Works Web Special特別企画Vol.2 障害者の力を生かすマネジメント

 人材育成は企業にとって重要な戦略の1つだ。社員を育て、より大きな戦力として活用することで利益を生み出す。では、障害のある社員の能力開発はどうなっているのだろうか。 今回は、障害のある社員を、どのように育て戦力化していくかについて考えてみたいと思う。
議論の前提として、障害者雇用促進法と法定雇用率制度の存在を確認しておく。法律は、障害のある人が働く機会を保障している。

第1回 高崎健康福祉大学 健康福祉学部医療情報学科
准教授 眞保智子(しんぼ さとこ)氏

障害者の力を生かすには
仕事とのマッチングが鍵

「障害者雇用は、重要な経営戦略の1つであり、経営思想を体現するものです」と高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科の准教授・ 眞保智子氏は語る。 眞保氏の専門は労働問題や仕事現場における能力開発、キャリアデザイン。若年者の雇用や障害者雇用をテーマに研究活動をしている。

日本社会は少子高齢化が進み、現行の水準を維持するならば、社会保障給付の増加は避けられない。一方で、就労人口が不足し、社会保険料収入や税収が減れば、社会保障給付は縮小していかざるを得なくなる。社会保障の支え手を増やすことが喫緊の課題であり、そのためには就労可能な人の労働力をできる限り活用していくことが望まれる。
ハローワークによる平成19年度における障害者の職業紹介状況(図1)を見ると、障害者の求職申込件数は年々増加する傾向である。
「障害のある人たちが働きたいという欲求を持っているのならば、その欲求を社会に取り込んで生かしていく。苦手な部分を補う支援をするのが福祉ならば、経済学の発想は、相対的に『得意な部分』に注目して、その力を生かすことなのです」と眞保氏は語る。

雇用増加にブレーキをかける、管理への不安

2010年の「障害者雇用状況集計結果」(厚生労働省)によれば、従業員1000人以上の規模の企業の法定雇用率達成割合は55.6%(図2)。実雇用率も1.9%と急増した(図3)。
背景には2000年以降に企業の不祥事が相次ぎ、コンプライアンスが叫ばれ始めたことがある。障害者雇用率を株主総会で質問されるなど、株主の意識も高まってきた。
また、障害者の雇用に関する法律が整備されてきたこともある。2002年、障害者雇用促進法の一部改定によって、特例子会社(*1)の認定条件が緩和された。2006年には障害者自立支援法が施行され、就労後も生活支援には福祉的なサービスが受けられるようになった。

「しかし、このまま障害者の雇用が急拡大していくとは考えにくい」と眞保氏は語る。理由の1つとして、眞保氏は、身体障害者の雇用の頭打ちを指摘する。
身体障害者については、1960年に身体障害者雇用促進法が制定され、1976年に雇用が義務化された。知的障害者や精神障害者よりも制度が先行していたことで、働ける身体障害者は労働市場に既に出ている。制度から50年が経過したことで、定年退職の問題も聞かれるようになってきた。
地域的な偏在もある。前述のように、近年、大企業は雇用を拡大しているが、こうした企業の所在地は大都市圏であることが多い。限られた地域で多くの企業が、同時期に身体障害者を雇用しようとするので、労働供給が不足しているのだ。
今後は知的障害者や精神障害者を積極的に増やしていく必要があり、実際に雇用は漸増傾向である(図4)。
また、増えたとはいっても、1.8%という法令順守の意味合いでも、大手企業の半数しか達成していないのが現状だ。

眞保氏が関わった「企業経営に与える障害者雇用の効果等に関する研究」(2010)(*2)でも、障害者を雇用した際の効果として、企業の社会的責任(CSR)の遂行、法令順守、障害者雇用納付金の支払いの軽減および解消を挙げる企業は多かった。一方で、多くの企業が、障害者の管理や雇用に不安を抱えていることも明らかになった。「生産性への懸念」や「人間関係に対する不安」「仕事を見出す困難さ」「物理的環境整備の必要性」などである。さらに、これらの課題に対する不安は、雇用が進展していない企業ほど大きい傾向にあり、実際に雇用し戦力化していく過程で不安や懸念が軽減していくことが分かった。

戦力化の鍵は仕事とのマッチング

「障害者が戦力となって企業の利益に貢献することが、障害者雇用を促進する最善の策であり、そのためにも先行する企業の取り組みが、公開されることが望まれます」 と眞保氏は語る。
本企画でも何社か紹介していくが、先に共通する特徴を挙げておきたい。
①経営トップが障害者雇用に理解があり、経営方針として推進している②社内や現場の理解を醸成するために、現場の管理者を経営トップが支持している③企業が、障害者を戦力化するための仕事を見いだしている④さらなる戦力化のための技能形成や職域拡大に企業が積極的である。また、それを促進する評価と報酬の仕組みづくりがある。
上記をみると、障害者にマッチングする仕事を開拓できるかが、戦力化の鍵と言えるだろう。

