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「自分探し」「自己分析」「やりたいこと」「自分らしさ」――就職活動中の学生からの相談で、よく聞く言葉だ。リクルート「就職ブランド調査2007」でも、大学生の「企業選択の視点」のトップは「やりたい仕事ができる」である。就職活動に対峙するとき、彼らは必死に「自分」「やりたいこと」を探す。「どうすれば見つかりますか?」と質問してくる。そこで私は決まってこう答える。「自分の中に答えがないから、見つからない。たとえあったとしても、それを表現する素材、語彙が足りないのでしょう。では、どうしたらいい?」すると彼らは「外に探しに行かなくてはならない」ことに気付く。しかし、ただ当てもなく探すのは効率的ではない。「自分探し」の手掛かりとは、いったい何なのだろうか。
そのヒントを文章表現などのインストラクター、山田ズーニーさんは、著書『おとなの進路教室。』の中でこう語る。「やりたいことは、人とのつながりの中に見つけていくしかない。人とつながりたいなら、自分の中にあるものを出して、表現するしかない」。つまり、「自分探し」とは、自分を正しく他人に表現し、他人からのフィードバックから素材や語彙を得、つくり出して行くことなのだ。この「自分を正しく他人に表現する」ことは、「アサーション」と呼ばれる。今回はこのアサーションについて触れてみたい。
カウンセリングの中で学生はよくこんな話をする。「自分と考えが合う人に対しては、自分の考えをどんどんぶつけていける。でも自分の考えと合わない人には感情を出さない」。決して高慢で他人の気持ちが分からない学生ばかりではない。他人に配慮しているからこそ、「感情を出さない」というやり方を意識しているのだ。問題は、このように「心のスイッチ」を使い分けてしまう点にある。それでは、考えが合わない人に自分を理解してもらうことは、非常に難しくなってしまう。新しい考え方を得る可能性が高い人たちから、ヒントを得る機会を減らしてしまう。考え方が違う人に対しても、正しく自己表現をする方法。それがアサーション(さわやかな自己表現)なのだ。
自己表現には以下の3つの方法がある。
| 分類 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| (1) 非主張的 (non-assertive) |
自分を抑えて、相手を立てる。文字通り、「黙る」「譲る」「言いなりになる」「とりあえず波風を立てない」「自分を軽視する」自己表現 言い換えれば「自分を他人に知らせていない」状態 |
欲求不満になる (キレる) (うつになる) |
| (2) 攻撃的 (aggressive) |
文字通り、「言いたいことを言う」「自分を通す」「相手を尊重しない」「相手を操作する」自己表現 言い換えれば「相手の気持ちを考えない」状態 |
孤独になる (一時的な自己満足に走る) (後味の悪い思いをする) (友達から敬遠される) |
| (3) アサーティブ (assertive) | 「相手の言い分にも耳を傾けつつ、自分の気持ち、意見を述べる」自己表現 | 欲求不満にも、孤独にもならない |
例えば、学生がゼミで意見を発表したとしよう。(1) の自己表現は他人からの反対意見にただ黙って従うことを指す。それではその学生はメンバーに何も理解されないことになり、きっとストレスをため込んでしまうだろう。(2) の自己表現は、自分の意見を押し通すことを指す。それではメンバーから「あの人には何を言っても無駄だ」と呆れられ、自らの意見を改善する即時フィードバックを受けられなくなってしまう。
だから目指すべきは、(3) の自己表現となる。つまり「相手の意見を傾聴し、それを踏まえた上で自分の意見を伝える」ことが、自らを成長させるのだ。皆さんも、相手の話を聞きながら自分の意見を随時修正し、相手がその意見を受け入れたときにこそ、胸がすく思いを感じたことだろう。妥協したわけでも、押し通したわけでもなく、相互が前向きに意見を交わし、最初の考えよりレベルアップした考えを得たときが、自らが成長した瞬間なのだ。逆にいくら他人と会話を重ねても、双方が自分の意見に執着したままだとすれば、その会話は双方にとって無意味なものとなりかねない。
