人生100年時代 学びの進化モデル 「一次情報」と 「オーナーシップ」を大切に、 自分を繰り返し再創造する

高森昂大氏
freee株式会社
メンバーサクセスグループ Recruiting
新卒採用責任者

高森昂大氏が高校生の頃から思い描いている夢は、「じいちゃんを超える経営者になること」。事業家であり、誰からも慕われる祖父は、高森氏の心に存在し続けているロールモデルだ。その影響から「自分の人生にオーナーシップを持つ」ことを常に意識してきた。

大学生の時、視野を広げようと、バングラデシュでのスタディツアーとベトナムでのインターンシップを経験。これらの機会から得た最大の学びは"一次情報の価値"である。直接見たり、聞いたり、体験したり......現場や人物から得られる一次情報には、高森氏を動かす力があった。手に入れた情報を時間と手間をかけて整理し、内省し、次の行動につなげるという力だ。

現在は、起業家やスモールビジネスを支援するfreeeで、新卒採用責任者の任に就く。就職活動中、自ら取りに行った一次情報の中から考え抜き、選んだ職場だ。「じいちゃんに少しでも近づけるように」と、日々、全力で仕事に向き合っている。

実際に見る、聞く、触れる――得た一次情報を自分仕様の学びに変える

――キャリア観の形成において、お祖父(じい)様の影響が大きかったようですね。

僕は大学受験浪人をしまして、1年間、勉強に集中するために祖父母の家に居候したんです。その時、初めてじいちゃんと"大人同士"として向き合ったというか、彼が経営していた建設会社の話をたくさん聞いたんですよ。仕事を受注するまでの大変さとか、過去にあった社員との軋轢とか、泥くさい話も含めて。リアルな話を聞くと、事業経営には様々な困難があるとよく分かりました。でも、乗り越えてきたからこその強さ、何事をも受け入れる懐の深さを感じて、僕は、経営者である前に、人間としてじいちゃんのようになりたいと思ったんです。だから先の人生を考えると、さほどの苦労経験がない自分に、危機感のようなものを持っていた気がします。

――そういう感覚があって、大学入学後にバングラデシュに渡航されたのですか?

そんなに直接的ではないです。大学で東京に出てくると、目に映るものすべてが新鮮だし、サークルにも入って最初の半年ほどは"ほどほどの学生生活"。楽しかったんですけど、自分の能力が高まるとか、視野が広がるみたいな感覚が持てず......このままずるずる終わってしまうと、何かまずいなって。

それで、あえて厳しいゼミに入り、学んだのがソーシャルビジネスです。事例の1つとして知ったのがバングラデシュ現地での教育事業で、それを興した人は、僕とさほど年の変わらない学生ということもあって興味を持ちました。そうしたら、短期のスタディツアーでバングラデシュに行ける機会があると聞いて、ぜひ参加してみようと。

――学んだこと、気づきとしては何が大きかったですか?

実際に行ってみると、イメージは全然違いました。途上国ですからインフラが整っておらず、経済的に貧しいのは確かですけど、「足りない」ことが必ずしも不幸ではないと感じたんです。皆、何も悲壮感たっぷりに生きているわけじゃないし、子どもたちは目を輝かせている。いつも何かに追われて疲れている日本人と比べてどうなんだろう?と思ってみたり。もちろん一方で、子どもたちには夢があっても多くは高等教育にアクセスできない現実があるので、軽々しい見方はできませんけど。それらをひっくるめて生活する人たちのリアルに触れられたことは、大きかったですね。

気をつけていたのは"現地化する"こと。たとえば、現地の人たちは右手を使って食事をするので、それに倣うとか、何でも郷に入っては郷に従えです。そういう姿勢のほうが得られるものは多いと思います。自分で見た、聞いた、触れたことには納得感があり、理解も進みますから。「一次情報を取りに行くこと」の大切さを身をもって知った経験でした。

自分が「本物」だと納得のいく学びモデルを探し出す

――その後、新興国であるベトナムでインターンシップ体験をされています。日本でのインターン以上に、海外での就業体験は厳しいと思いますが、そのぶん得たものもあるかと。

バングラデシュに行った後、新興国や教育事業に対する関心がより強くなっていたところに、リクルートキャリアが運営するプログラムを知ったんです。しかも派遣先がベトナム。これは面白そうだと思って手を挙げました。

glip.pngベトナムでのインターンシップ
現地で受け入れていただいた企業の代表と。

僕を受け入れてくれた先は日本の現地企業で、ベトナムで幼児教育事業を立ち上げようとしていました。代表の方のモチベーションが強烈に高く、影響を受けましたね。「ベトナムにおける新しい教育事業を考える」という難易度の高い"お題"に取り組み、いろんな商談にも同行させてもらいました。事業をつくるには、相当の覚悟と情熱が必要であることを目の当たりにし、僕は「自分にはまだまだ足りていないし、動けてもいない」と気づいたんです。僕だけでなく、このプログラムに参加した大学生たちは生々しい現地情報に触れて、ときには無力感を味わったり、悩んだり、それぞれあるんですよ。そういう仲間とのセッションで、深く内省する機会を持てたのもよかったですね。

――それから行動に変化はありましたか?

