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  Home > SPECIAL THEME > CATALYST Web版 2004年2月
 CATALYST Web版
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
本気の教育が普通の子を日本一にする 下
公立中「生活指導の神様」に企業も注目
天理大学人間学部講師(元松虫中学校教諭)原田隆史氏
本気の教育が普通の子を日本一にする 上
荒れていた公立中学の陸上競技部を 7年間で 13回、日本一に導いた元松虫中学校教諭(現天理大学講師)の原田隆史氏。ごく普通の学校の、ごく普通の生徒たちをどのように日本一へ育てたのか。企業における人材マネジメントに、そこから何が学べるのか――。研究誌『Works』の企画CATALYST(カタリスト)拡大版として、紙幅の都合で盛り込めなかった原田氏へのインタビュー全編を紹介する。
インタビュアー ワークス研究所 正木美穂子 編集 五嶋正風
心を使うために書く。国語より多い陸上部の宿題
原田隆史氏陸上部の書き物は、国語の宿題より多かった(笑)。とにかく書かせました。まず僕は、ありとあらゆる歴史上の成功者や経営者、オリンピック金メダリスト、冒険家など「強い人、成功者」を調べ尽くしたんです。紆余曲折の末行き着いたのが子どもたちを強くするのには技だけではないということです。「心・技・体・生活」のバランスが必要だったのです。その中でも、特に心を鍛えることが重要であることが分かりました。

そこで"心づくり指導"に取り組み始めました。つくった心を使うことで、さらに強くなる。「心を使う」というのは、書くことです。目標設定用紙という、成功に必要な要素をまとめた一枚の紙に書かせます。その中から、生徒個人の、目標、方策、問題点などが明確になる。生徒には徹底的に書かせました。すると子どもたちの心が「日本一になんかなれるわけがない」というあきらめの気持ちから、「死んでも日本一になる!」という強い気持ちや高いイメージへと変化したのです。
――部員全員に「日誌」と「目標設定用紙」を書かせていたそうですね。どういったものか、具体的に教えていただけますか。
日誌には、その日の具体的な反省と課題、翌日の具体的な行動目標を必ず書かせます。慣れてくればかなりの量を書きます。中学生とは思えないような、しっかりした内容を書いてきます。日誌は毎日書き続けることを強調し、継続的に指導しました。心を強くするためです。強い心を育てるためには、その子が今の力でできることを続けさせる指導が大切。だから日誌を 3年間、継続して指導しました。

また、失敗を後々まで引きずらないことも必要です。子どもは失敗をいつまでも気にしやすい。でも、いつまでもウジウジと気にしていては、次にいい結果を残せません。反省すべきところはして、失敗を気にするのはその日で終わりにさせる。書くことで、心の整理をする癖も身に付くのです。

目標設定用紙には、3カ月後や 1年後の目標を書き込みます。目標は、夢のような最高の大きな目標、その手前の中間の目標、最低限必ず達成できる目標、そして今回の目標というように、3段階に分けて考えさせます。そのほかには、成功した試合、失敗した試合の分析、予想される問題点、そのための解決策、決意表明、目標達成のための学校と家での奉仕活動、目標によって得られる利益、イメージなど、生徒は細かい字で、びっしりと書き込んできます。これを企業の人事の方に見せると、「大人の社員でもこんなに書いてこない。中学生が書いたものとは思えない」と驚かれます。書くことで心を使う、続けることで心を強くする、日誌で失敗を整理する、そしてきれいにするのです。
自立した人の特徴は「謙虚であること」
――原田先生のいう「心をきれいに」とはどういうことですか?
自立した人の特徴は「謙虚であること」です。謙虚であれば、自分のことが見えてくるし、他人のことも見えてきます。また、仲間をどう助けたらいいか自分で考え実行できます。上級生には下級生を指導させます。部活でのルール、マナーから、練習の方法、学校生活全体まで面倒を見させます。「後輩を教え育てる中から得る、思いやりと気付き」を経験させるのです。

