2014年度研究プロジェクト

つまらない日常をおもしろくすることが
普通の少年をリーダーに変えた
税所 篤快氏
バングラデシュの貧困層の子どもを同国最高峰の大学に入学させるという今まで誰も考えもしなかったことにチャレンジし、成果を挙げた税所はさらに現在、その活動を世界中に広げようとしている。豊かな時代に育ち、無気力、草食系という言葉で表現されることの多い、いわゆる「ゆとり」と揶揄される世代で、父親が公務員、母親が看護師というどちらかといえば保守的な家庭環境に育ちながらも、「破天荒なチャレンジができる力」の原点は少年時代にあった。

小学5年生のとき、給食委員会に入っていたことがあって。給食委員って、給食のとき、給食放送っていうのを流して、献立を説明したりするんですよ。その給食放送っていうのは、まあ言ってみればものすごくつまんなくて、それまではほとんど誰も聞いていないようなものだったんですよ。

でも僕が担当したときに、すごい話題になっちゃったんですよ。特別に何かおもしろいことをやったわけじゃなくて、ただものすごく大きな声で喋っただけなんですけどね。放送を終えて自分の教室の扉をガラって開けたらいままでの給食委員が帰ってきた時と様子が明らかに違うんですよ。みんなが笑いながら「声がでかいんだよ」「うるさくて、給食食べれねえぞ」と言ったんです。

あのいつもシカトされる存在だった給食放送が初めてこんなに注目された、話題になった。新しい話題を提供するというか、みんなに笑いのタネを提供するというか。ちょっといつもと違ったんですね、教室の中が。

漫画『20世紀少年』の冒頭に、放送室に閉じこもって鍵をかけて『20th Century Boy』 を爆音で流すというシーンがあるんですけど、そんな感じで、つまらない日常に対していつもと違うことをするというか一石を投じたりして、みんなの頭をシェイクしたりするっていうのはおもしろいなと、そのときに思ったのかもしれないですね。

それまでは、全然リーダータイプじゃなかったし、勉強もスポーツもそんなにできるわけでもないし、足もそんなに速くないし、みんなを笑わせる人気者なわけでもなかった。ごく普通の生徒だったので、これが、僕が何かおもしろいことをしたいと強く思うようになった原点だと思います。

それ以来、それが僕の関心事ですね。中学校で剣道部に入ったときも、すごく弱小のチームでいつも紙切れのように負けるっていうのが定番だったんですけど、弱いままじゃ悔しいからみんなで朝練しようよと提案しました。生徒会に入ったときも、ボランティア活動が全部ユニセフへの募金じゃつまらないから、何か目に見える形でやろうということでカンボジアに井戸を送る企画を立案したり。

以前、中学の剣道部の顧問の先生に会ったときに「あの頃から身の周りのことをおもしろくしようとか、楽しいことに変えようというふうな動きはしてたよね」と言われました。

近年、いわゆる社会起業家と呼ばれる人たちは増えているが、活動の内容と同じく、そのモチベーションも様々だ。中には「怒り」や「憤り」を原動力にしている人もいる。税所氏の巻き込み力や行動力の源となっているエネルギーはどういったものなのだろうか。

僕を突き動かすものは、絶対に「怒り」とか「憤り」じゃないんですよね。8年ほど僕の面倒を見てくれている米倉先生は「お前はモテたいだけだろう。動機が不純だ」とおっしゃるんです。確かにそれはないこともなくて、みんなから認めてほしいとか、自分だけしかできないような変化を起こしたいとか、みんながやっていることとは違った切り口で何かをやってみたいなという思いはもちろんあるんです。

ただ、今は、やっぱり好奇心ドライブが強いのかな、っていう感じもするんです。新しいところへ行って、新しい人と会って、新しいことをやる。それでいろいろなフィードバックが来て、ときどき大変なチャレンジもあって。そのプロセスがすごく楽しいし、学びも深い。この一連のサイクルでこんなにも学べたり、吸収したり、成長したり、いろいろな人に会えたり。サイクルそのものが楽しくなっちゃっているんです。これ以上の学びや吸収のサイクルが今のところ他にないし、それが今はいい感じで回っているので、たまに落ち込んだり、やめたいなと思うこともあるけど踏ん張って続けていられるんだと思います。

e-Educationというプロジェクトは、世間へのすごくいいコミットだし、チャレンジのひとつの材料としてすごくおもしろいもので、まだまだ学べるし、やれることはたくさんありそうだと確信しています。もっと学びたいし、もっと話したいし、もっと成長したいですね。

プロフィール
税所篤快 国際教育支援NGO「e-Education」創業者

1989年東京都生まれ。
2009年、失恋と1冊の本をきっかけにバングラデシュに渡り、国内初の映像授業プロジェクト「e-Education」を立ち上げる。世界経済フォーラム(ダボス会議)「グローバルシェイパーズ」選出をはじめとして数々のコンペティションなどで、その取り組みが世界的に評価されている。14年、早稲田大学教育学部卒業。現在は、ロンドン大学教育研究所(IOE)修士課程在籍中。新著に『突破力と無力』(日経BP)

TEXT=山下久猛 PHOTO=鈴木慶子

2015年02月06日