就職を控えていた時期ですから、日本で積極的にインターンシップに飛び込みました。1つはベトナムでお世話になった会社に、そして並行して途上国支援をしているNPOに。ただ結論としては、この両方に、世の中を変えるようなイノベーションを起こすかも、という未来は描けなかったんです。経営陣に情熱はあっても、たとえば「途上国から飢餓をなくす」というとてつもなく大きな課題に取り組むには、メンバーの一人ひとりに理念や情熱が浸透していないと実現は難しいですよね。本気でやろうと思ったら、想像を超える熱量が必要なはずで、この時の僕にはその熱量をメンバーから感じとることができなかったのです。僕自身も、パッションを持てなかったというか。 やはり何事も、実際に経験してみないと分からないという話です。

――ご自分が納得のいく本物の学びモデル、場を求めて行動されている印象です。

意識はしていませんけど、確かにそうかもしれません。やはり僕にないものを持っていて、そのうえで言動が一致しているとか、現状に満足せず、掲げた目標に向けて走り続けているとか、そういう人や組織にすごく興味が湧くんですよ。話を聞く、近くにいるだけで、得られるものがあると思っているので。

成長は「一つひとつをやり切っていく」ことで得られる

――最終的に選ばれた就職先はfreee ですが、ご自身にとって決め手になったのは?

実はfreeeでもインターンをしていて、オファーももらっていたんですけど、いったん区切りをつけて、外務省のプログラムでアメリカでの就業体験に出たんです。この時の派遣先はインキュベーターで、起業家の卵や事業のスタートアップ者に対して支援を行う会社。ここで出会った人たちは、起業を起点に支援する側、される側、皆すごく楽しそうで、事業そのものに魅力と意義を感じたのです。

それはfreeeも同様で、会社が目指している世界観とかミッションに、あらためて共感したんですね。じいちゃんに似たところを感じる役員の方もいて、やっぱりここだと(笑)。若い会社が成長していくなかで、僕も成長できる。そして、ここなら世の中を変えていくインパクトを生み出すことができる。「本気でやり切った」と思える経験がきっとできる。わくわくと心が躍るような感覚でした。

――入社してから、新たな学びや成長を実感されていますか?

いちばんの学びは、「成長」というものに対する考え方が変わったことです。最初は営業だったんですけど、思うような成果を挙げられず、壁にぶつかった時期があったんですね。自分から動いて役員にメンタリングしてもらいながら、ずいぶん考えました。結局、僕は自分の成長を環境に求めていたのです。優秀な人と一緒にとか、大きな裁量を与えられてとか......でも、それって外側の話だよねと。成長すること自体は結果であって、「成長したい」といっているうちは仕事と向き合い切れていないのだと分かりました。

それまで独りよがりだったのを、あるプロジェクトで関係者のモチベーションを上げることに注力したら、一定の成果を挙げることができて。吹っ切れたというか、僕にとっては大きな経験でした。まずは目の前にあることをやり切る、ということを重ねていくと成果が出て、気づいたら自分も進んでいたというのが「成長」なんだと今では思っています。

――行動を起こして内省し、また次へ。これまで、本当に一つひとつを丁寧に取り込んで、学びに変えていらっしゃいますね。

そんなことはないです。ちょっと考え過ぎるところがあるので(笑)。考えることは大事ですけど、それをどうやってアウトプットや行動につなげるのか、そのほうが重要じゃないですか。そこの転換が、僕はまだまだ下手くそだと思っています。もっと上手に回して、学んだことや気づきを生かしていきたいです。これからキャリアがどう変化しても、やっぱり自分の人生には、オーナーシップを持っていたいですから。

執筆/内田丘子(TANK) 撮影/鈴木慶子
※所属・肩書は取材当時のものです。

プロフィール

高森昂大(たかもり・あきひろ)
freee株式会社 メンバーサクセスグループ Recruiting 新卒採用責任者
1991年、熊本県生まれ。幼い頃より、事業を営む祖父や父親の背中を見て育つ。一橋大学在学中に、バングラデシュでのスタディツアーやベトナムでの就業体験をし、途上国支援や教育関連事業に関心を持つ。複数のインターンシップを経て、2016年、freee株式会社に新卒入社。法人セールスに携わったのち、2017年7月より現職。