グローバル 世界の『社会リーダー』創造メカニズムを探るⅢ章 体制・支援型創造メカニズム

「社会リーダー候補者」を出現させ、真の「社会リーダー」となるべくそのレベルアップを図っていくためには、その成長を加速させ(強化体制)、またはその障害を克服する手助け(支援制度)となる環境整備が重要である。「社会リーダー」の直截的な強化体制・支援制度は見当たらないものの、世界中のエリートやリーダー、アントレプレナー・イノベーターなどを選抜・育成する仕組みのなかには、結果的に「社会リーダー」の創造につながる機能を有しているものが多くあると考えられる。

ここでは、Ⅰ章で定義した「豊かな国」で広範に見受けられる特徴的な体制・支援制度と考えられる、(1)社会貢献意識を基準とする選抜・採用制度、(2)ソーシャル・アントレプレナー支援組織・団体、(3)企業の社会的責任/CSRに取り組む企業の3つのメカニズムを取り上げ、その意味合いを検証していく。

1.社会貢献意識を基準とする選抜・採用制度

評価基準に社会貢献精神を内包している選抜・採用制度

選抜・採用制度に、社会貢献意識や倫理観などを評価基準としている事例は世界中で枚挙に暇がない。将来もしくは現在のエリートやリーダー、アントレプレナーなどを対象に、候補者を選抜し、その組織に応じた教育や資金を付与し、活動を支援するのが特徴である。

ここでは、オックスフォード大学進学のための奨学金制度であるローズ奨学金を取り上げ、社会貢献意識を持ったグローバル・エリート、グローバル・リーダーがいかに輩出されてきたかを見ていく。

世界最古の奨学金制度は社会貢献意識を重視
ローズ奨学金(イギリス)

1903年に最初の奨学生が選ばれたというローズ奨学金は世界で最古の奨学金制度だ。現在でも、選抜されたローズ奨学生は一定の賞賛を浴びる名誉あるものと位置づけられている。財源には、アフリカの鉱山王だったセシル・ローズが残した莫大な遺産が充てられていて、ローズの母校であるイギリス・オックスフォード大学でMBA 以外の学問を志す19~25歳の留学生のための機会を提供している。

現在、ローズ奨学生の対象国は英語圏を中心とした14~15カ国に増え、女性にも門戸が開かれている。アメリカ人への割り当ては、毎年、3分の1以上にあたる32名と最多で、これまでに2800名以上の留学生を輩出している。大学の授業料がすべて財団から支払われるほかに、毎月976ユーロの生活費が奨学生に支給され、20世紀初めに設立されたローズハウスの利用を許される。

奨学金の対象となる学生の選考には、いずれも欠かすことのできない4つの基準がある。

  1. 文芸および学術的業績
  2. クリケット、サッカーなどの野外スポーツを愛する心と、それらにおける成功
  3. 真実、勇気、義務への献身、弱者への思いやりと保護、親切心、無私、友愛の資質
  4. 道徳的力強さとリーダーシップ能力を学生時代から発揮していること。

ローズの遺言では、特に(1)と(3)に対する比重を重くするよう細かく指示されていたという。また、(3)については社会貢献精神を問うような内容が含まれており、ローズが理想とする像が表れている。(3)(4)のように客観的な判定が極めて難しい項目については、実際にローズ奨学金の運営を軌道に乗せ、第二の創設者といわれている、オックスフォードOBのジョージ・パーキンが、選考を行うアメリカの大学やカレッジの学長に向けて次のようなメッセージを残したというエピソードがある。「将来、アメリカの大統領や最高裁長官、あるいはアメリカの駐英大使になれると思われるような学生を選んでほしい」。OBの活躍を見れば、現在でもこのアドバイスが生きているのがわかるだろう。このような選抜を経て勝ち取ったローズ奨学生というステイタスは、特にアメリカにおいて能力を測る場面で非常に有効な物差しと考えられており、未だに「最も有名かつ権威ある奨学金」との評価を得ている。