どんなに大きな大会で優勝しても、テングになったら意味がない。部員たちには優勝した後でも、大会会場の清掃をさせました。それは、謙虚な心を持った自立人を育てるためなのです。
――陸上部が日本一になったこと、部員以外の生徒への指導によって、松虫中学校はどう変わったのでしょうか。
原田隆史氏「松虫中学の生徒は礼儀正しい。中学生らしい。動きがきびきびしている」と、来校した人はみんな驚きます。地域でも一目置かれる学校になりました。中学生でも正しく敬語が使えます。校内にはゴミも落ちていません。誰かが学校を見学に来ると聞けば、自分たちで掃除を始めます。聞いてみると、「先生方に恥をかかせられません」と心憎いことをいってくれます。

陸上部員には試合会場でも地域でも、優勝選手として尊敬や期待の視線が注がれました。実は朝食を食べるのもままならないような家庭の子もいたのですが、試合になると、このときばかりはと家族やたくさんの知り合いが駆け付けてくれて、みんなで泣いて優勝を喜び合いました。このような経験を数多く重ねていくうちに、生徒たちの顔には安心、自信、誇りが満ちあふれてきたのです。
見えない生活を管理してこそ一流の指導者
――最近では、大手企業に対するアドバイスや指導もされているそうですね。原田先生にお願いするのはどういった理由があるのでしょうか。
私が思うのは、生活を指導するコツだと思います。もっと分かりやすくいうと、人間力の高め方のコツだと思います。企業では業務や収益改善のために、主に仕事の時間だけを見ます。私は、改善のために仕事とそれ以外の生活すべてを改善させます。本気で人を変えてやろう、会社を生まれ変わらせてやろうと思ったら、会社に座っている時間だけでは解決しません。生活がだらしなくてボロボロだけど、仕事はうまくいくなんて聞いたことがありません。会社では見えない生活が管理できてこそ、指導者だと思っています。
――見えない生活を管理することで、人はどう変わるのですか。
最近、仕事がうまくいかず悩んでいる企業の若いリーダーから相談を受けました。彼に話を聞くと、仕事のやり方は間違っていない。むしろやる気はあるし、「おかしいなぁ」と考えていました。余談の中で家族のことを話されました。すると「仕事一筋で家庭を無視してきたので、妻と不仲だ。離婚に発展するかもしれない」と悩みを打ち明けられました。やはり生活かと思いました。それで、家での行動を細かく書き出してもらいました。すると、家族と会話していない。妻にしてもらったことは当然だと思っている。反対に「ありがとう」と感謝されるようなことは一切していない。子どもへのしつけにも協力していないなど、大切なことがぽっかりと抜けていることが分かった。そこで、(1) 何かをしてもらったら「ありがとう」という、(2) 皿洗いでもいいから、家の仕事を 1つ担当する。この 2つを約束させました。しばらくしてから彼に会うと、「こんなに変われると思わなかった」と涙ぐんでいました。家族の協力も増え、仕事もたいへんうまくいっているそうですよ。うれしいことですね。

ほかにも、仕事に悩んでいる人の話を聞くと、家族の教育、健康、近所付き合いだとか、家庭内での人間関係など、家庭に問題を抱えている人がたいへん多い。これは学校教育の現場でも同じです。今まで、子ども、保護者、選手などを含めて 3万人近くの人を見てきて思うのは、家庭生活が学校での生活や仕事に必ず影響するということです。社会人も子どもも同じことです。だから大人の生活指導をするのです。
子の成長を楽しんでいたら、蓄えはなくなった
――原田先生は部活動に、自身の貯蓄を全額つぎ込まれたと聞きました。
貯蓄ゼロなんですよ(笑)。すべて使いました。800万円ぐらいですか(笑)。妻がよく認めてくれたと感謝しています。お金はトラックの整備や、備品の購入などに使いました。部員たちの家庭に多くの負担はかけられませんから、経済的に厳しい子には、スパイクシューズや宿泊代を負担しました。ぐんぐん成長し、たくましくなる子どもの姿を楽しんでいるうちに、全部使い果たしていました。

数年前の全国大会で、選手が試合中に大きなけがをしました。くつを調べると、私が 2年前にあげた古いスパイクでした。親が「新しいくつにしなさい、もう捨てえや」というと「先生に買ってもらった宝物や。これで晴れの全国大会に出る。捨てるなんて絶対イヤや」と、大切に使ってくれた。

