2014年度研究プロジェクト

危機をチャンスと捉え、
コミュニティデザインという新領域を確立
山崎亮氏

山崎氏が現在の仕事に舵を切るにあたっては、外的な要因もあった。減少の一途をたどる日本の人口に伴い、高度経済成長期より積極的に推進されてきた道路やハコモノなどの社会資本整備も、大きく減少傾向にあるという事実。社会資本に対する維持管理・更新投資は増えても、新規投資は厳しい制約を受ける将来に、山崎氏は強い危機感を抱いたという。

つまり、公民館だの市役所だの、あるいは美術館などといった建築物を新規に建てる仕事が激減することを意味しています。関係白書でそういう将来予測を目にした時、「やばい、仕事がなくなる」と。設計に携わっているそばから「ハコモノはもう必要ない」と言われ、それって、僕らの仕事は人々から求められていないということでしょ。少なくともそこには、「いいものをつくってもらった」と、僕が描いていた感謝される自分像は望めない。

自分自身が身を置く業界だから、敏感にもなります。でも、そこから派生的に考えれば、医療福祉、教育、環境、エネルギー問題……生産年齢人口の減少と超高齢社会がもたらす構造変革は、すべてに及んでいる。もはや行政任せにはできず、自分たちの課題は自分たちで解決しなければ全業界がもたない。危機感は大きかったですね。

しかし一方で、これはチャンスだとも思ったのです。デザインをやる人間の性のようなもので、悲嘆するより、いいネタを見つけたという感じ。元来デザインって、何にも縛られず「自由にやってくれ」という仕事はやりにくくて、むしろ、予算や面積などの制約があるなかでアイデアを捻り出すほうが燃えるものです。出てきた課題を、いかにクリエイティブに解くか。それを習慣にしてきたから、「日本、やばいぞ」と思った時、「これをうまく解いたら、感謝されちゃうかもね」と、少しニヤリとしたわけです。

内なる気づきと、社会ニーズを確信した山崎氏は、コミュニティデザインに専念するべく、2005年に独立、studio-Lを設立する。地域住民自身に問題意識を持たせ、解決のために組織をつくり行動していくことを促す活動は、コミュニティ・オーガニゼーション(住民組織化)と呼ばれ、アメリカでは古く40年代に確立された手法である。ここに、デザインという領域を組み込んだのが山崎氏だ。

マレー・ロスが、その名もずばり『コミュニティ・オーガニゼーション』という著書で、その方法論を体系化しています。アメリカ大統領だったオバマ氏が、大学卒業後にコミュニティ・オーガナイザーとして活動していたのは有名で、次世代リーダーを養成する手法としても注目されています。

領域としては、医療福祉を住民組織で担うコミュニティ・ケアなどが代表的ですが、いろいろと調べてみても、そこにデザイナーが関わっている事例がほとんどなかったんですね。加えて、「健康づくりが大事です」「障がい者をサポートしています」というコミュニティ・ケアは、その道の関係者だけで運営され、外からの見え方として、どこか排他的にも感じられた。

医療福祉に限らず、住民皆が「カッコいいよね、楽しそうだよね」と思って関わらないと、本当の意味で協働にならないじゃないですか。一部の人たちだけの自己満足で終わってはならない。それぞれのコンテンツや活動が多くの人に広がらなければ意味がないと考えた時、コミュニティを組織化する方法は研究されていても、ここにデザインが存在しないのはもったいないと思ったのです。僕的に言えば、それは美しさやカッコよさ。コミュニティ形成も経験してきた僕だったら、何かできるかもしれない――だから、コミュニティデザインなのです。

2015年02月20日