2014年度研究プロジェクト

出雲充まずはやってみれば?
見守る人の存在が、若い人を伸ばす

出雲氏はリブセンスの村上太一氏やマザーハウスの山口絵里子氏、認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹氏といった同世代の起業家とも親交があり、自分たちの特徴は、「社会に対してネガティブな思いを持っておらず、純粋に面白いことをして、周りを喜ばせたいという気持ちが強いところ」だと分析する。

時代背景の影響だと思います。私たちより上の世代の経営者は大なり小なり貧しい時代の日本を知っていて、ハングリー精神を持った人が多い気がします。「もっといい暮らしをしたい」とか、「社会の不条理を何とかしたい」というすごい熱の固まりのようなものがあって、寝ないで一生懸命働き、ものすごいことを成し遂げる。彼らに比べると、私たちの起業の動機は強いものではありません。

私にしたって、悲壮な覚悟で世界の貧困や飢餓をなくしたいと思ったわけではないのです。
ミドリムシで貧困や飢餓が解決できれば、元気に成人して社会に羽ばたいていく途上国の子どもたちが今よりももっと増え、その中でものすごい才能を発揮する人材も出てくるかもしれない。そうなったら楽しいなというくらいの、言ってみれば「カジュアルな」動機なんです。上の世代に比べて苦労知らずの面もあるのかもしれませんが、その分素直なので、心の底から「人に喜んでもらえるのが楽しい」と思えるのが強みです。

私は1980年生まれですが、80年代以降に生まれて大人になった人たちは経済がシュリンクしていく日本しか知りません。経済が右肩上がりで、社会全体が豊かになっていく時代なら、流れに乗ってほかの人と同じことをしていても、そこで頑張れば成果が出せます。でも、人口が減り、経済がシュリンクしていく社会では、ほかの人と同じことをしていては、みんなと同じように少しずつ縮んでいきます。そういう社会で面白いことをしたいなと思ったら、リスクを取ってほかの人と違う、自分だけのストーリーを編まなければいけません。「自分だけのストーリーを編む」というのは、「ここで勝負する」という分野を決めてそこで抜きん出るということです。私がこのことに気づき、言葉にして説明できるようになったのはつい最近のことですが、私が編んだのはミドリムシと一緒に「人と地球を健康にする」というストーリーでした。

自分だけのストーリーを編める人なんて限られていると考える人もいますが、そんなことはありません。可能性があるのに人が気づいていない分野を見つけて、一番になるまであきらめなければ、誰だって自分だけのストーリーを編めます。まずはやってみて、失敗したら、別の角度からまたやってみればいいのです。できないのは、「そんなことをしても意味がないよ」「くだらないから、時間の無駄だよ」という周囲の言葉に、「やってみよう」という気持ちをつぶされてしまうからなのではないでしょうか。

しかし、出雲氏の気持ちは、消えることはなかった。ミドリムシに対する愛着、国連で働くことへの憧憬……そうした想いは、つぶされることなく育まれていった。それは、身近な大人に「まずはやってみれば?」と見守ってくれる人が少数ながらいたからだという。

そのひとりは母です。私が子どものころに多摩ニュータウンの沼でザリガニ取りに夢中になって服を汚して帰っても叱りませんでしたし、「勉強をしなさい」と言われた記憶もありません。あまりに何も言わないので、一抹の不安を感じて「宿題くらいはやらなきゃまずいだろう」と自分から勉強をせざるを得なかったくらいです。中学、高校時代を駒場東邦という男子校で過ごしたこともよかったと思います。男子校ならではの環境で、面白いことをしようとする人をみんなで盛り上げて楽しむ校風がありました。当時の先生もよく印象に残っていて、私がパソコン研究会を立ち上げたり、いきなり「国連に行きたい」と言い出したときも否定するようなことはひと言も言いませんでした。

若い人が突拍子もなく「何かをやりたい」と言ったときに、たいていの大人たちは何か口を出します。僕ももし、高校2年生で国連に興味を持ったときに、「あなたね、国連というのはどうすれば入れて、実際に何をやっているのか知ってるの?知りもしないで、国連を目指してどうするの?」と大人たちに寄ってたかって言われたら、あきらめていたかもしれません。そんなことになっていたら、東大に入ることも、バングラデシュに行くことも、ミドリムシに出会うこともなかったでしょう。「大人たちがちょっと口出ししたくらいであきらめるようではダメだ」と言う人もいるかもしれません。でも、何も知らない高校生の動機なんて、吹けば飛ぶようなか弱いものなんですよ。そのか弱い動機も経験を重ねることで強固になっていくかもしれないのに、大人がその可能性をつぶすということが、皮肉なことに善意から行われることが多いと思うんです。

ありがたいことに、ミドリムシのおかげで私も「新しいことにチャレンジしている人」として次世代育成のための場に呼んでいただくことがあります。国民生活金融公庫の高校生ビジネスコンテストの審査員や文部科学省の出前授業プログラムといった場で全国の若い人たちと接するのですが、元気があって、面白いことを考えている子が日本にはたくさんいます。この間、沖縄の高校を訪れたときも、ひとりの生徒さんが話しかけてきて、その子が沖縄中で集めた海藻やきのこを見せてくれたんですよ。きのことか海藻にはβグルカンという多糖類が多く含まれていて、免疫力を高めたり、抗がん作用もあると言われて医学的にも大きな可能性を持っているんです。その子は多糖類にすごく興味を持っていて、自分なりに研究しているのに、先生や親には「きのこやもずくを拾っているだけでは受験で大変な目にあうから、それよりも英語を勉強しなさい」と言われてしまう。でも、「ミドリムシの人ならわかってくれる」と思って、「どうすればいいですか?」と私のところに相談に来てくれたわけです。

「ミドリムシなんて」と言われ続けた私なら、どんなことをやりたいと言っても否定しないということが、高校生にも直感的にわかるんですね。若い人たちの力を伸ばして、日本がもっと元気になるために必要なのは、「くだらないものなんて、ない」とひとりでも多くの人が気づくことだと思うんです。大人には自分の生まれ育った時代の「成功の法則」が染み付いているので、なかなかそれを捨てることは難しいんですけど、芽が出た瞬間に摘み取られるアイデアがあまりに多いことが私には残念でなりません。何かをやろうとしている若い人に出会ったら、ミドリムシのことを思い出してほしい。「ミドリムシだって世の中の役に立つんだから、この子のやっていることもいつかは日の目を見るかもしれない」と考えてくれる大人がひとりでも増えたら、ミドリムシも私も本望です。

出雲充
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

プロフィール
1980年広島県生まれ、東京都・多摩ニュータウンで育つ。1998年東京大学文科三類入学、3年進学時に農学部に転部。在学中に「アジア太平洋学生起業家会議」の日本代表を務め、2002年同大学卒業後、東京三菱銀行に入行。退職後に米国バブソン大学「プライス・バブソンプログラム」修了、経済産業省・米国商務省「平沼エヴァンズイニシアティブ訪米ミッション」委員を務め、2005年株式会社ユーグレナを創業して代表取締役に就任。2012年、中小企業基盤整備機構Japan Venture Awards 2012「経済産業大臣賞」受賞、世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)Young Global Leaders 2012に選出される。2015年、第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』がある。

TEXT=泉彩子 PHOTO=鈴木慶子

2015年05月15日