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研究員リレーコラム ”抽斗(ひきだし)拝見”

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研究員リレーコラム ”抽斗(ひきだし)拝見”
日本のマネジャーの親和欲求は低いか?

奥井めぐみ(ワークス研究所客員研究員)
米国の組織行動学者、デビッド・マクレランドらは、優秀なマネジャーの条件として、「権力欲求が高く、親和欲求が低いこと」を挙げている。では日本のマネジャーたちの親和欲求は高いのだろうか、低いのだろうか。働く人を対象とした、ワークス研究所ワーキングパーソン調査2006のデータから、管理職たちの「働く理由」を詳細に見ていくと、日本のマネジャーの意外な実態が見えてきた。
組織行動学の観点から見た「働く理由」

動機付け理論の一つとして、デビッド・マクレランドらは、作業の場における3つの動機が存在することを指摘している。

  1. 達成欲求:ある一定の標準に関して、それをしのぎ、あるいはそれを達成し、成功しようと努力すること。
  2. 権力欲求:ほかの人々に、なんらかの働きかけがなければおこらない行動をさせたいという欲求。
  3. 親和欲求:友好的かつ密接な対人関係を結びたいという欲求。

さらに、この3つの動機について、次のような実証結果を示している。

1)達成欲求の強い人は自営業や大企業のなかの自治的な単位組織のマネジメント、販売部門の職などの起業的な活動で成功している。
2)達成欲求が高い人が必ずしも優秀なマネジャーになるとは限らない。
3)最も優秀なマネジャーになれるのは、権力欲求が高く、親和欲求が低い人である。
(ステファン・P・ロビンス『組織行動のマネジメント』(ダイヤモンド社)より)
「働く理由」に関する調査項目

今回利用したのは、ワークス研究所によるアンケート調査「ワーキングパーソン調査2006年」の、「働く理由」調査項目だ。調査では、「働く理由」を尋ねる質問として、19の項目を取り上げ、回答者に「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の中から一つ選ばせる。19項目の具体的な内容は、
(1)生計を維持するため、
(2)生活費を補助するため、
(3)自由に使えるお金の確保のため、
(4)将来に備えて貯蓄するため、
(5)社会とのつながりや友人と得るため、
(6)みんな働いているから、
(7)自分が成長するため、
(8)視野を広げるため、
(9)他にやることがないから、
(10)働くことが国民の義務だから、
(11)健康のため、
(12)社会や地域に恩返ししたいから、
(13)今の会社が好きだから、
(14)今の仕事が好きだから、
(15)働くことが楽しいから、
(16)自分のスキル・能力を活かしたいから、
(17)人の役にたちたいから、
(18)社会に影響を与えたいから、
(19)働くこと人に勧められたから、
である。(1)〜(4)のように金銭的な理由から、(9)のようなネガティブな理由、(7)(8)のような自己啓発的な理由まで、様々な項目がある。今回はこのうち、マクレランドらの研究と関連し、達成欲求、親和欲求に関する項目として、次のものをピックアップした。

達成欲求に関する項目:(7)自分が成長するため、(8)視野を広げるため、(16)自分のスキル・能力を活かしたいから
親和欲求に関する項目:(5)社会とのつながりや友人を得るため、(12)社会や地域に恩返ししたいから、(17)人の役にたちたいから
権力欲求に関する項目:強いて言えば、(18)社会に影響を与えたいから、だが、ぴったりする項目がないため、本コラムでは分析対象から外した。

分析対象としたのは、サービス職(471人)、運輸・通信関連(216人)、管理職(540人)、一般事務(608人)、企画・販促系(127人)、財務・会計・経理(74人)、営業(435人)、商品販売系(157人)、専門職・技術職(1049人)に従事する、正社員として働いている人たちだ(括弧内はサンプル数を示す)。

職種別「働く理由」の特色

まず、達成欲求にかかわる「働く理由」について、各職種で特色があるかを見てみよう。図の縦軸はパーセンテージを表している。

自分が成長するため

視野を広げるため

自分のスキル・能力を活かしたいから

いずれの項目においても、サービス職、専門職・技術職、企画・販促系、管理職の4つの職種が他の職種と比べて、高い達成欲求を持っていることがわかる。一方で、運輸・通信家計の職種は、これらの「働く理由」のいずれにおいても、他の職種よりも達成欲求が低い。この結果は、マクレランドらが示した、達成欲求の強い人は起業的部門で成功している、ということを裏付けている。

むしろ高い日本のマネジャーの親和欲求

次に、親和欲求に関連した「働く理由」を見よう。「社会や地域に恩返ししたいから」は管理職が、「人の役に立ちたいから」は管理職と専門職・技術職が突出して高い。「社会とのつながりや友人を得るため」は、結果はほぼ横並びで、運輸・通信関連を除けば、多くの職種で6割前後の値となっている。

社会や地域に恩返ししたいから

人の役に立ちたいから

社会とのつながりや友人を得るため

マクレランドらは、優秀なマネジャーの条件として、「権力欲求が強く、親和欲求が低いこと」を挙げているが、少なくともこの調査結果の分析からは、日本の管理職には親和欲求に関連する項目を、働く理由に挙げる人が多いこと、つまり親和欲求が低いとはいえないことがわかる。

このことは、「日本には優秀なマネジャーが少ない」と読み取るべきなのだろうか。そうではないだろう。出る杭は打たれる一方で、働く場における良好な人間関係が、ビジネスで成果を上げるためにも、日本では重要な役割を果たす。マネジャーが高い親和欲求を持っていることは、組織を円滑に運営し、成果を上げていく上で、むしろ必要なことではないだろうか。

「今の仕事が好き」を働く理由に挙げる人たち

最後にマクレランドらの議論から少し離れて、「今の仕事が好きだから」という働く理由を話題に取り上げよう。「仕事イコール好きなこと」というのは、理想的な姿だろう。まず気づくのは、どの職種でも少なくとも5割程度の者は「仕事が好き」なことを働く理由としていることだ。

今の仕事が好きだから

また、サービス職、管理職、専門職・技術職では特に高いが、管理職や専門職・技術職は、達成欲求、親和欲求ともに高い職種である。この結果より、達成欲求、親和欲求などの欲求が満たされることと、よりよく働くこととが密接に関係していることが示唆される。

そうなると達成欲求、親和欲求が低い職種に従事する者は、仕事は金銭を得るためだけのものと割り切らなければならないのか。ただ注意したいのは、そのような職種であっても、達成欲求や親和欲求を持つ者はゼロではないことだ。

どのような職種であっても、その職種なりに、達成欲求、親和欲求を見出すことは可能だろう。それを見出している人たちの、個々のケースについて詳細に調べていくことで、より多くの人が「仕事イコール好きなこと」を実現するためのヒントが得られるのではないだろうか。

奥井 めぐみ(おくい・めぐみ)1969年東京生まれ。
金沢学院大学経営情報学部准教授。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期過程終了。博士(国際公共政策)。郵政研究所リサーチ・アシスタントを経て、2000年から同大学経営情報学部助教授。
(2007年12月14日掲載)


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