アメリカ人ローズ奨学生OBの活躍

ローズ奨学生のOBは多くが政界、ジャーナリズムの世界、法曹界などで活躍している。その功績から、ローズ奨学生は、過去半世紀以上に渡り、アメリカを筆頭に各社会の各分野で指導的役割を担う人材を輩出してきたスーパー・エリート集団であると考えられている。第二次世界大戦を迎えるまでは、オックスフォードのイギリス人大学生からの、アメリカ人を始めとするローズ奨学生の評価や扱いは芳しくないものであったようだ。それが戦争を経てアメリカが世界的な影響力を持つようになるにつれ、次第にオックスフォード内でのアメリカ人ローズ奨学生の存在感も増していった。政界などで活躍するローズ奨学生のOBが、見込みのある学生に奨学金選考に応募するよう勧めるなど、エリートがエリートを呼び込む流れが生まれ、ますますローズ奨学生からエリートが生まれる可能性が高まっていった。

選抜の基準に社会貢献精神を問う意義

ローズ奨学金の選考で大きな比重を占めるのが社会貢献意識である。受験者の社会貢献意識の有無を評価基準として選考する手法の狙いは、次のふたつだと考えられる。1つ目は、社会貢献意識を有する学生に対して、社会的な価値を生み出すための能力開発を支援すること。2つ目は、社会貢献意識が選考基準であることを広く世間に公表し、受験者の社会貢献に対する意識喚起を醸成することである。厳しい選考を経て選抜された奨学生は、世界を舞台にするリーダーへの自覚を備え、社会貢献意識を世界に向けてどのようにアウトプットしていくかを自発的に考える素養を身につけていくことが求められる。また、すでに活躍している同質のOBたちが指針となり、より「社会リーダー」としての内なる使命感を醸成する礎が形成される機会となっている。

【引用・参考文献】
『ローズ奨学生−アメリカの超エリートたち』三輪裕範, 文春新書, 2001
『大統領のリーダーシップ』ジョセフ・S・ナイ(原著), 藤井清美(翻訳),東洋経済新報社, 2014
『インフルエンシャル−影響力の王国』木下玲子, 新潮社, 1991
「[ウィークリーワールド] かき消される人権批判...英ローズ奨学金『中国シフト』で露骨な英の"実利主義"」産経ニュース
http://www.sankei.com/world/news/150411/wor1504110003-n1.html

2.ソーシャル・アントレプレナー支援組織・団体

世界中でソーシャル・アントレプレナーを選出し、支援する

世界中には、アショカ、シュワブ財団、スコール財団、オミダイアネットワークなど多くのソーシャル・アントレプレナー支援組織・団体がある。これらに共通するのは、社会的な課題の解決に取り組む革新的で新規的な事業を、資金面、体制面などで支援することである。組織を率いた経験がなく、活動に二の足を踏んでいるソーシャル・アントレプレナー候補者に対し、リーダーシップや組織運営の仕組みを付与することも目的としている。特に志を共にする仲間と共鳴し、切磋琢磨することで、ビジョンがよりブラッシュアップされることも期待できる。ここでは、日本にも拠点を持つ、世界最大規模といわれるアショカを取り上げていく。革新的な社会貢献活動を、仲間を率いながら組織として運営していくソーシャル・アントレプレナーには、「社会リーダー」と強い関連が見られるのではないだろうか。

世界最大規模の社会起業家ネットワークを誇る
アショカ(アメリカ)

1981年にビル・ドレイトンがアメリカ・ワシントンで設立した市民組織アショカは、世界最大規模のソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)ネットワークを構築し、グローバルな社会革命をもたらしているシンクタンクである。創設者のビル・ドレイトンは学生時代、ハーバードやオックスフォード、イェール大学で学んだのち、約10年間マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後いくつかの職務を経たのち、アショカを立ち上げた。「社会福祉とビジネス起業という、相反する基準やアプローチを持つふたつのセクターを融合させることで、社会の歪みがより迅速かつ効率的に改善される」という発想から、1970年代に「ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)」という概念を生み出し、以後「社会起業家の父」と呼ばれている。

1981年から2012年までに世界80カ国以上、約2800人のソーシャル・アントレプレナーを発掘し、アショカ・フェローとして認定。選出には必ずトップであるドレイトン自身が関わり、厳しく審査される。アショカ・フェローに選出されると、生活費の援助や法律・マーケティングなどの専門的知識を蓄える教育サービス、他のアショカ・フェローとの連携、交流支援などを受けることができ、アショカ・フェローとしての下地を備えていく。

