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基礎力の伸ばし方

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基礎力の伸ばし方
「素直さ」が自らの可能性を引き出す


NHKのバラエティー番組「サラリーマンNEO」に、「就活一直線」というコントがある。山西惇が扮する昭和の体育会系学生(応援団部員)の西條クンが、熱烈な自己PRをぶちまけるのだが、いつも玉砕してしまうストーリーだ。視聴者の多くは、彼の無鉄砲で一途な姿勢が失敗の原因だと思うかもしれないが、私は逆に、きっと彼は内定を得るだろうと思っている。彼は確かに場の空気も読めないし、社会人マナーも知らない。しかし彼には、友人や先輩の話を聞けて、そして少々の試練にも感情的にならず前に進める「素直さ」が満ちあふれているからだ。

近年、新卒採用はバブルの再来といわれている。「失われた10年」に比べれば景気は回復し(最近は再び下降気味だが)、団塊世代の大量退職という追い風もあり、確かに採用予定数は増加した。ただし、各企業の採用基準は決して下がってはいない。その結果、複数内定を獲得できる学生と、一つも内定が得られない学生といった二極化は、去年よりも進行していると感じる。実際、私の知っている学生も、成績や人柄にそれほど差異が感じられないにも関わらず、ある学生はあっという間に志望企業の内定を獲得し、別の学生は連戦連敗だ。その差は何かを把握するため、「内定が得られた理由/得られない理由」を丁寧に聞くようにした結果、たどり着いた結論の一つが、前述した「素直さ」の有無なのだ。ではなぜ企業は新卒採用において「素直さ」を求めるのだろうか。

まず「素直」であるために必要な「人の話を聴ける力」、すなわち「傾聴」について考えてみたい。第1回「こんぴら狗とコミットメント」でも述べた通り、キャリアカウンセリングで最も重要なスキルも、この「傾聴」である。以下は、私がGCDF-Japanキャリアカウンセラーの資格取得の研修で学んだ、「傾聴」の大切さを学ぶワークだ(若干アレンジしている)。皆さんならどう答えるだろうか。

<課題>
あなたは親せきの家に遊びに行きました。親せきの女の子(小学生)が学校から帰ってきて言いました。

「70点取ったよ!」

あなたはどう答えますか?



ここでつい「褒めてしまう」人が多いと思う(私も初めは褒めてしまった)。しかしそれは間違いだ。なぜなら、彼女にとって70点が「褒めてほしい点数」なのかどうかは、この時点では分からないからだ。褒めてしまった皆さんの心の中に、「70点はいい点数だ」という「思い込み、先入観」があり、それを彼女に押し付けてしまうことになる。彼女はいつも100点近く取っていて、今回の70点に悲しい思いをしているのかもしれないのだ。自分の「思い込み、先入観」を押し付ける行為は、キャリアカウンセリングで最も避けなければいけないことだし、日常生活でも注意を払うべきポイントなのだ。

なお、キャリアカウンセラーとしての回答例はこちら。さて、皆さんの答えと比べてどうだったろうか。

もうひとつ「素直」であるために必要な「感情的にならずに前に進む力」について考えてみたい。この力には、アメリカの臨床心理学者であり、論理療法の創始者であるアルバート・エリス氏が提唱したABC理論が参考になる。以下の課題をまず考えてみよう。

<課題>
恋人とカフェに入り、ホットコーヒーを頼んだところ、店員は返事もせず無愛想な表情で注文を受けました。あなたはその振る舞いに怒りが込み上げ、少し大きな声で

「注文、聞こえてないの?」

と言ってしまいました。
さて、なぜ「怒り」が込み上げたのでしょうか?



日常でもよく起こり得る光景だ。皆さんにも経験があるかもしれない。ポイントは、この「怒り」は店員に向けられたのではなく、自分の中にある「信念(Belief)」、つまり「店員は丁寧に注文を受け取るべきだ」という「信念」が覆され、怒りが込み上げたのだ。よってエリスは、図のようにこの「信念」を合理的に転化すれば、心を平静に維持できると指摘している。

もちろん「信念」は困難な仕事をやり遂げたり、また仕事を選んだりする上で必要不可欠なものでもある。しかし、「信念」が強過ぎて視野が狭くなったり、素直に相手の話を聞けなくなったりすると、それは「思い込み、先入観」へと転じ、悪さをしてしまう。そんな自らの「信念」のもろさを理解し、コントロールする。そうすれば採用面接で屈辱感を味わったときだけでなく、辛い仕事や嫌な上司に対峙したときでも、感情が高ぶったり落ち込んだりせずに、前に進めることだろう。

