2014年度研究プロジェクト

1.共生・多様性尊重教育 スウェーデン

移民問題を背景に「共生」が教育カリキュラムに

sweden現在、「共生」に関わる教育が世界的に展開されている。この背景には、1996年のユネスコ「21世紀教育国際委員会」による「共生」教育に関する報告書や、国連総会により決議された「人権教育のための国連10年」施策、「国連寛容デー」実施などにより、「共生」教育に世界が呼応しているためと見られている。そもそも「共生」とは異なった人種や人格同士がお互いを認め合い、共に生活することである。「共生」という概念を幼少期の教育カリキュラムに組み込むことで、より多くの子どもたちが相手の存在意義を認め、自分以外の他者がどのような生活スタイル、思想を持っているかを意識するようになる。「自分以外の人々のために」という意識にまで「共生」教育が派生すれば、子どもたちの資質になんらかの影響を与え、「社会リーダー」が生まれる確率を高めることにつながるかもしれない。国家を挙げて「共生」教育に取り組むスウェーデンの教育カリキュラムについて詳細を見ていこう。

スウェーデンは1980年代より、他国に先駆けて「他者との関係」についての項目を学習指導要領に取り入れ、「共生」に関わる内容をカリキュラム化してきた。スウェーデンが「共生」を教育の根底におくのは、この国の人口の10%は他国からの移民により構成されており、文化伝統の異なる80カ国の人が共に暮らしている多民族国家であるナショナリズムがあるからである。1930年代までは移民の構成比は1%程度であったが、1950~60年代になると人口の流出などで労働力が不足し、女性や移民の労働力に頼らざるを得なくなった。これをきっかけに、移民流入に対する緩和策がとられ、結果、続々と移民が流入するようになった。しかし、1980年頃からスウェーデン人と移民による摩擦・衝突が頻繁に起こりはじめ、その後、社会問題に発展していった。それに端を発し、国家を挙げて「移民との共生」問題が教育課題として取り上げられるようになったのである。

1980年以降、「共生」の授業は、平等と個を尊重したスカンジナビア・デモクラシー、つまり北欧諸国の福祉を重視した、普遍主義に則る社会民主主義体制を体現するものとして扱われるようになり、義務教育として低学年から複数教科にまたがるクロス・カリキュラムとして位置づけられた。これは、日本でいうところの「総合的な学習の時間」が目指したことの一部であると捉えることができる。「社会科」では「多様性(他者理解)」「男女の共生」など、「生物」では「他者への責任」、「家庭科」では「男女の性と性役割」「多文化理解」、「スポーツと健康科」では「障害者理解」などのテーマを配置した上で授業のシラバスが作成されている。子どもたちは、発達段階に応じて構成されるこれらのカリキュラムを通して、排除的・排他的ではない「インクルーシブ(包括的)な社会」の構成員であることを目指すのである。

(画像元 スウェーデン 学校庁ホームページ )

どのクラスにもあるいじめ問題

発達に応じて段階的に「共生」教育を施していても、小・中学生のいじめ問題はスウェーデンにも当然、存在する。いじめを発見した担任は、加害者、被害者、その他関わった生徒とともに、どうやっていじめを止めるかの話し合いを行う。その後、段階を追って、再発していないかどうかの確認、関係者と話し合った内容の文書化、保護者への通達、校長を含めた話し合いへとステップを踏んでいく。もし、まだいじめが止まない場合は、加害者の転校、施設への移送、警察への通報などの対応がなされるという。

例えば小学生の場合、毎週最低1時間はいじめ問題についての授業を持つことが義務づけられており、自信、好奇心、計画性、自制心、仲間意識、意思疎通能力、協調性――の7つの能力育成に主眼をおいたEQ学習とロールプレイを行う。ロールプレイとは、各生徒がいじめ加害者や被害者、その周りの人間などを、それぞれ代わる代わる演じる授業である。また、教室で先生が生徒に「今週、嫌な目にあったことがあるか」「誰かを嫌な目にあわせたか」「嫌な目にあったり、嫌な目にあわせたことを、言い忘れたことはないか」という質問をし、いじめ問題をリアルタイムに把握し、解決する手法を取り入れているという。

「共生」教育を各教科のなかで学びながら、それと並行して、生徒たちの実生活に潜む「いじめ」問題を把握し、向き合うことで、より「共生」について深く認識し、理解することに貢献している。「共生」教育がより具体性を持って機能していると言えるだろう。

社会に合わせて対応する「共生」カリキュラム

スウェーデンの学習指導要領を検証した研究者によると、「すべての学習指導要領において『社会的正義』『教育の平等』『国に活力を与える』という教育理念が貫かれており、変化する社会環境に合わせて、『共生』のカリキュラム内容もフレキシブルに対応させてきている」と評価されている。そのような「共生」教育は、福祉国家スウェーデンを体現した、特徴的なものであるようだ。

そもそもなぜ、移民をはじめとする多様な他者との「共生」が幼少期から必要なのであろうか。同国では、いまや移民は国民の10%を占めており、その大半が他国からの難民である。当然、さまざまな宗教や思考からなるアイデンティティを持っている。このような環境においては、お互いの違いを認識し始める時期から、彼らを「多様な他者」であると理解させ、尊重する「共生」教育を行うことが必要なのだ。子どもの発達段階に応じて、角度やアプローチ法を変え、繰り返し行われてきているのである。

「多文化共生社会」を目指し、「多様性」を念頭においたこのような教育が、スウェーデン人としての礎となっていることは言うまでもない。ただし近年では、力を持ちすぎた移民に対し、排外的な思考を持つスウェーデン人が見られるようになってきたという指摘もある。スウェーデン人の「多様性に対して寛容なアイデンティティ」が揺らぎ始めているという声も少なからず聞こえてきている。このような社会の動きを踏まえると、「共生」教育の今後のあり方が再度問われるべきであり、その重要性をどのようにして幼少期の子どもたちに教えていくかが、国家を挙げての課題となるのかもしれない。

「共生・多様性」教育から始まる人格形成

これまで見てきたように、スウェーデンの教育は、各人の「多様性」を尊重し、「共生していく」ことを重視している。幼少期からの発達段階にあわせた継続的かつ複合的な「共生・多様性」教育を通じて、徹底して個の尊重と多様性の受容意識を子どもたちに学ばせ、自らとは異なる他者との関わりを絶えず意識し続けることによって、自らが属する集団の枠を超えた「人々のために」という価値観(社会貢献意識)を醸成する。そして、これが社会リーダー創造の基盤の一部を構成していると考えられる。


【引用・参考文献】
「スウェーデンの義務教育における『共生』のための学び―現行学習指導要領における教育内容とその成立基盤―」戸野塚厚子(比較教育学研究, 第34号, 86―103,2007)
「スウェーデンの外国人政策と立法動向」井樋三枝子(外国の立法, 246, 139―151,2010)
『世界に学ぼう!子育て支援』汐見稔幸(編著), フレーベル館, 2003
『あなた自身の社会 スウェーデンの中学教科書』アーネ・リンドクウィスト/ヤン・ウェステル, 川上邦夫(訳), 新評論, 1997
「北欧に学べ なぜ彼らは世界一が取れるのか」週刊ダイヤモンド,2015年3月14日号,ダイヤモンド社
『北欧教育の秘密―スウェーデンの保育園から就職まで』遠山哲央, 柘植書房新社, 2008

2015年07月22日