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ワークスの客員研究員として、去年、マクドナルドの人材育成について研究した。まずマクドナルドが新規採用したアルバイトが、どの基礎力*を向上させているかを測定し、次に基礎力を成長させていたアルバイト20名に約1時間インタビューし、基礎力を向上させたと考えられるイベントと、向上を促進させた行動持続要因を抽出していった。
このインタビューがなかなか難所だった。何かと物騒な世の中だ。なかなかアポが取れず、関東一円のマクドナルドを駆け巡ることになった。大学の仕事が終えてから急いで店舗に向かい、終電で帰途につく日々を繰り返した。インタビュー内容そのものは「目から鱗」な発見が多かったが、「なぜマクドナルドのアルバイトの人たちは、こんなに生き生きと成長を目指せるのか?」という、軸となる疑問に迫るヒントがなかなか見出せずにいた。
千葉県佐原市のマクドナルドでのインタビューの後、昼食をとった鰻屋で読んだ雑誌に、偶然そのヒントは見つかった。脳科学者・茂木健一郎氏が、『読売ウィークリー』の連載「脳から始まる」に記した一節だ(2006年12月24日号)。 「人間は、周囲の人間からピア・プレッシャー*を受ける。ピア・プレッシャーの多くは『出る杭は打たれる』的な同化圧力として作用する。そんな中で自らの個性を貫くのは難しい。しかし、同好の士が集まる場所ではピア・プレッシャーの方向性が逆転する。差異を消すのではなく、むしろ拡大する方へ。個性を殺すのではなく、さらに輝かせる方へ。趣味を同じくする人々と繋がることで魂が自由になるからだ」
個性を殺す同化圧力ではなく、むしろ個性を伸ばし基礎力の成長を促す圧力、「ポジティブなピア・プレッシャー」を、組織・コミュニティで意図的に生み出すことが出来れば、素晴らしいことだ。ではどうすればポジティブなピア・プレッシャーは生まれるのだろうか。マクドナルドでは、なぜそれが生まれているように感じられるのだろうか。
先日、別の場面で私自身もポジティブなピア・プレッシャーを体験した。勤務先の先生のはからいで、東京工業大学の大学院のゼミに参加させてもらい、研究中のテーマについてゼミ生に向けて発表させてもらう機会を得たのだ。「○○の定義があいまいだ」「ここの表現はおかしい。○○と言い換えてはどうか」「アンケートから○○を補うデータを引き出せばよい」など、先生やゼミ生たちに、私の発表はコテンパンにされた。いつもなら落ち込む場面なのだが、なぜか心が浮き立ち、ワクワクした。コテンパンが気持ちいいことを、初めて知った。
マクドナルドのアルバイトと、私が経験したゼミでの発表、また茂木健一郎が指摘する「同好の士が集まる場所」に、共通している点は4つある。
このポジティブなピア・プレッシャーの発現を図式化すると、以下のようになる。

注目したいのは「十分な準備をして臨んでいる」点だ。考えてみれば当たり前だが、十分な準備をしているからこそ、その機会から学ぼうとする覚悟が生まれ、厳しいフィードバックにも対応できるのだ。
古代ローマの思想家・セネカは語る。「君の準備が出来ていて、そして機会が訪れるとき、君はそれを幸運と呼ぶ」。読者の皆さんも機会に臨む時、十分な準備をできているだろうか。自らの基礎力を成長させる秘訣は、実は機会に望む前の準備にあるのではないかと、私は考えている。
(文:見舘好隆)
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