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  Home > SPECIAL THEME > CATALYST Web版 2004年2月
 CATALYST Web版
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
本気の教育が普通の子を日本一にする 上
公立中「生活指導の神様」に企業も注目
天理大学人間学部講師(元松虫中学校教諭)原田隆史氏
本気の教育が普通の子を日本一にする 下 
どこにでもある公立中学だった大阪市立松虫中学校の陸上競技部は、7年間で 13回、日本一に輝いた。荒れていた中学を立て直し、生徒たちを全国制覇が可能な選手に育てたのが、元松虫中学校教諭で天理大学講師の原田隆史氏だ。その指導法には企業も注目する。ある大手企業トップは原田氏の話を聞き、生徒を自立させる指導・育成方法を自社の社員教育にも取り入れた。ごく普通の学校の、ごく普通の生徒たちをどのように日本一へと育てたのか。企業における人材マネジメントに、そこから何が学べるのか――。研究誌「Works」の企画CATALYST(カタリスト)拡大版として、紙幅の都合で盛り込めなかった原田氏へのインタビュー全編を紹介する。
インタビュアー ワークス研究所 正木美穂子 編集 五嶋正風
――原田先生はごく普通の公立中学校の陸上部でわずか 7年の間に、多くの生徒たちを全国大会や国体に出場させ、13回も日本一に導きました。部員はどんな生徒たちだったのですか?
原田隆史氏普通の生徒です。中学校に入学してから陸上競技を始めた、ごく普通の中学生です。「よし。陸上日本一になるからな!」と宣言したときは、保護者も子どもも「先生、そんなん無理無理。無理やで!」って全員がいいました。確かに、それまでの獲得した表彰状は前年度、大阪市を 8つに分けたブロック大会で 3位が 2枚だけでした。それでも、日本一は無理なんてことはない。なぜ無理だと思うのか。前例がないだけで勝手に決めつけているのです。
持ち物検査で刃渡り 30センチのナイフ
――原田先生が赴任したころの松虫中学校はどんな状態でしたか?
「松虫中学を変えたる!」と使命感に燃えて、赴任したんですよ。当時は持ち物を調べるとバタフライナイフどころか、刃渡り 30センチメートルのナイフが出てきたり、教師が嫌いという理由だけで教師に水をかけたり、教室でつばを吐く、注意をしても開き直るといった状態でした。多くの場面で「すさみ」が感じられました。

赴任してすぐ、学校がどんな状態か把握しようと、校区を歩き回って情報を集めたんです。校区内には歓楽街の「飛田新地」があります。ゲームセンターや風俗店もあります。また、空き地や公園にはホームレスたちのブルーシートテントが並んでいます。不況の影響を受け、経済状態の厳しい家庭も少なくなかった。それに、小学校でリーダーシップを取っていたような子どもたちの中には、松虫中に入学しないで私立中学校へ行ってしまう子どもがいることも分かりました。

そこで、初めは子どもたちを学校、保護者、地域ぐるみで厳しくしつけていくことと、中学校に対する意識を変えなければならないと感じました。まず、警察や児童相談所などへ行き、協力をお願いしました。初めはビックリしていましたよ。まだ何が起こったわけでもないですからね。普通、赴任間もない先生が、突然あいさつには行きません。でも、早く効果的な手立てを講じないと手遅れになると感じたのです。今までの生活指導の経験から、重大な事件や事故が起きる恐れを感じたのです。子どもの人生がかかってるんですから、必死になりますよ。行政機関や警察も含め、地域ぐるみで一緒に子供を指導し、育てる環境をつくろうと思ったんです。
心のコップに注ぐ「夢」「誇り」「自信」
原田隆史氏「この学校には、何が欠けてるんやろ?」と、校内を歩きながらずっと考えたんです。たくさんの生徒たちと話もしました。すると、夢や自信、目標というようなものがあまり感じられなかったんです。リーダーシップを取る子もいませんでした。「夢」と「自信」と「誇り」この 3つを思いっきり心のコップに注いでやらなあかんなと思った。注いでやるためには、まず心のコップを上向きにしてやる。そこから始めたんです。
――心のコップとはどういう意味ですか?
コップを思い浮かべてください。そのコップが生徒の心なんです。ここに教師が愛情や自信、誇りを注いでやる。でも、どんなに教師が頑張っても心のコップが下を向いていたら、コップの中に注げないでしょう? まずは、コップを上向きにしてやる。そうなってから、思いきり注いでいくのです。
――どうやって、心のコップを上向きにするのですか?
まずは自分自身、教師自身が変わることですね。「主体変容」といいます。「ちゃんとやれ!」というだけでは、今の子どもは何も変わりません。自分から実践し変わっていく姿を見せるのです。それから、あいさつや返事、礼儀、基本的な生活習慣、清掃活動、奉仕活動などを徹底して指導し、心と学校内の「すさみ」を取り払います。すさみを取り払えばコップは上を向きます。