2011年には東アジアで最初の拠点となるアショカ・ジャパンが発足され、2014年までに4人のアショカ・フェローが輩出されている。例えば2014年にアショカ・フェローに認定された「NPO法人えがおつなげて」では、農村と企業をつなぐ事業である「企業ファーム」を提唱し、都市と農村の交流を進めるプロジェクトを展開している。これは、増えている耕作放棄地の解消に共感した企業が、NPOスタッフと共に農地として復活させ、農作物をつくり新たな事業につなげていくという活動である。農村にとっては地域の活性化が見込め、企業にとっては新規のサプライチェーンを生み出すというWin-Winの関係が築かれているという。

アショカ・フェローとして重視される素質

アショカは、社会の歪みに強い問題意識を持ち、その問題解決のために事業を興し、社会変革を目指す人をソーシャル・アントレプレナーと位置づけている。世界中から、「社会問題の根幹を変えたい」という思いを持つ将来のソーシャル・アントレプレナーを発掘し、日々支援を行っている。ドレイトンはあるインタビューでアショカ・フェローの素質として以下の4点を挙げている。「起業家としての素質」「創造力」「競合する他の事業を圧倒するほどのアイデアを生み出す力」、そして最も重要だとされる「倫理観」である。この人を信じ、ついていこうと思わせる人間性がソーシャル・アントレプレナーには不可欠だという。この4点を備えた人物のみがアショカ・フェローとして認定され、アショカによるあらゆるサポートが与えられる。アショカはソーシャル・アントレプレナーたる人物に対し、次々と広がりを見せる非常に強い「伝染力」と、他の場所でもコピー可能な「自己繁殖力」を持つものと考えており、このふたつの素養があれば大きな成功を収めやすいと考えている。このような基準をクリアしたアショカ・フェローは、活動を始める初期段階である3年間に、アショカから初期投資を受けることになる。そのような支援やトレーニングを受けたアショカ・フェローたちのアイデアは、世界中で政策に採用されたり、国境を越えて活動を拡大させたりと、あらゆる分野での社会変革を実現している。

アショカの役割とアショカ・フェローの特性

アショカでは「Everyone A Changemaker(誰もがチェンジメーカー)」という標語を掲げている。ソーシャル・アントレプレナーが活動しやすい環境をつくり、性、年齢、障がいがあるかないかなどの個人の差異を超えて、誰もが社会の矛盾に対して「自分が変えられる」という自信と自由とスキルを持てる世界をつくることをゴールとしていることを表している。そしてフェローとアショカ運営スタッフは、アショカの活動が周囲の人々をも巻き込み、さらなるチェンジメーカーの輪が広がることを意識して活動している。このような好循環サイクルを完成させるには、現状を変える自信がある人物を増やすことが不可欠であると考えられている。

また、「team of teams(チーム・オブ・チームズ)」、つまり「ソーシャル・アントレプレナーやイノベーターたちがチームを組み、そのチームがさらに他のチームと協働することによって巨大なインパクトを生む」というスキームを提唱し、実行している。世界をリードするソーシャル・アントレプレナーたちが集うアショカのコミュニティでは、常に学習し、進化することを重要視しており、多種多様な組織との多面的な提携とチームワークによる取り組みにますます重点が置かれ始めている。

若者たちのアイデアを後押しする「ユース・ベンチャー」

アショカでは、17カ国、12〜20歳の若者向けに1年間の試行錯誤の機会を与えている。対象となるのは、社会の矛盾を解決・軽減するためのアイデアを生み出し、活動することを強く希望している若者である。認定者には活動立ち上げ資金が提供され、認定者同士のコミュニティに迎え入れられる。そしてもちろん、活動期間中は必要に応じて、アショカ本部からアドバイスを受けられる。高い理想を持ちながらも、資金面や具体的な組織運営についての仕組みを知らないばかりに壁にぶつかっている若者は多い。社会に対して違和感を覚えている若者が、自ら行動を起こしていけるよう、彼らにチャンスを与え、一人でも多くのソーシャル・アントレプレナーが輩出されることを目指している。

ソーシャル・アントレプレナーと社会リーダー

ソーシャル・アントレプレナーやイノベーターにネットワークやスキル、資金など多面的な支援を提供することにより、その成長を促し、成功確率の向上と増殖を助けているのがアショカの活動である。すでに素地として備えている「社会問題の存在に気づき、その根幹を変えたい」という思いが、アショカからの支援や他のフェローとのコミュニケーションにより、一段と強固なものに展開されていく。その過程は、社会リーダー創造の可能性を多大に感じさせる。

