ITを活用し、全従業員で情報管理を行うように

大久保「さて、陣屋の改革で大きな柱となったのが、予約管理、売り上げ分析、会計処理、原価管理、アンケート分析などを統合管理するシステム『陣屋コネクト』です。こちら、現在も進化し続けているそうですが、従業員の皆さんはきちんと使いこなせているのでしょうか?」

宮﨑「全スタッフが全ての機能を使いこなしているわけではありません。接客スタッフ、調理スタッフなどがそれぞれ、自分たちに必要な機能を使っている状況です。ただ、そのポジションで必要な機能は、全員が使いこなしていますよ。そもそも、シフト管理や出退勤の打刻をはじめとする全ての業務が、陣屋コネクトなしでは行えないのです。70代のスタッフも、ちゃんとログインして使っています」

大久保「従業員にタブレット端末を配布しているのですね」

宮﨑「はい。例えば、接客スタッフがお客さまの到着をタブレットに入力すると、ほかのスタッフの端末に自動音声で通知が届きます。また、スタッフがデータを入力する際に、音声入力を利用することもあります。タッチキーボードで文字を入力するか、それとも音声入力を使うかはケースバイケース。スタッフ全員が試行錯誤しながら、より良い方法を模索している状況です」

大久保「陣屋コネクトは、従業員の皆さんと一緒に、日々進化しているのですね」

宮﨑「そうなんです。社外に提供している陣屋コネクトのシステムは、年3回程度のペースでバージョンアップしています。しかし、社内向けのシステムは月に2回のペースでバージョンアップを行い、頻繁に機能の追加・修正を行っています。
陣屋では、仕事の進め方がしばしば変わります。それに合わせ、どんどんシステムの中身も変わるのです。従業員はそうした状況に慣れていますし、バージョンアップ時に不具合があってもあまり気にしない。問題が起きても、お客さまに迷惑がかからないように自分たちで工夫し、フォローするのが当たり前という感じなのです。導入から8年ほどで、『新しいものへの拒否感』は、かなり薄れてきたと実感しますね」

経営者自身がITを活用して仕事の進め方を変えよ

大久保「陣屋コネクトは、何軒の旅館で使われているのですか?」

宮﨑「2017年3月時点で、200軒あまりですね。中にはフル活用して業務効率を大きく向上させたところもたくさんあります。一方、導入はしたものの、あまり活用できていないところもあるようです」

大久保「その差は、もしかすると従業員の問題というより、経営者の側にあるのかもしれませんね。IT、あるいは新しい仕組みに拒否反応を示す経営者の下では、陣屋コネクトの利用も進みづらい気がします」

宮﨑「そうなんですよね。従業員に『システムを使え』と号令をかけているのに、自分は一度もログインしていないっていう経営者、意外と少なくないんですよ。
経営者が仕事の進め方を変えなければ、会社は変わりません。ITシステムを入れても、部下だけに押しつけて自分は使わないようでは、やはり効果は上がらないでしょうね」

大久保「そのとおりです。働き方改革について企業経営者からアドバイスを求められることが多いのですが、経営陣が率先して働き方を変えなければ、会社を変えることなどできませんよね」

宮﨑「あと、仕事のやり方を変えると、全体としては業務効率が上がるけれど、特定の部門・担当者の仕事は増えるというケースがあります。こうした場合は、経営者が組織全体を見て交通整理をしなければなりません。各担当者に任せると、自分の仕事の範囲だけでしか考えられないので、調整がうまくいきません」

大久保「逆に、ITシステムを導入すれば、組織全体を俯瞰的に見やすくなりますよね。だから、どこを調整すれば組織がうまく回るか、経営者には分かりやすくなるということですね。

旅館同士で連携してさらなる改革を目指す

大久保「陣屋では、IT活用や業務の見直しなどによって業務効率が上がりました。それによって顧客接点に力を注ぐことができ、顧客満足度も上昇しました。次はどんな改革を考えていらっしゃるのでしょうか?」

宮﨑「今後は、ほかの旅館と助け合いながら、何かできないかと考えています。
例えば、長野の旅館と提携を進めています。こちらは冬が忙しく、夏の稼働率は低い。一方、長野は夏が繁忙期で冬は閑散期です。そうした条件を生かし、互いに助け合うことができると考えられます。また、神奈川県の旅館同士での連携も模索しています。桜前線や紅葉前線の動きに合わせ、箱根の旅館と送客し合うなどが考えられるでしょう」

大久保「離れた地域の旅館と補完し合ったり、近距離で補完し合ったりすると。あるいは、シングルタスクのスタッフが、複数の施設で働く可能性も高まりますね。例えば、清掃専門のスタッフが、複数の旅館を掛け持ちしたりする」

宮﨑「大いにありえるでしょうね。同じ陣屋コネクトを使っていれば、シフト管理の仕組みが共通しています。だから、人員の面で補完し合うこともしやすいはずです。
また、在庫管理や予約管理も連動できるので、共同購買などもしやすいのです。小規模な旅館では、食材を仕入れる際の単価が高くなり、仕込みにも手間がかかります。そのため、陣屋が中心になって食材を共同仕入れし、一気に仕込みを行うなどのやり方も考えられるでしょう」

大久保「1つの旅館の中で料理人を育てるのは、かなり難しいことですよね。仕事の変化はつけづらいし、若手に用意できるポストも限られていますから。その点、複数の旅館が連携すれば、こうした課題も解消できるかもしれません」

宮﨑「陣屋には、多店舗展開する予定がありません。ですから、若手が『いずれは料理長になりたい』と思っても、それを実現できるポストを用意できないわけです。でも、ほかの小規模な旅館と提携し、こちらの2番手・3番手の料理人を料理長として派遣する仕組みを整えつつあります。こうすることで、料理人不足に悩む旅館を手助けすることができますし、料理人にとっても、料理長としての経験を積んで大きく成長することが可能です」

大久保「日本の旅館には、ホテルと異なる魅力があります。一方、旅館の仕事に対して、悪いイメージを持つ人は少なくありません。どこを変えれば、旅館業は多くの人から選ばれる仕事になると思われますか?」

宮﨑「やはり、『夢を持てる仕事』になることが必要でしょうね。従業員が次のステップを目指せる。1つの場所に縛られて働くのではなく、いろいろな可能性が試せる。世界一になれる。そんな夢を持てる仕事になれば、多くの人材をひきつけられるのではないでしょうか。
そのためには、経営者の意識改革が欠かせないと思うのですよ。経営者が古い考え方を捨て、旅館の在り方や働き方を変える。それによって業務効率を高め、きちんと利益を上げる。そうすることで、旅館業が働きがいのある仕事に変わる基盤をつくれるのだと思います」

大久保「確かにおっしゃるとおりですね。私は旅館で働くスタッフが、いずれ旅館を経営できるようになる道をつくることが究極だと思っています。所有と経営の統合も今後進むでしょうし、陣屋コネクトという経営支援があれば、旅館経営にも取り組みやすいでしょう。陣屋コネクトはさまざまな効果を生み出しそうですね。本日はどうもありがとうございました」

(TEXT=白谷輝英 PHOTO=刑部友康)

陣屋の「働き方改革」ストーリー
陣屋の「働き方改革」ストーリーを10のキーワードでまとめると次の4つのSTEPで行われている
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2017年05月17日