2014年度研究プロジェクト

何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」。澤田秀雄
自然・バランスを保つ経営哲学

格安航空券市場を手中に収めた後は、パッケージツアーの企画販売や渡航先別営業カウンターの設置に乗り出すなど、業容拡大が続く。「旅行業界の常識を覆したH.I.S.」の躍進は、周知のとおりだ。それを支えてきた澤田氏の経営ポリシーは「バランス」、自然の摂理を重んじることである。

「自然・バランスを大事にする」というのは、起業した時から掲げている理念の一つです。生きとし生けるもの、すべては自然のなかにあるわけで、人は自分で生きているように見えて、生かされている。極端な話、明日空気がなくなれば誰もが死に、時が経てば誰もが老いる。人知を超えた力のもとで、わずかに許された自由な範囲を動き回っているだけなのです。だから、自然の摂理を崩した時には天罰が下るというか、必ず揺り戻しがある。それは、国も企業も人も全部同じ。バランスを崩せば、国なら革命や暴動が起こり、企業なら倒産、人の体ならば健康を害する。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」なんですよ。

かつてのバブル経済も、一つ典型です。あの時我々は、土地価格が高騰した新宿から浅草に“避難”し、株だの不動産だの、いっさい投資には手を出しませんでした。異常に膨張した好景気は自然に反しているのだから、崩壊は十分に予見できた。僕が大切にしているのは、情報という「理論」と、感覚という「自然観」のバランスを保つことなのです。

それが身についたのは、やはり世界を旅してきたからでしょう。病気になったり、人に騙されたり、いろんな価値観を知ったり、経験したたくさんの事柄が「経験知」になった。あとは、創業してしばらく暇だった頃に読んだ本ですね。『徳川家康』全26巻、『史記』などといった歴史ものや、陽明学の本とかを多読しました。自分の経験知に先人の教えがプラスされるといい勉強になり、それは見識になっていったように思います。

澤田氏のもとには、その経営手腕を頼って多くの企業再生案件が持ち込まれる。なかでも、18年間連続赤字だったテーマパーク「ハウステンボス」を、経営支援に立ってからわずか半年で経常黒字に転換させたことは、まだ我々の記憶にも新しい。

ハウステンボスの場合は、地元の市長さんが3回も嘆願に来られて。もちろん、頼まれたからといってすべて引き受けるわけじゃなく、我々が持つ経営ノウハウで「やれるか、やれないか」という理論的判断が一つ。そしてハウステンボスの再興は、今までお世話になってきた九州、ひいては日本の観光のためになると判断したからです。地域活性化や地元の雇用問題に少しでも役に立てればいいなと。最後はチャレンジ精神です。周りは「なぜわざわざ苦労をしに……」と心配していましたが、そう言われると、あまのじゃくの血が騒ぐ(笑)。目の前に高い山があれば、危険はあっても登ってみたいと思ってしまう。

前提として、あそこにテーマパークをつくったこと自体が非常に厳しいんです。長崎と佐世保を合わせても約70万人しかない市場に、東京ディズニーランドの1.6 倍の広さがあるという過剰設備投資。テーマパークは天候の影響をずいぶん受けるのですが、また彼の地は雨が多いことに加え、アクセスも悪い。魅力的な集客イベントの経験も浅いなど、まあ「山は高い」。しかし先述したように、バランスを崩している部分がわかれば、そこを修正していけばいいのです。まだ途上ではありますが、僕は、ここを東洋一美しい街、楽しい街といえるような新しい未来都市にしたいと思っているのです。

2015年03月20日