眞保氏は「マッチングには、2種類の専門家が必要」と語る。
1つ目は、障害者の職場適応を支援する福祉系の専門職だ。障害者の生活や家族に関わる支援も行う。これは必ずしも社員でなくてもよく、近年では、社外の就労移行支援施設などの職員と連携する企業も増えている。
そして2つ目が、グループ企業のビジネスを熟知し、多くの人脈や仕事経験を持つ人材だ。現場の管理者となって、仕事の開拓や仕事の受注を担う。
「障害者の力を発揮できる仕事を見つけたからといって、発注してもらえるかは別問題です。特例子会社の場合はとくに親会社とのコミットメントが重要です」(眞保氏)
仕事の切り出しには、必ず業務の再設計がともなう。仕事を熟知し、組織での様々な力学を知っているからこそ、仕事を受注できるのだ。
仕事をどう切り出してもらうか。多くの現場管理者が腐心するところであるが、仕事開拓の切り口は『比較優位にもとづく分業の利益』(*3)によって考えるべきだと眞保氏は言う。
「人は誰でも相対的に得意なものを持っている。これを見いだし、その力を生かしていく、これが『比較優位』の考え方です。重要なことは、他者との比較で優位となる『絶対優位』ではなく、相対的に優位であることに注目することです」(眞保氏)
たとえば、パソコン入力が得意な障害者がいれば、その分野の仕事を開拓する。入力の速さや漢字が読めるかなど、健常者との比較で考える必要はない。健常者と障害者がそれぞれ得意な仕事に取り組む。その上で、障害者が担当した方が、企業全体としては利益が出る、効率的である、ということをアピールしていくべきだという。その際は、初期訓練コストを企業と社会がどのように分担するのか、議論をしていく必要がある。

「ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のゲイリー・S・ベッカー教授は、『差別』の経済学な捉え方として『自らの偏見を満たすために自発的に利益を捨てること』としています。ある分野で発揮できる能力がある障害者に、障害者に対する偏見から仕事を与えないとすると、利益を捨てることになるのです」と眞保氏は語る。
障害者を雇用し、戦力化することで、企業やグループ全体の効率を上げ、利益に貢献する。その事実によってこそ、障害者の雇用が促進されるのだ。

(*1)特例子会社とは、障害者雇用促進法に基づき、一定の要件を備え、厚生労働省が認可した子会社。子会社で雇用した人数を親会社の雇用率に算定することができる。企業側にとってのメリットは、①障害の特性に配慮した仕事の確保や職場環境の整備など設備投資を集中的にでき、障害者が戦力として能力を発揮しやすい職場を構築できる②能力を発揮できる仕事と環境により定着率が高まることで、生産性の向上が期待できる③親会社と異なる労働条件の設定が可能で、柔軟な雇用管理ができるなど。
(*2)独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センターによる調査。 101人以上常用雇用労働者を抱える企業5000社に対するアンケートと30社へのインタビュー。
(*3)「比較優位」とは、18世紀イギリスで活躍した経済学者デヴィッド・リカードが著書「経済学および課税の原理」で「比較生産費説」として主張した概念。国際貿易の際に、二国がそれぞれ相対的に生産コストで優位となる産物に特化して生産し、不得意な産物を市場で交換することで両国の経済厚生が高まる。

【Text=湊 美和】 

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図1 「平成19年度における障害者の職業紹介状況」より
資料出所:厚生労働省
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図2 企業規模別達成企業割合
「平成22年 障害者雇用状況の集計結果」より
資料出所:厚生労働省
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図3 企業規模別実雇用率
「平成22年 障害者雇用状況の集計結果」より
資料出所:厚生労働省
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図4 「平成21年22年の障害者雇用状況の集計結果」に
基づいて 眞保氏が作成
実人数で集計(雇用率算定の際は、重度身体・知的障害者をダブルカウントし、精神障害者である短時間労働者を0.5とカウントする)
資料出所:厚生労働省
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高崎健康福祉大学 
健康福祉学部医療情報学科
准教授 眞保智子氏

 専門はキャリアデザイン、能力開発、 障害者雇用。主な著書として、『ビジネス実務総論(日本企業の人材開発その仕組みと課題)』(嵯峨野書院)、『精神保健福祉士になる最短合格法』(中経出版)ほか

◆ 『障害者の力を生かすマネジメント』バックナンバー
  第1回 眞保智子准教授 『障害者の力を生かすには仕事とのマッチングが鍵』 
  第2回 伊勢丹ソレイユ 『本業に直結する業務を担うことで特例子会社が親会社の利益創出に貢献』 
  第3回 第一三共ハピネス 『能力を見極め、力が発揮できる仕事を開拓 職域拡大でグループ全体の業績に貢献する』 
  第4回 横河ファウンドリー 『“適材適所”で、社員の能力を引き出す レベルの高い仕事によって、経営を黒字化』
  第5回 コマツ 『全社員が共有する“ノーマライゼーション”  障害者雇用の定石を変える』