【引用・参考文献】
『静かなるイノベーション―私が世界の社会起業家たちに学んだこと』ビバリー・シュワルツ(原著),藤﨑香里(翻訳),英治出版, 2013
日経ビジネスオンライン「ニュースを斬る 日本の社会起業家を支援する!(1)アショカが日本に上陸する理由」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110217/218468/?rt=nocnt
アショカ・ジャパン オフィシャルサイト(http://japan.ashoka.org
ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京 オフィシャルサイト(http://www.svptokyo.org
NPO法人えがおつなげて オフィシャルサイト(http://www.npo-egao.net

3.企業の社会的責任/CSR

CSR活動の推進が「社会リーダー」創造を生み出す

企業という社会的存在が、自身の社会の中でのありようを見つめ、より社会に期待される存在になっていく。成熟社会において、企業に大きく期待される姿勢だ。そして、このような姿勢は、従業員が、社会を思い、新たな社会価値を創造していこうという意思をも醸成する。その姿勢を表すものとして、企業の社会的責任(CSR)に対する関心が高まって久しい。

CSRが世界的に着目されてきたのには、ふたつの源流がある。1つは、米国エンロン、ワールドコムに代表される企業の不正行為に端を発した流れだ。コンプライアンス意識を高め、コーポレートガバナンスを整備し、企業の財務状況の公開や経営の透明性を高めるなどの説明責任を果たし、株主、顧客、従業員、地域市民などすべてのステークホルダーにふさわしい社会的存在であることを問われた。もう1つの流れは、主として環境問題や労働問題に端を発するものだ。グローバル視界でのサステナビリティ(持続可能性)の重要性が問われるなかで、社会的存在である企業の姿勢が問われた。それはビジネスそのもののありようにも及ぶものだ。

このような大きな源流を持つものだけに、その指し示す範囲は明示的ではなく、幅広い。寄付、フィランソロピー(慈善事業)、メセナ(文化芸術支援事業)といった社会貢献活動、社外取締役の導入などのガバナンス改革、自社の事業活動の環境等への配慮など、広範なものが挙げられる。こうした広範な活動のなかでも、社会課題に対峙し、企業としての責任を果たすCSR活動に関与する社員のなかから、「社会リーダー」が生まれることが期待される。

ここではCSRの具体的な活動内容について、アメリカのセールスフォース・ドットコム社とイギリスとオランダに本拠地を置くユニリーバ社を例に見ていこう。

セールスフォース・ドットコム(アメリカ)CSR「1-1-1モデル」

世界最大規模のクラウド型CRM(顧客管理)ベンダーであるセールスフォース・ドットコム。アメリカ・サンフランシスコ本社ほか、ヨーロッパと日本を含むアジアに拠点があり、全世界で15万社以上の業種・規模の企業がこのサービスを利用している。現在でも急速な成長を遂げている背景には、積極的な社会貢献活動の強化がある。1999年の創業以降取り組まれている、ビジネスと統合した社会貢献活動は、Time(社員によるボランティア活動)、Product(非営利団体への製品寄贈・割引)、Equity(非営利団体への助成)の3つの柱で構成されており、就業時間の1%、株式の1%、製品の1%を’非営利団体に提供する1-1-1モデルと呼ばれ、活動規模は年々拡大している。

社員に自主性を育む仕組み

セールスフォース・ドットコムでは、社会貢献活動専門の部署「セールスフォース・ドットコムファンデーション」を設け、社員の自主的な社会貢献活動をバックアップする制度や、社員による寄付金に対して会社が同額を支援金として積み増す「マッチング寄付制度」という制度を用意している。また、年に6日間はボランティアに利用できる有給休暇が与えられており、社会貢献をしたいという社員の興味・関心を引き出し、持続させていく工夫がされている。また、こういった社風に対し、賛同する数十ものパートナー企業が、非営利団体向けに設計された技術アプリケーションの構築と導入に、情熱と専門性を傾けているという。

日本における具体的な社会貢献活動としては、東日本大震災復興支援活動をはじめ、外国にルーツを持つ子どもたちの支援、障がいを持った人へのIT支援などがある。こういった社員の活動は、社員自身の誇りとなって蓄積され、会社全体の士気を向上させることにつながっているようである。また、自分たちのボランティア活動への協力を社内で呼びかけることで、社内でのコミュニケーションチャンスが広がり、結果的に本業であるビジネスにもよい循環を生んでいる。

