2014年度研究プロジェクト

父親が星一徹タイプ
起業家にだけはなるな
徳重徹氏
徳重氏は山口県の片田舎で生まれた。産業といえば漁業しかなかった。父親は教育熱心な反面、非常に厳格だった。「家訓」の一つが「起業家にだけはなるな」。父親の父親、つまり徳重氏の祖父が起業家だったことがあり、一時は経営が順調だったものの、父親が中学生の時、会社が倒産、地獄を見たのだ。父親は息子が国立大学に行き、地元の一流企業に就職してくれることを望んでいた。徳重氏もそうした親の期待を背負って近隣の進学校に行ったが、大学受験に失敗、浪人生活を経験したことから、運命が変わり始める。

同級生300人のうち、浪人したのは僕含め、たったの2人。完璧な挫折者でした。広島に行って予備校に入り、狭い狭い下宿で浪人生活が始まったんです。なぜもっと真剣に勉強しなかったんだろう、とひたすら後悔の日々。勉強に身が入らなかったのは、家からの通学時間が1時間半と長すぎたからだ。なぜあんな片田舎に生まれたんだろう、と落ち込むばかりだったので、精神安定剤代わりに本を読み始めたんです。

一番影響を受けたのが、松本順という人が書いた『負けてなるものか』(マネジメント社)という本で、今でも持っています。副題が「人生を逆転する発想」で、松下幸之助は病弱だったから他人に仕事を任せることができた、本田宗一郎は学歴がなかったから人の二倍も三倍も頑張れた等々、起業家の人生を題材に、マイナスだと思えたことが、後にどれだけプラスになるかを説いた内容で、何度も読み返しました。この本のおかげで何とか浪人生活を乗り切れた感じです。

本当は京都大学が第一志望だったのですが、そこまで成績が伸びず、九州大学工学部に進みました。『負けてなるものか』の影響で、起業家の本を読み始めました。

当時の住友銀行会長、磯田一郎について書かれた『向こう傷を恐れるな』(上之郷利昭、知的生き方文庫)という本があるんです。大銀行のトップについての本ですが、今だったらとんでもない題名ですよね。今のマスコミも悪いと思う。地位のある人がちょっとバイタリティ溢れる発言をしたくらいで、すぐに叩く。それでは、人間が委縮してしまう。

大学時代から、城山三郎や司馬遼太郎の著作など、志が高くて実行力もある珠玉のリーダーをテーマにした本ばかりを読んできたので、今の大企業の経営者なんて守りに入っている人ばかりで物足りない、と思えるんです。

時には広い世界を見たくて、よく海外に出かけました。バックパッカーです。行く先々で、日本の製品はこんなにも海外で普及し愛されているんだ、と驚きました。ソニーもホンダもすごいなと。その時の体験が、「リベンジしてやる。日本製品を再び普及させてやる」という感じで、今の事業に結びついているのかもしれません。

工学部では化学専攻でした。化学が好きなわけでもなくて、父親の影響でした。山口県は大手の化学メーカーが多い。大学は県外に行ってもいいけど、就職は地元で、というのが父親の厳命だったのです。でも、入った後、後悔しました。「僕がやりたいのは化学じゃない。経営なんだ」と。いよいよ4年になって就職先を考えたら、やはりホンダかソニーに行きたい。当然、県外での勤務となります。父親に相談すると、「絶対許さない。どうしても、というなら、親子の縁を切ってから行け」と。漫画「巨人の星」の星一徹のようなキャラクターですから、言い出したら梃子でも動きません。

2015年03月06日