サイドを定義するとき、うちは建築家型が5人欲しいとか、ゼネコン型はたくさんいるからいらないとか、あるいは複数の機能の横断実行型が欲しいとか、分かりやすくなるわけです。サプライ・サイドを見るときも、Aさんは建築家型だとか、それだけでは全部は表せないにしても、補助的に、共通言語として使える。リーダー候補をめぐる議論もかみ合いやすくなるのです。
―― 「何をどのレベルまでやる人なの?」と、事業を推進している絵が目に浮かぶような共通ボキャブラリーをつくることがポイントですね。こうした取り組みを日本企業で実践する場合、戦略が明確でない企業であるとか、経営陣の従業員に対する説明能力に左右されそうだ、などというケースを思い浮かべるのですが。
そこは習得可能なことだと思います。慣れることからスタートです。マッキンゼーには全世界でコンサルタントが約6000人、そのうちの約一割がパートナーと称される経営層です。私はパートナーの人事評価の委員を務めていますが、大変です。マッキンゼーのパートナーの評価では、先ほどの360度インタビューを30人ぐらいに対して実施します。
―― パートナー1人の評価で30人ですか?
そうです。また公正を期すため自国のパートナーではなく、他国のパートナーを評価します。私もヨーロッパにある3つのオフィスで15人のパートナーを見ていますが、パートナー1人について30人ぐらいに話を聞いていくと、大変な数のインタビューになる。委員会での議論も含めて1年に2カ月、それにかかりきり。ですがやっていくうちにノウハウは蓄積されていきます。
人材確保までを経営責任とするか、しないか
―― 最後に、経営者が多大な時間を割いてリーダーの育成にかかわっている企業とそうでない企業の違いはどこにあるのでしょうか?
リーダーの育成にどうして経営が関わらなければいけないかを突き詰めると、「事業上の目標を達成するために人材をそろえることに、経営がきちんと責任を取る」という認識をもつかどうかでしょうね。欧米ではこういう考え方でリーダー育成に取り組む企業が増えてきましたが、やっていない企業もいっぱいある。でも、この変化の激しい時代に経営責任を果たすには、人材をきちんと確保しないことには、果たせない。株主は業績しか見ませんが、人材の確保なしに約束は果たせないのは明らかです。経営陣がリーダー育成に多大な時間を割いているということは、彼らはそれがものすごく大事だと思っている証しですね。
冒頭で申し上げたように、これは全部の人に適用するべき話ではなく、事業のリーダーシップを取ってほしい人についての話です。戦略的な異動を伴うOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を、トップの責任として取り組んでいくことを考えてほしいのです。
プロフィール 門永 宗之助(かどなが・そうのすけ)

マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン ディレクター(シニア・パートナー)。東京大学工学部を卒業後、プラントエンジニアリング会社に入社。その後、米国マサチューセッツ工科大学 (MIT)にて工学修士号取得。86年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。99年から現職。同社ヘルスケア研究グループのリーダーを務める。
(2002年12月4日掲載)

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