就職活動における面接でのコミュニケーションでも同じことがいえる。面接担当者は応募者とやりとりしながら、自社が求める力(人材要件)を備えている人物かどうかを探っている。応募者は自己PRや志望動機で、自らが持つ力を伝えようと努力する。採否のポイントは、コミュニケーションの過程で、面接担当者の発する言葉の意図を、応募者が的確に把握し、その意図に応じて自らを主張し、相手の「求める力」を表現できるかにかかっている。会社の求める力が数値で測定できるようなものではない以上、求める力を的確に伝えるプロセス、自己表現する力によって採否は決定されるといえる。
さて、どうすればアサーティブな自己表現が実行できるのだろうか。その方法の一つが、平木典子氏が著書『アサーショントレーニング』で紹介する、「DESC法」で話すことだ。
| D= Describe 描写する |
対応しようとする状況や相手の行動を、自分の気持ちや感情を交えずに客観的事実として描写する |
| E= Express 表現する |
状況や相手の行動に対する主観的気持ちを表現する。特定の事柄、言動に対する自分の感情や気持ちを、冷静に、建設的に、明確に述べる。 |
| S= Specify 提案する |
相手に望む行動、妥協案、解決策などを具体的に挙げる。具体的、現実的で、小さな行動変容につながるような、明確な提案をする |
| C= Choose 選択肢を示す |
肯定的結果と否定的結果を予想し、それに対してどういう行動をするか選択肢を考える。その選択肢は、具体的かつ実行可能なもので、相手を脅かすものではない |
DESC法の例を挙げる。以下のケースで、皆さんなら恋人に、どう話し掛けるだろうか。
ケース:恋人がデートの待ち合わせに30分遅れた
目的:恋人が反省して二度と遅刻をしないように仕向ける。
| 回答例 | 自己表現の分類 | 推定される結果 | |
|---|---|---|---|
| (1) | 黙る。 (心の中では察してほしいと願っている) |
非主張的 (non-assertive) |
恋人は反省しない |
| (2) | いつも遅れてきて! いい加減にしてよ! |
攻撃的 (aggressive) |
逆ギレされる恐れがある 言い訳をする余地を与える (仕事が忙しくてなど) デートは後味の悪いものになる |
| (3) | 30分遅れたね(D) とても寂しかった。どうすればもっと長く一緒の時間を過ごせるかな(E) モーニングコールしようか(S) (恋人が了承したとき) ありがとう (了承しなかったとき) なるほど。でも少しでも長く一緒にいたいから……。じゃあ、目覚まし時計を買いに行こうか(C) |
アサーティブ (assertive) DESC法 |
遅刻したことで、相手が寂しい思いをしたことを理解する さらに提案してきた気持ちに応えようとする |
このように、黙ってしまったり(非主張的)、感情的になったりする(攻撃的)より、DESC法を用いたアサーティブな自己表現の方が、「恋人が反省して二度と遅刻をしないよう仕向ける」という目的の達成には、より効果的ではないだろうか。
上司が部下の失敗に対処する場面や、学生が面接で難しい質問を投げ掛けられた場面でも、同様のことがいえる。非主張的な自己表現を用いる「心のスイッチ」は、一部の場合を除きあまり使うべきではない。「心のスイッチ」を使い分けるのではなく、どんな人に対してもアサーティブな表現を用い、自らの考えを正しく伝え、即時フィードバックを得る努力をすることが、「自分」や「やりたいこと」を見つけるために、最もふさわしい行動だといえる。
暗闇の中で、コウモリが超音波を出し、そのエコー(反響)で自らの位置を判断する能力をエコーロケーション(反響定位)という。自らの将来を模索するとき、人は「キャリアの霧(キャリア・ミスト)」の中で途方に暮れる。「自分」「やりたいこと」も同様に、自分を正しく相手に伝え、フィードバックを得ることで、その答え(キャリア・ホープ)に近づけるのだ。
(文:見舘好隆)
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