2014年度研究プロジェクト

自然観をベースにした
新しい文明を創出するために石田秀輝氏

一定のレールを敷いたところで、石田氏はまた次なる舞台を求めて動く。14年、自然が色濃く残る沖永良部島(鹿児島県)に居を構え、地球村研究室を創設。「心豊かな暮らし方」の上位概念である「間抜けの研究」を開始した。

これまでの研究で、心豊かに暮らすには、依存型(外部化)から自立型(内部化)のライフスタイルへの移行が必要であることは明白になっています。理解すべきは、この依存と自立の間に存在する“間”で、心豊かな暮らし方の現実解を求めるのにもっとも重要な部分だと考えています。そこに求められるのは「環境に負荷はかけないが精神的には満足」というテクノロジーで、そのかたちを当たり前にしていくことが、僕の次のテーマです。

その研究の場として、選んだのが沖永良部島。結局のところ、僕がやろうとしているのは自然観をベースにして新しい文明をつくることなので、そうなると、圧倒的な自然観を持つ地に行かないと進まないでしょ。文献など、読めるものはすべて読み、離島もあちこち巡りましたが、自然観が暮らしのなかに濃く残っているのが沖永良部島だったのです。

そもそも、日本人は先進国で自然観を持っている稀有な民族なんですよ。その素晴らしい文明を崩壊させないために、僕は、日本をもっともっと徹底的に考えたい。エネルギー、資源、生物多様性、気候変動などといったリスクは、このまま何もしなければ2030年頃に限界に達し、文明崩壊の引き金を引くことになります。そんな絶望的な世界を子どもたちに見せたくないでしょう。小学生たちを教えているとね、皆目がキラキラしているわけ。その子どもたちが大人になっても、変わらず笑顔でいられるようにするのが、今の大人の責任じゃないですか。根っこにあるのは、その一点なんですよ。

「地球環境問題とは、間違いなく人間活動の肥大化である」と、石田氏は語る。利便性を得るために大量のエキルギーや資源を使う、その繰り返しが幾何級数的な環境負荷の増大となり、様々なリスクを生み出してしまった。石田氏が生涯をかけて取り組もうとしているのは、人々が心豊かに暮らすことを担保しながら、人間活動の肥大化を縮小するという相反した命題に解を出すことだ。

その解を求めるには、従来の価値観を変えなければならないと、大人たちも本能的に感じ始めています。車より自転車がいいとか、モノを修理して使うとか、あるいはフリーマーケットに幸せを感じるとか、潜在的にはライフスタイルに変化の兆しが出ています。僕のやっている仕事は、こういう動きをつかんで、わかりやすく、自立型のライフスタイルとテクノロジーをセットにして市場に投入すること。僕が考えると、突然、水のいらない泡のお風呂なんかができちゃって理解されにくいので(笑)、企業に働きかけ、新しいものづくりやビジネスの創出に向けてトレーニングを重ねているところです。

一方で今、閉塞感に包まれている人たちには、「こういう足場でものを見ると、爽やかに見えますよ」ということを伝えていくのも僕の仕事。そのための教科書をつくっているような感覚です。そう悲観した話でもなく、僕を超える予備軍はたくさんいると思っているので、その人たちが遠回りしなくて済むよう、教科書をつくり上げたいのです。

思えば、90年頃に地球の循環が大切だということに気づいてから、いつも先が見えてしまって焦燥感にかられてきました。今もまた、次のステージに入っていますが、「さらに次」が見えなくなれば、僕は幸せだと思う。その時点が到達点、完成形ということですからね。

石田秀輝
合同会社地球村研究室 代表社員
東北大学名誉教授

プロフィール
1953年岡山県生まれ。
1978年、伊奈製陶株式会社(現LIXIL)入社。取締役研究開発センター長などを経て、2004年から東北大学大学院環境科学研究科教授。14年3月、同大学を退官し、現職。
専門は地質・鉱物学をベースとした材料科学、1992年より「クローズド生産システム」を、1997年から「人と地球を考えた新しいものつくり」を提唱、多くの実践経験をもとに『自然のすごさを賢く活かす』ものつくりのパラダイムシフト実現に国内外で積極的に活動している。ネイチャーテック研究会代表、サステナブル・ソリューションズ理事長、ものづくり生命文明機構理事、アースウォッチ・ジャパン副理事長ほか

TEXT=内田丘子 PHOTO=刑部友康

 

2015年03月13日