2014年度研究プロジェクト

川添高志健診弱者を救い、予防医療を促進する
「健康セルフチェック」

見たもの、聞いたもの、その一つひとつを血肉とし、川添氏は起業に向けて確実にキャリアを積み重ねてきた。大学を卒業する頃には1000万円の起業資金をため、経営スキルも身につけていたが、卒業後、川添氏は看護師として東京大学医学部附属病院に勤務する。現場での本質的な問題、それを解決するビジネスを考え深める“仕上げ”のために。

やりたい分野は「生活習慣病の予防」と決めていたので、手を挙げて、糖尿病の病棟を担当させてもらいました。患者さんの多くは、もっと早く病気に気づいていれば重症にならずに済んだ人たちで、結局、「検査をしておけばよかった」という話になるんですよ。健診を受けていない人が、なぜこんなに多いんだろう?と疑問に思い、マーケティングのために患者さんたちにヒアリングを始めると、様々な声が出てきた。「値段が高い」「忙しくて時間が取れない」「予約が面倒」。なかでも強制を受けない主婦や、保険証を持たないフリーターや外国人にとって、健診は思った以上に敷居が高いものだったのです。

加えて、病院外でも約1000人を対象に、値段や場所、検査項目などに関してアンケートを取ったところ、値頃感としては「500 円くらいなら利用したい」という人が8割。ほかにも駅前なら便利とか、どんな検査項目が求められているか、あるべきサービスの輪郭がはっきりしてきたのです。

問題は、医療機関じゃない場所でどう実施するかです。医師を雇って診療所を構えるとなると、安価なサービス提供はとうてい無理ですから。そこでひらめいたのが、自己採血という方法。自己採血は、必要のある個人が自分で指先などから採血すること。事業としては前例がなかったんですけど、厚生労働省や保健所に確認したところ、自己採血を徹底し、検査結果に対して病名診断をしなければOKであると。アメリカですごいと思った医療サービスを、かたちは違えど日本で事業化できるメドが立ったのです。

2007年、満を持して会社を設立。人口密度の高い東京・中野区に狙いを定め、翌年には常設1号店をオープンした。生活習慣病にかかわる血糖値、中性脂肪、総コレステロールなどの検査が1項目につきジャスト500 円で受けられ、結果も数分で出る。当時、「ワンコイン健診」と称された本事業は、多くの健診弱者の心に届き、彼らを救ってきた。それは人々に対する健康管理の啓蒙活動であり、また、膨らみ続ける医療費の抑制にも資するものだった。

立ち上げ当初は、けっこう大変でした。最初、駅ナカに店舗を出そうとJRに相談しに行ったら、あまりの家賃の高さに玉砕しましたし(笑)。中野の商店街に着眼したのは、活気があり、主婦や自営業者などサービスを必要とする人たちが多いと考えたから。まずは知ってもらうために、チラシ配りから始めました。僕自身がサクラになったり、マスコミにアプローチしたり、まあできることは何でもしましたね。パチンコ店やスーパー、イベント会場などに出向いての出張サービスも積極的にやりました。

手探りでしたけど、でも、「世の中に絶対に必要なビジネスだから、失敗するはずはない」という確信はあったんです。テレビや雑誌に取り上げてもらい、口コミでも広がって、開店から半年後には採算ベースに乗りました。久しぶりに検査を受けてみたら、数値が異常だったという人はやっぱり多い。やってみて、事業の社会的意義を再確認しましたね。あまりに検査結果の悪かった人が、「すぐ病院に行ったことで命が助かった」と、感謝の言葉をくださる。健診を受けないで後悔する人たちを少しでも減らせているということは、今は日々実感しています。

気軽に健康管理ができる仕組みを提供し、市民一人ひとりが自分の健康に責任を持つような社会にしていきたいのです。「限られた資源を大切にしましょう」という環境問題と同じで、社会保障の財源にも限りがあります。例えば、難病や交通事故などのように、自己責任ではないところで十分な医療が保障される安心な社会。それを守り、維持すべきだと思うんです。

2015年05月01日