アルバート・エリスのABC理論

アルバート・エリスのABC理論

国分康孝著『カウンセリングの理論』をもとに筆者作成

以上のように、「信念」が強ければ強いほど、他者から新しい情報を受け取ることが阻害され、感情を高ぶらせてしまって「素直さ」が見失われることがあると分かる。この視点に立てば、新卒の学生に対し企業が「素直さ」を求めている理由も理解できるだろう。そもそも新卒の学生に職歴はない。企業が彼らに期待しているのは、「専門知識」や「スキル」ではなく、「ポテンシャル」なのだ。仕事に必要な「専門知識」や「スキル」は入社してから習得すればよい。問題は「素直に」それらを習得できるかどうかだ。「信念」が必要以上に強過ぎてコントロールできない学生ほど、「素直に」仕事を習得できないのではないかという懸念が生まれてしまうのだ。

最後に「素直さ」を高めるために必要な、「人の話を聴ける力」を向上させる秘訣を示そう。特に就職活動中の学生は、面接やグループディスカッションで心掛けたいところだ。

  1. 相手にへそを向ける
    相手の言葉を真正面で受け止めていることを態度で示す。
  2. うなずく
    1.と同じ。「しっかり聞いています」と態度で示す。
  3. リピートする
    相手が問い掛けたことを復唱する。電話応対の基本でもある。
  4. 言い換える
    話し手が話したことを違う言葉に置き換えて確認してみる。より立体的に課題を共有することができる。
  5. 要約する
    話し手が話した内容を変えずに要約して伝えてみる。上司の指示や取引先からの依頼も、要約して確認する癖をつけると、仕事のミスは格段に減る。

重要なことは、1〜5の秘訣すべてが、自分の意見を押し付けていない点だ。なお、人の話を聞けた「証し」は、相手が「そうそう」と応えることだ。この言葉は傾聴できた人への、最大の賛辞だと理解しよう。

次に、「信念をコントロールする力」を身に付けるワークを紹介する。「カンバセーション・カフェ」と呼ばれるワークショップだ。内容は至ってシンプル。カフェ形式に小人数のグループに分かれ、一つのテーマ、例えば「地球温暖化」「幸せ」「将来の夢」「創造性」「別れ」などについて話し合う。ただし、大切なルールが2つある。

  1. (相手の人格を)否定しない
  2. 話を途中で遮らない

特にルール 2 は「トーキング・オブジェクト」(以下TO)を用いることで強化される。話し手はTOを持って話し、話し手がTOをテーブルに置くまで、話し手以外は誰も話してはならない。結果として話す時間が均等になり、さらに最後まで話をじっくり聞く訓練となる。私も「カンバセーション・カフェ」に参加してみたが、途中で質問を繰り返さなくても、話し手は最終的には聞きたいことを話してくれることを再確認できた。つまり、最初は違和感を持った意見でも、腰を据えてじっくり話を聞くことでそしゃくできることを知った。今までいかに無駄な早とちりをしていたかを、知ることができた。ぜひ皆さんも機会があれば参加してみてほしい。身近に機会がなければ、友人とTOを使ったディスカッションを試みてはどうだろうか。「信念をコントロールする力」が少しずつ身に付くはずだ。

ノンフィクションライターの沢木耕太郎氏は、『Coyote No.8〜「深夜特急」ノート』の中で以下のように述べている。

「私が未知の外国を旅行するときにほとんどガイドブックを持っていこうとしない理由は、できるだけ素のままの自分を異国に放ちたいからなのだ。放たれた素のままの自分を、自由に動かしてみたいからだ」

ガイドブックは、旅立つ前につくり上げた旅への「先入観」であり、言い換えれば過去の自分がつくり上げた「思い込み」だ。「先入観」が旅での新鮮な感動を薄めるように、自らの「思い込み」がかえって自らの飛躍の足かせとなる。

素のままの自分を放つ勇気を、決して失ってはならないのだ。

(文:見舘好隆)

一橋大学大学院にて、キャリアデザイン担当特任講師を務める見舘好隆氏(元ワークス研究所客員研究員)が、社会で働く上で必要とされる力「基礎力」を身に付けるためのポイントを、自らのカウンセリングや研究経験を踏まえながら、連載形式で紹介していきます。「基礎力」を向上させたい大学生や若手社員の皆さん、キャリアカウンセリングに携わる方々にお読みいただきたい企画です。
(2008年8月6日掲載)


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