2014年度研究プロジェクト

1.社会貢献意識を基準とする選抜・採用制度

評価基準に社会貢献精神を内包している選抜・採用制度

選抜・採用制度に、社会貢献意識や倫理観などを評価基準としている事例は世界中で枚挙に暇がない。将来もしくは現在のエリートやリーダー、アントレプレナーなどを対象に、候補者を選抜し、その組織に応じた教育や資金を付与し、活動を支援するのが特徴である。

ここでは、オックスフォード大学進学のための奨学金制度であるローズ奨学金を取り上げ、社会貢献意識を持ったグローバル・エリート、グローバル・リーダーがいかに輩出されてきたかを見ていく。

世界最古の奨学金制度は社会貢献意識を重視
ローズ奨学金(イギリス)

1903年に最初の奨学生が選ばれたというローズ奨学金は世界で最古の奨学金制度だ。現在でも、選抜されたローズ奨学生は一定の賞賛を浴びる名誉あるものと位置づけられている。財源には、アフリカの鉱山王だったセシル・ローズが残した莫大な遺産が充てられていて、ローズの母校であるイギリス・オックスフォード大学でMBA 以外の学問を志す19~25歳の留学生のための機会を提供している。

現在、ローズ奨学生の対象国は英語圏を中心とした14~15カ国に増え、女性にも門戸が開かれている。アメリカ人への割り当ては、毎年、3分の1以上にあたる32名と最多で、これまでに2800名以上の留学生を輩出している。大学の授業料がすべて財団から支払われるほかに、毎月976ユーロの生活費が奨学生に支給され、20世紀初めに設立されたローズハウスの利用を許される。

奨学金の対象となる学生の選考には、いずれも欠かすことのできない4つの基準がある。
(1)文芸および学術的業績
(2)クリケット、サッカーなどの野外スポーツを愛する心と、それらにおける成功
(3)真実、勇気、義務への献身、弱者への思いやりと保護、親切心、無私、友愛の資質
(4)道徳的力強さとリーダーシップ能力を学生時代から発揮していること。

ローズの遺言では、特に(1)と(3)に対する比重を重くするよう細かく指示されていたという。また、(3)については社会貢献精神を問うような内容が含まれており、ローズが理想とする像が表れている。(3)(4)のように客観的な判定が極めて難しい項目については、実際にローズ奨学金の運営を軌道に乗せ、第二の創設者といわれている、オックスフォードOBのジョージ・パーキンが、選考を行うアメリカの大学やカレッジの学長に向けて次のようなメッセージを残したというエピソードがある。「将来、アメリカの大統領や最高裁長官、あるいはアメリカの駐英大使になれると思われるような学生を選んでほしい」。OBの活躍を見れば、現在でもこのアドバイスが生きているのがわかるだろう。このような選抜を経て勝ち取ったローズ奨学生というステイタスは、特にアメリカにおいて能力を測る場面で非常に有効な物差しと考えられており、未だに「最も有名かつ権威ある奨学金」との評価を得ている。

アメリカ人ローズ奨学生OBの活躍

ローズ奨学生のOBは多くが政界、ジャーナリズムの世界、法曹界などで活躍している。その功績から、ローズ奨学生は、過去半世紀以上に渡り、アメリカを筆頭に各社会の各分野で指導的役割を担う人材を輩出してきたスーパー・エリート集団であると考えられている。第二次世界大戦を迎えるまでは、オックスフォードのイギリス人大学生からの、アメリカ人を始めとするローズ奨学生の評価や扱いは芳しくないものであったようだ。それが戦争を経てアメリカが世界的な影響力を持つようになるにつれ、次第にオックスフォード内でのアメリカ人ローズ奨学生の存在感も増していった。政界などで活躍するローズ奨学生のOBが、見込みのある学生に奨学金選考に応募するよう勧めるなど、エリートがエリートを呼び込む流れが生まれ、ますますローズ奨学生からエリートが生まれる可能性が高まっていった。

選抜の基準に社会貢献精神を問う意義

ローズ奨学金の選考で大きな比重を占めるのが社会貢献意識である。受験者の社会貢献意識の有無を評価基準として選考する手法の狙いは、次のふたつだと考えられる。1つ目は、社会貢献意識を有する学生に対して、社会的な価値を生み出すための能力開発を支援すること。2つ目は、社会貢献意識が選考基準であることを広く世間に公表し、受験者の社会貢献に対する意識喚起を醸成することである。厳しい選考を経て選抜された奨学生は、世界を舞台にするリーダーへの自覚を備え、社会貢献意識を世界に向けてどのようにアウトプットしていくかを自発的に考える素養を身につけていくことが求められる。また、すでに活躍している同質のOBたちが指針となり、より「社会リーダー」としての内なる使命感を醸成する礎が形成される機会となっている。


【引用・参考文献】
『ローズ奨学生−アメリカの超エリートたち』三輪裕範, 文春新書, 2001
『大統領のリーダーシップ』ジョセフ・S・ナイ(原著), 藤井清美(翻訳),東洋経済新報社, 2014
『インフルエンシャル−影響力の王国』木下玲子, 新潮社, 1991
「[ウィークリーワールド] かき消される人権批判…英ローズ奨学金『中国シフト』で露骨な英の“実利主義”」産経ニュース
(http://www.sankei.com/world/news/150411/wor1504110003-n1.html)

2015年07月29日