
今までのコラムにも書いてきたが、キャリアカウンセリングのコツは、関係構築の後に、自ら答えを導き出すようコーチングし、行動へとつなげることである。実際に行動させるために「コミットメント」させたり、「ポジティブなピア・プレッシャー」に飛び込ませたり、小さな成功体験(スモールステップ)を積ませたりして、背中を押す。
しかし、ここに一つ大きな問題がある。実際に行動を起こしたとしても、その行動から何かを学べていない学生がいるということだ。経験から何かを学ぶ、つまり実践体験を振り返り、その後の活動に役立つと思われるエピソードを抽出するプロセスを、「リフレクション(省察、振り返り)」と呼ぶ。このリフレクションを無意識に実行できる癖がついているかどうかが、経験から学習し、成長に結び付けることの鍵となる。学んだことを抽出し言葉にできなければ、後に生かすことが難しくなるからだ。
米国・ケースウエスタンリザーブ大学の組織行動学者、デービッド・コルブは、以下のように経験学習モデルを定義している。
経験学習モデル
出典:David A. Kolb(1984)Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Developmentに筆者が一部加筆
就職活動中の学生が、「面白そうな会社が見つからない」「やりたいことが見つからない」と悩んでいる状況を、このモデルに当てはめてみよう。
(1)
実践のステージ
とりあえず何かを学ぼうと行動するステージ。会社説明会に出席したり、社会人と会ってみたり(先輩訪問)、就職に関するセミナーや勉強会に参加したりを指す。今「このコラムを読んでいること」自体も、実践のステージの一つといえる。
(2)
経験のステージ
経験を経験だけに終わらせず、「何かを学び取ろう」と集中するステージだ。会社説明会であれば講師が話す内容をメモする、もしくは記憶に刻むことだろう。先輩訪問も同じだ。今このコラムを読んでいる間も「何か役立つことはないかな」と集中することだろう。いくら経験しても、学ぼうと意識しなければ、後で省察(リフレクション)ができない。
(3)
省察のステージ(リフレクション)
経験後、その中から役立つフレーズを抽出するステージだ。会社説明会であれば講師の話で面白いと思った部分を書き出したり、メモしたのであればそれをまとめてみたりする作業だ。もちろん話の内容以外にもイベントの進行や演出、さらにそれを運営していた社員の気働き、同席したほかの学生の行動も含めて思い出して書いてみるとよい。このコラムであれば、役立つ部分をノートにメモしたり、プリントアウトしてアンダーラインを引いたりすることを指す。
(4)
概念化のステージ
経験で学んだことをただ記録しても、すべてを暗記できるものではない。抽出したものを自分のセオリー(マイセオリー)として言語化し、次の実践のステージで試せるようにする。会社説明会であれば、「出席した学生の質問の仕方が上手だった。明日の会社説明会でまねしてみよう」。先輩訪問なら「ピンときてメモしたことを振り返ると、『新しいコトに挑む』内容であることが多い。私がやりたいことはこれかもしれない。この言葉でキーワード検索をしてみよう。友人・知人にそんな会社を知らないか聞いてみよう」となる。このコラムでいえば、「使えるな」と思った部分を実際に「やってみよう」と意識することだ。
(5)
再び、(1) 実践のステージ
今度は「ただやってみる」ではなく、(4) で獲得した「マイセオリー」を実践する。
以上は就職活動中の学生を例に挙げたが、勉強に当てはめれば復習がリフレクションであり、映画観賞なら友人と感想を話し合うことがリフレクションだ。仕事においても毎日リフレクションするネタはたくさんある。例えば「アクションラーニング」は、この経験学習モデルのワークショップ版といえる。リフレクションを日々意識して実行することと、その後にマイセオリーを紡ぎ、実践することが大切なのだ。
次にリフレクションを無意識に行う癖を身に付けられる、簡単なアクションを紹介する。いずれも私がキャリアカウンセリングをする時、学生に勧めて実績を挙げている方法だ。
(1)
「日刊オレ」
ノートと鉛筆を枕元に置き、毎日寝る前に「学んだこと」を一言でいいから書く。ポイントは「日記」ではなく、「日誌」を書くこと。つまり、「ラーメン二郎仙川店でラーメンを食べた」ではダメで、「ラーメン二郎仙川店で"めん少なめ"を頼むなら並んでいる間にする」のように、あくまでも学んだ「知恵」を書くようにする。これを3カ月ほど続けると、「やりたいことがない」と悩んでいた学生も「アンテナの感度」が飛躍的に向上し、すんなりと「やりたいこと」を見つけてくる。もちろん、ブログに書いても構わないが、枕元のノートの方が誰にも見られない分書きやすい。詳しくは
『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(嶋浩一郎著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)を参照いただきたい。
(2)
一番前に座る・必ず質問する
社会人・学生問わず、セミナーや会社説明会、授業、英会話学校などで実践してほしい。「一番前に座る」と、講師とたまに目が合うから居眠りは絶対にできないし、しっかりと聴かなくてはならないというプレッシャーが生まれる。さらに「必ず質問する」と決めておくと、話をよく聴いていなければ質問はできないので、自然に集中して聴くことができる。
(3)
「省察メール」
初対面で名刺をもらったら必ず実践して欲しい。もちろん初対面でなくても構わない。ただ「お疲れさまでした」「ありがとうございました」と書くだけでなく、今日の出会いから「何を学んだのか」を必ず添えてメールを送るのだ。この「省察」をメールに添えることで、いつでも省察する癖が身に付き、さらにメールとして蓄積した省察を後で検索もできる。メールをもらった相手も喜び、さらなる知己を紹介してくれるかもしれない。
どの作業も、一つ一つのアクションはそんなに大変なことではない。だまされたと思ってやってみて欲しい。
経験から置き換えた知恵の数が、ある程度の数、すなわちTipping Point(ティッピング・ポイント)に到達したとき、「学ぶこと」が自在となる。その瞬間、君の可能性は無限となるだろう。
(文:見舘好隆)
一橋大学大学院でキャリアデザイン担当特任講師を務める、ワークス研究所前客員研究員・見舘好隆氏が、社会で働く上で必要とされる力「基礎力」を身に付けるためのポイントを、自らのカウンセリングや研究経験を踏まえながら紹介していきます。「基礎力」を向上させたい大学生や若手社員の皆さん、キャリアカウンセリングに携わる方々にお読みいただきたい連載です。
(2008年6月6日掲載)
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