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研究レポート

石川治江介護の本質と向き合いながら、
「仕組みづくり」に奔走する

介護と看護を両輪とした在宅ケア、そして、24時間365日のサービスを打ち出したのは日本初である。以降も石川氏は、サービスの利用者・提供者間に契約の概念を導入したり、業務の安定性、効率化を図るためにケアを百数十種類に分けマニュアル化するなど、次々に新手を編み出してきた。それら独自のシステムは、介護保険制度の骨組みに大きなインパクトを与えたとされる。

うちのような在宅福祉サービスを行うところはどこにもなかったから、マスコミに取り上げられたり、全国から視察者が訪れたり。理解者が増えるのはうれしかったけれど……時には招かざる客もいました。

介護保険が売り出された頃の話。大手の損保会社がやって来てね、「支援として資金提供をします」と言うわけ。こっちは寄付だと思って喜んでいたら、代わりに利用者さんの名簿を寄越せと。その頃、31市区町村をカバーしていたから、確かに相当の名簿数ではあったけれど、それが目的だなんてアタマに来るじゃない。みんなで塩まいて追い返した、なんていう一件もありましたねぇ。

重度障がいや寝たきり、難病や痴呆といったほかの団体では受けきれないケースを多く請け負ったこともあり、「やわらぎ」は繁盛しました。換言すれば、それだけサービスを必要とする人が大勢いたということです。障がい者だけでなく、介護を担うたくさんの家族の方々と出会うなか、苦悩することも様々あったけれど、そのたびに知恵をしぼり、サービスの手直しを重ねてきました。プロとして、どんなニーズにも的確に応えられなければならない――常にそう思いながら走り続けてきたように思います。

活動は大きくなり、「やわらぎ」を始めた10年後には「社会福祉法人にんじんの会」を設立。現在では、東京都と山梨県において、特別養護老人ホーム、グループホーム、訪問介護・看護などといった介護保険事業や障害者総合支援法事業を幅広く展開している。陣容が拡大しても、石川氏らには変節なき考え方がある。自著のタイトルにもなっている『介護はプロに、家族は愛を。』だ。

この世界で出会う人たちの多くは、日々の介護と「家族なんだから」という重圧に苦しめられている。だからこそ、私たちは家族と介護を別々に置いて見つめ、排泄、入浴、食事などといった介護は「行為」であると位置づけたのです。

医療も同じじゃないですか。私たちは病気やケガをした時、「思い」より「医療行為」を求めて病院に行くわけでしょ。同様に介護の領域を明確にし、必要な時、いつでもサービスが受けられる仕組みがあれば、家族は重圧から抜け出すことができる。維持すべきは、家族だからこその精神的な支えであって、負担や重圧ではない。だから「介護はプロに、家族は愛を」なのです。

ただ、介護は単体の商品ではなく、関係性があって初めて成り立つんですね。これも医療と同じですが、信頼関係がなければ本当の意味でいい行為はできない。「やれないから、やってあげる」という概念だけだと上から目線になってしまう。やれないことができるようになった時には、「寄り添う」態度が必要なんです。それができるのがプロだと思います。では、「プロとして、いいケアって何?」。この答えはねぇ……すごく難しい。生涯の宿題のような気がしているけれど、でも、わからない部分や未知の領域がいっぱいあるから、私には面白いんです。それが、人との出会いや経験を通じて、少しずつわかっていく楽しさ。この仕事を続けているエネルギー源の一つかもしれません。

2015年04月17日