僕はまず朝 6時に出勤することにしました。クラブの朝練習の後、毎朝校門に立ちます。生徒に大きな声であいさつをする。すると、奥歯でガムをかんでいるように睨み返してくる生徒もいるわけです。「オレは、お前らの敵とちゃうねんぞ!」と彼らに毎日訴えかけると同時に、あいさつの必要性を身をもって示しました。校内でも、あいさつや礼儀に関することを、何百回でもできるまで徹底的に指導しました。そうすると、生徒は「あの先生、本気やな」と気付きだします。1回の授業で 200個近い忘れ物も、すべて数えて具体的に注意しました。たかが忘れ物と思って気を緩めると、この緩みが募って大きな事故につながります。同時に保護者には現状を報告し、協力をお願いしました。そうしているうちに、学校の「すさみ」も急速になくなっていきました。
罵声を背に誓った"日本一の学校"
――やっと学校が落ち着いてきたところで、ある事件が起こったそうですね。
原田隆史氏何度指導しても改善されない生徒を正座させたのです。すると、正座は体罰だとマスコミに連絡した保護者がおり、新聞に取り上げられて、緊急の保護者集会が開かれた。そこで私の指導が厳しすぎるという声があがったんです。

PTA のある役員には「お前みたいな教師は前の学校に帰れ! クビにする!」と怒鳴られました。上司から「まずは保護者に謝れ」といわれたのですが、私は断固として拒否しました。私がここで指導を緩めると、前のすさんだ学校に戻ってしまう。私が注意しているのは、子どもが間違ったことをしたときなんです。暴力が平然とまかり通るような学校に行かせたい親がどこにいますか? 結局、その保護者会は分裂して終了しました。僕は最後に「日本一の学校をつくります。見といてください」といって、罵声を浴びながらその会場をあとにしました。

するとその帰りに、7、8人の生徒が公園で待っていました。ボスグループに目を付けられて嫌がらせを受けている子どもたちでした。何をされるんやろ? と思っていると「先生、やめるんか? やめんといてえな。やめへんかったらオレら陸上するから」と目に涙をためていうんです。「こんなことでやめるわけないやろ。お前ら守ったるからな。陸上部に入れ! 先生は前の学校を大阪一にしたんやからな」と誘ったんです。彼らは入部しました。その子どもたちが陸上部の基礎をつくり上げたのです。
――その後に"日本一宣言"をされたのですね。
そうです。「陸上日本一になれなかったら、教師をやめる」と宣言したんです。すると、生徒からホンマやったら紙に書いてくれと頼まれ、「原田隆史」と署名入りで書きました。すると、生徒はその紙をコピーして配った。絶対絶命ですわ(笑)。その日に本気で日本一になるという目標が定まりました。

まず、部員を集めようと家庭を回りました。「お宅のお子さんを日本一にするので、陸上部に入れてください」と頼んで回ったんです。すると親たちは、「いややわ、先生。ウチの子が日本一やなんて、そりゃ無理ですわ」っていう。「いや、お母さんは関係ありません。お子さんのことです。子どもには可能性があります」と説得しました。親と子どもは違うんですから。親がダメと決め付けること自体が間違っていますからね。そうしているうちに、僕の"日本一"に共感した生徒が陸上部員としてたくさん集まりました。
「塾に行ける? それなら陸上部に入りなさい」
――部員は多いときには 100人も集まったそうですね。どうやってそんな人数を集められたのですか。
会社と一緒で人材確保がたいへん重要です。部員が集まらないことには、強い部にはなりません。そのため保護者と子ども、両方のニーズに応えようとしました。中学生になると塾や習い事に行く子が増え、部活動をあきらめる子もいます。そこで、時間管理で練習することにしました。例えば、腹筋 30回ではなく、腹筋 1分間とする。これで 1分間に何十回できるようになったと、本人も実力、成長を確認できます。また予定時間通りに終了するから塾にも行ける。保護者は「塾にも行けるなら、陸上部に入っていい」と入部を勧めてくれました。それが知られるようになり、どんどん人数は増えていったんです。
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プロフィール 原田隆史氏 (はらだ・たかし)

1960年大阪生まれ。奈良教育大学卒業後、大阪市立中学校教諭として 20年間勤務。最終勤務校となった松虫中学校では 7年間に 13回の日本一を達成し、全国から注目を集めた。また荒れる中学校を次々と立て直し、大阪では「生活指導の神様」と呼ばれ、現場の教師たちから絶大な信頼を集めている。2003年 4月より天理大学人間学部講師として教員育成に務める。著書に『本気の教育でなければ子どもは変わらない』(旺文社)『カリスマ体育教師の常勝教育』(日経BP社)。
表紙 『本気の教育でなければ子どもは変わらない』(旺文社) 表紙 『カリスマ体育教師の常勝教育』(日経BP社)
原田隆史氏研究誌WorksのCATALYSTにも登場します。
原田氏が登場するWorks 62号はこちら
(2004年2月17日掲載)

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