また、全国大会の開催場所が決まると、すぐにその地にある高級ホテルをまとめて予約しました。子どもたちにはホテルのパンフレットを渡して、「 2年後の全国大会は、ここに泊まって優勝するからな。この前、外国の皇太子が泊まったとこや。もう予約してもうたから、そのつもりで練習してくれ」といいます。すると、子どもは入部早々ビックリしますが、「自分たちは本当に全国大会に出るんや」と現実的に考えだします。出られるかな?ではなく、出ることは当然、当たり前として、優勝に向けた練習を始めるのです。
「オモロイ、人気者」になる夢は砕け散った
――原田先生は教師になられた当初、今とは全く違う教師像を描いていたそうですね。
原田隆史氏私は本当に子どもが大好きなのです。「オモロイ、人気者の先生になったる」と思っていました。そう思ったのには理由があります。

教育実習は落ち着いた地域の小学校と高校でした。かわいい、素直な子どもたちに囲まれて過ごしました。担当外の授業でも頼んで担当にしてもらい、周囲も驚くほど、実習に打ち込みました。そうしているうちに大変な人気者になったんですよ。当時パンチパーマだった僕のあだ名は「もじゃもじゃガンダム」。人気アニメをもじったものです。毎朝、学校の手前のバス停で、多いときには 50人の子どもたちが僕を待っていて、片手に 25人ずつ手をつないで登校していました。「教師こそ天職や! 教師になるために生まれてきたんや!」と確信しました。その勢いも手伝って、教員採用試験も一発合格。そして、赴任したのが大阪のある公立中学校でした。

初めての授業では「長縄跳びをして、盛り上げた後に……」といろいろ面白いことを考えて、ワクワクしながら校庭に行ったんです。ところが、誰も授業に来なかった。一人もですよ。「こらぁ原田!」と声がしたので見上げると、僕めがけて 3階から椅子が降ってきた。「もしかしたら死んどったかもしれへん」。もじゃもじゃガンダムの夢はあっさりと初授業で砕け散りました。
自分が変わらなければ相手は変わらない
――指導する側、教育する側として大切にしていらっしゃることは何ですか。
初めは「絶対にこの子をよくする。一歩も引けるかい!」という指導する側の責任感とこだわりとプライド。絶対手を抜かないこと。手を抜くと、教わる側もこんなものかという気になりますから。あとは、小さな成功体験を積み重ねさせてやること。そうすれば必ず共感が得られ、ついてきます。

人は自分が変わるということがいちばん怖い。でも、本気で相手を変えようと思ったら、まず、自分が変わらないと何も始まりません。私の場合は、教師になってからは付き合い以外でお酒を飲みません。夜何かあれば、すぐに現場に行かないといけないのに、「お酒を飲んでるんで、今はチョッと……」なんていうことは許されない。学校にいようが、家にいようが、24時間体制です。実際、こういった生活をしていると、生徒や保護者に頼りにされて、何かあればすぐ携帯電話に連絡をもらえます。おかげさまで、警察より早く現場に到着するようになりました(笑)。
――現在は天理大学で未来の先生たちの指導をされているそうですね。
そうです。松虫中学校を去るときには、たくさんの生徒や親御さんから「先生頼むわ。やめんといてえな」と引き留められました。でも、教育現場を知れば知るほど、「教師の質を上げなあかん」と危機感を持ちました。教師の質を上げれば、教育の質も上がる。そして子どもたちの質も上がる、そうすれば日本の国の質も上がると。「これから大学に行って、先生みたいな先生いっぱいつくってくるからな! 我慢してくれ」と、子どもたちと約束してきたんですわ(笑)。やらないといけないですね。
本気の教育が普通の子を日本一にする 上
プロフィール 原田隆史氏 (はらだ・たかし)

1960年大阪生まれ。奈良教育大学卒業後、大阪市立中学校教諭として 20年間勤務。最終勤務校となった松虫中学校では 7年間に 13回の日本一を達成し、全国から注目を集めた。また荒れる中学校を次々と立て直し、大阪では「生活指導の神様」と呼ばれ、現場の教師たちから絶大な信頼を集めている。2003年 4月より天理大学人間学部講師として教員育成に務める。著書に『本気の教育でなければ子どもは変わらない』(旺文社)『カリスマ体育教師の常勝教育』(日経BP社)。
表紙 『本気の教育でなければ子どもは変わらない』(旺文社) 表紙 『カリスマ体育教師の常勝教育』(日経BP社)
原田隆史氏研究誌WorksのCATALYSTにも登場します。
原田氏が登場するWorks 62号はこちら
(2004年2月24日掲載)
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