2014年度研究プロジェクト

2.ソーシャル・アントレプレナー支援組織・団体

世界中でソーシャル・アントレプレナーを選出し、支援する

世界中には、アショカ、シュワブ財団、スコール財団、オミダイアネットワークなど多くのソーシャル・アントレプレナー支援組織・団体がある。これらに共通するのは、社会的な課題の解決に取り組む革新的で新規的な事業を、資金面、体制面などで支援することである。組織を率いた経験がなく、活動に二の足を踏んでいるソーシャル・アントレプレナー候補者に対し、リーダーシップや組織運営の仕組みを付与することも目的としている。特に志を共にする仲間と共鳴し、切磋琢磨することで、ビジョンがよりブラッシュアップされることも期待できる。ここでは、日本にも拠点を持つ、世界最大規模といわれるアショカを取り上げていく。革新的な社会貢献活動を、仲間を率いながら組織として運営していくソーシャル・アントレプレナーには、「社会リーダー」と強い関連が見られるのではないだろうか。

世界最大規模の社会起業家ネットワークを誇る
アショカ(アメリカ)

1981年にビル・ドレイトンがアメリカ・ワシントンで設立した市民組織アショカは、世界最大規模のソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)ネットワークを構築し、グローバルな社会革命をもたらしているシンクタンクである。創設者のビル・ドレイトンは学生時代、ハーバードやオックスフォード、イェール大学で学んだのち、約10年間マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後いくつかの職務を経たのち、アショカを立ち上げた。「社会福祉とビジネス起業という、相反する基準やアプローチを持つふたつのセクターを融合させることで、社会の歪みがより迅速かつ効率的に改善される」という発想から、1970年代に「ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)」という概念を生み出し、以後「社会起業家の父」と呼ばれている。

1981年から2012年までに世界80カ国以上、約2800人のソーシャル・アントレプレナーを発掘し、アショカ・フェローとして認定。選出には必ずトップであるドレイトン自身が関わり、厳しく審査される。アショカ・フェローに選出されると、生活費の援助や法律・マーケティングなどの専門的知識を蓄える教育サービス、他のアショカ・フェローとの連携、交流支援などを受けることができ、アショカ・フェローとしての下地を備えていく。

2011年には東アジアで最初の拠点となるアショカ・ジャパンが発足され、2014年までに4人のアショカ・フェローが輩出されている。例えば2014年にアショカ・フェローに認定された「NPO法人えがおつなげて」では、農村と企業をつなぐ事業である「企業ファーム」を提唱し、都市と農村の交流を進めるプロジェクトを展開している。これは、増えている耕作放棄地の解消に共感した企業が、NPOスタッフと共に農地として復活させ、農作物をつくり新たな事業につなげていくという活動である。農村にとっては地域の活性化が見込め、企業にとっては新規のサプライチェーンを生み出すというWin-Winの関係が築かれているという。

アショカ・フェローとして重視される素質

アショカは、社会の歪みに強い問題意識を持ち、その問題解決のために事業を興し、社会変革を目指す人をソーシャル・アントレプレナーと位置づけている。世界中から、「社会問題の根幹を変えたい」という思いを持つ将来のソーシャル・アントレプレナーを発掘し、日々支援を行っている。ドレイトンはあるインタビューでアショカ・フェローの素質として以下の4点を挙げている。「起業家としての素質」「創造力」「競合する他の事業を圧倒するほどのアイデアを生み出す力」、そして最も重要だとされる「倫理観」である。この人を信じ、ついていこうと思わせる人間性がソーシャル・アントレプレナーには不可欠だという。この4点を備えた人物のみがアショカ・フェローとして認定され、アショカによるあらゆるサポートが与えられる。アショカはソーシャル・アントレプレナーたる人物に対し、次々と広がりを見せる非常に強い「伝染力」と、他の場所でもコピー可能な「自己繁殖力」を持つものと考えており、このふたつの素養があれば大きな成功を収めやすいと考えている。このような基準をクリアしたアショカ・フェローは、活動を始める初期段階である3年間に、アショカから初期投資を受けることになる。そのような支援やトレーニングを受けたアショカ・フェローたちのアイデアは、世界中で政策に採用されたり、国境を越えて活動を拡大させたりと、あらゆる分野での社会変革を実現している。

アショカの役割とアショカ・フェローの特性

アショカでは「Everyone A Changemaker(誰もがチェンジメーカー)」という標語を掲げている。ソーシャル・アントレプレナーが活動しやすい環境をつくり、性、年齢、障がいがあるかないかなどの個人の差異を超えて、誰もが社会の矛盾に対して「自分が変えられる」という自信と自由とスキルを持てる世界をつくることをゴールとしていることを表している。そしてフェローとアショカ運営スタッフは、アショカの活動が周囲の人々をも巻き込み、さらなるチェンジメーカーの輪が広がることを意識して活動している。このような好循環サイクルを完成させるには、現状を変える自信がある人物を増やすことが不可欠であると考えられている。

また、「team of teams(チーム・オブ・チームズ)」、つまり「ソーシャル・アントレプレナーやイノベーターたちがチームを組み、そのチームがさらに他のチームと協働することによって巨大なインパクトを生む」というスキームを提唱し、実行している。世界をリードするソーシャル・アントレプレナーたちが集うアショカのコミュニティでは、常に学習し、進化することを重要視しており、多種多様な組織との多面的な提携とチームワークによる取り組みにますます重点が置かれ始めている。

若者たちのアイデアを後押しする「ユース・ベンチャー」

アショカでは、17カ国、12〜20歳の若者向けに1年間の試行錯誤の機会を与えている。対象となるのは、社会の矛盾を解決・軽減するためのアイデアを生み出し、活動することを強く希望している若者である。認定者には活動立ち上げ資金が提供され、認定者同士のコミュニティに迎え入れられる。そしてもちろん、活動期間中は必要に応じて、アショカ本部からアドバイスを受けられる。高い理想を持ちながらも、資金面や具体的な組織運営についての仕組みを知らないばかりに壁にぶつかっている若者は多い。社会に対して違和感を覚えている若者が、自ら行動を起こしていけるよう、彼らにチャンスを与え、一人でも多くのソーシャル・アントレプレナーが輩出されることを目指している。

ソーシャル・アントレプレナーと社会リーダー

ソーシャル・アントレプレナーやイノベーターにネットワークやスキル、資金など多面的な支援を提供することにより、その成長を促し、成功確率の向上と増殖を助けているのがアショカの活動である。すでに素地として備えている「社会問題の存在に気づき、その根幹を変えたい」という思いが、アショカからの支援や他のフェローとのコミュニケーションにより、一段と強固なものに展開されていく。その過程は、社会リーダー創造の可能性を多大に感じさせる。


【引用・参考文献】
『静かなるイノベーション―私が世界の社会起業家たちに学んだこと』ビバリー・シュワルツ(原著),藤﨑香里(翻訳),英治出版, 2013
日経ビジネスオンライン「ニュースを斬る 日本の社会起業家を支援する!(1)アショカが日本に上陸する理由」
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110217/218468/?rt=nocnt)
アショカ・ジャパン オフィシャルサイト(http://japan.ashoka.org)
ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京 オフィシャルサイト(http://www.svptokyo.org)
NPO法人えがおつなげて オフィシャルサイト(http://www.npo-egao.net)

2015年07月29日