(画像元:セールスフォース・ドットコム  オフィシャルホームページ)

ユニリーバ(オランダ・イギリス)CSR「サステナブル・リビング・プラン」

ユニリーバは、洗剤、食品、ヘアケア、トイレタリーなど400以上のブランドを有する世界的な消費財メーカーで、1880年代に石鹸を発売したことから始まる。衛生的な習慣が根付いていなかった当時のイギリスに「きれいになる」「きれいな家に住む」という新しい概念を提供し、今もなお、企業のビジョンとして受け継がれている。

同社が2010年から展開している成長戦略ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランは、環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスの規模を2倍にすることを目標としている。

2020年をターゲットに、「健康・衛生」「環境負荷の削減」「経済発展」の3つの分野で9つの大きな目標を設定。製品を送り出すところまでではなく、その製品がどのように活用され、廃棄されていくかまでを目標に含み、サプライヤーや物流業者、消費者の環境負荷にもコミットしている。

(画像元:ユニリーバ・グローバルサイト)

3つの分野で9つの目標を設定

<健康・衛生>

  • 10億人以上がより衛生的な習慣を身につけられるようにすること
  • ユニリーバの全製品に関して継続的に味と栄養面の品質改善に努めること

<環境負荷の削減>

  • 製品のライフサイクル全体から生じる温室効果ガスを半減させること
  • 消費者がユニリーバの製品を使う際の水の量を半減させること
  • 消費者の使用1回あたりの廃棄物を半減させること
  • 原材料となる農産物すべてで持続可能な調達を実現すること

<経済発展>

  • 自社だけでなく、サプライチェーン全体で人権・労働者の権利が尊重されるようにすること
  • 500万人の女性のエンパワーメントを実現すること
  • 550万人の生活の向上をサポートすること

これは、新興国などを含めた各地域で、人類が抱える大きな課題の解決を、ステークホルダーと協働して行うという壮大なストーリーだ。自社だけでは難しい活動を、消費者やコミュニティの共感を呼ぶことで、一緒に解決に取り組むよう促している。

現在、これらの目標に対する進捗状況は日々、ユニリーバのウェブサイト上に公表されている。プロジェクトの開始当初は懐疑的であった社員もいたが、「利益を得ながら、より広範囲な社会的目標を達成することが可能である」という認識が徐々に社内で共有され、これまで以上に仕事に対してエネルギッシュに取り組むことにつながっているという。

2社のCSRから見えるもの

企業において、事業と社会貢献を両立・統合させること自体が、新たな社会価値の創造となってくる。同時に、その企業自体が法人「社会リーダー」であり、また、そこで業務に携わる社員・活動するステークホルダーのなかから個人「社会リーダー」が出現してくると考えられる。法人代表者・CEOの強い意志・理念のもと(その人そのものが「社会リーダー」であることが多いが)、社内から「社会リーダー(候補者)」を選抜し、あるいは社外から採用して育成していく。また法人内の「社会リーダー」は、社会課題の解決と業績の両方を追求する業務・活動を通じて、次世代の「社会リーダー」を創造・拡大再生産していくものと考えられる。そして、その「社会リーダー」がまた将来において、その法人の内外で「社会リーダー」として活躍することが期待されるのである。

近年では、本業そのもので社会課題解決を実現し、新たな社会価値を創造していくCSV(Creating Shared Value)という概念も流通し、企業の社会的な取り組みは、さらに高まっていくことが期待される。企業が、たくさんの「社会リーダー」を生み出す公器となる可能性は高い。

【引用・参考文献】
『世界を変えるビジネス―戦略的な社会貢献活動を実践する20人の偉大な経営者たち』マーク・ベニオフ(原著),カーリー・アドラー(原著),齊藤英孝(翻訳), ダイヤモンド社, 2008
セールスフォース・ドットコム日本 オフィシャルホームページ(http://www.salesforce.com/jp/
ユニリーバ・ジャパン オフィシャルホームページ(http://www.unilever.co.jp
CSR Magazine「国内企業最前線 就業時間、製品、株式の1%を’社会貢献に セールスフォース・ドットコムの『1/1/1』モデル」(http://www.csr-magazine.com/blog/2013/03/04/salesforce/)
BIZ DESIGN「ソーシャルアクション『社会の潮目』vol.3 セールスフォース・ドットコム『1/1/1』モデル」
http://www.biz-design.co.jp/socialaction/03.html