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基礎力の伸ばし方

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こんぴら狗とコミットメント


先日ある人から『こんぴら狗(いぬ)』の話を聞いた。その犬が「金刀比羅宮 書院の美展」(東京芸大美術館、9月で終了)に来ているというので、急いで会いに行ってみた。こんぴら狗は明治以前、江戸を中心とした関東地方で見られた習俗で、こんぴらさん(讃岐(現在の香川県)・金刀比羅宮)に参拝を望みながら、経済的理由などでそれが叶わない人々が、飼犬を自らの代わりに参拝させたものだ。犬の首には、飼い主の住所と名前を書いたお札・お賽銭・エサ代が入った袋が下がっている。旅人がかわるがわるその犬を世話し、金刀比羅宮まで連れて行く。帰りの道中も旅人に助けてもらい、飼い主の元へ御利益のお札を持ち帰ったそうだ。なんとも心温まる話だ。

こんぴら狗の置物
こんぴら狗の置物。
首に袋がぶら下がっています。

大学でキャリアカウンセリングに携わっている私は、『こんぴら狗』の姿と、今の大学生を重ねて考えてしまった。彼らはこんぴら狗のように、自らの目標を周囲の人へ明確に伝えているだろうか。伝えることを逆に嫌がってはいないだろうか。

私は大学で、1・2年生を中心対象者としたキャリアカウンセリング*を行っている。履歴書の書き方や面接のアドバイスなど、いわゆる就職活動指南ではなく、大学生活を有意義に過ごすための支援だ。もちろん、大学生活における経済的、心理的な問題に関する相談もあるが、「今、将来のために何をすべきか?」という相談が大半を占める。

こうした相談には、もちろん用意された答えはない。なぜなら、学生が進む道は学生の数だけあり、そしてどの道へ進むのか、そのために今何をすればいいかは、学生自身が決めることだからだ。カウンセリングでは、まず「ラポール(信頼関係)」を構築し、「コーチング」の手法を用いながら、学生自身の中から答えを引き出していく、もしくは学生自身による答えの創造を支援する。

図解すると以下のようになる。

キャリアカウンセリングのプロセス(筆者作成)

  1. ラポールの構築…ひたすら相談者の話を傾聴する。カウンセリングの大半を占める。
  2. 目標の確認…傾聴しながら明確にしていく。提案はしない。明確に出来ない場合は、「目標を見出す」こと自体が目標となる。
  3. 自分の確認…傾聴しながら明確にしていく。提案はしない。ここでR-capなどのフォーマルアセスメントや、カードソートなどインフォーマルアセスメントを使うことが多い。
  4. ギャップの確認…傾聴しながら明確にしていく。提案はしない。ここで目標に対し向上させるべき基礎力*を確認する場合が多い。
  5. アクションプラン…選択肢を出してもらう。足りない場合は提案するが、決して指示はしない。自ら意思決定しなければ、行動には繋がらないからだ。
  6. 意思の確認…アクションプランを確実に実行するための最後の支援。

このプロセスで一番難しいのは、言うまでも無く最初の関係構築だ。信頼関係無しに学生は自らの目標も、自らの現在も話してくれないからだ。このステップさえスムーズに越えれば、2〜6は大体うまく行く。だがカウンセリングで立てたアクションプランを実行するか否かは学生次第だ。行動なくしては、目標達成に必要な知識も基礎力も身に付かない。行動力のある学生や、自信を持つ学生なら、自らが立てたアクションプランをきっと実行するだろう。だがやはり出来ない学生は出来ないものだ。なぜならプランを実行しなくても、誰に叱られるわけでもないからだ。実行を促す支援にはいろいろな方法があるが、その一つがコミットメント(約束)だ。

コミットメントとは、組織行動学の定義でいえば、自らが掲げた目標そのもの、もしくはその達成へ、責任を持って挑む姿勢を指す。キャリアカウンセリングにおける、最後のステップがこのコミットメントだ。コミットメントを結ぶことには二つの意味がある。一つは実行する意思を揺るぎないものすること。もう一つは周囲の理解と支援を得ることだ。特に家族や友人・知人にコミットメントの内容を明らかにしておけば、行動が理解されて応援してくれたり、逆にチェックされたりされることによって確実に行われ、進んだ分その学生は確実に目標に接近するだろう。

たいてい学生は、コミットメントを進んで明らかにはしないものだ。目標が達成できなかった時、周囲に対し格好悪いと思うからだ。設定した目標にすぐ自信が持てないことや、失敗した時プライドが傷づくことを恐れる気持ちは理解できる。だが目標や夢を周囲に語らなければ、周囲の理解も支援も得にくいだろう。これは就職活動でも同様だ。志望する企業や仕事を周囲に語ることで理解や支援を得られ、様々な情報が集まってくる。志望企業に内定した先輩を誰かが紹介してくれるかもしれない。目指す仕事に就いている社会人を紹介してもらえるかもしれない。就職活動における希望やキャリアプランを、周囲の支援がまったくない中でかなえていくことは難しい。

私のカウンセリングでも、最後にコミットメントしてもらう。そして約1カ月後、アクションプランの進捗を報告する機会を作ってもらっている。数回この作業を続けると、学生は、私だけでなく友人や家族にもコミットメントをし始め、確実に行動するようになっていく。

「こんぴら狗」も「こんぴらさんに行く!」という目的を周囲に明示しているからこそ、周囲の旅人から適切な支援を得て、目標を達成できるのだ。自分の目標や夢を周囲にわかりやすく語る勇気こそ、自分の夢を叶えるための大切な第一歩なのだ。

首都大学東京でキャリアカウンセラーを務めるワークス研究所前研究員、見舘好隆氏が、社会で働く上で必要とされる力「基礎力」を身につけるためのポイントを、自らのカウンセリングや研究経験を踏まえながら、連載形式で紹介します。「基礎力」を向上させたい大学生や若手社員のみなさん、キャリアカウンセリングに携わる方々にお勧めの連載です。
見舘好隆(みたて・よしたか)
首都大学東京・学修カウンセラー。湘南短期大学非常勤講師。元ワークス研究所客員研究員。1967年京都府生まれ。関西大学文学部・立教大学大学院ビジネスデザイン研究科卒業。旅行会社の人事、インターネットプロバイダのプロデューサーを経て現在に至る。オールアバウト「大学生のキャリアプラン」のガイドも務める。
(2007年10月26日掲載)


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