2014年度研究プロジェクト

学問効果の共通性
ただ、ここで思い出しておくべきは、価値創造に関する質問項目にもっとも肯定的な回答をしていたのが研究者(文理)たちだったという先述の事実である。学習関連項目と価値創造行動とのあいだにプラスの関係がみられるといえども、研究者になった卒業生の回答に引きずられてそのような傾向が抽出されただけなのかもしれず、さらにいえば、灘はとくに理系に強い学校として知られている。数学や物理などに熱心だった生徒が、大学で理系領域の学問に真摯に取り組み、就業後は専門を活かした様々なイノベーション事業に携わっているという、いわば「わかりやすい流れ」が結果に強くあらわれただけだという可能性もあろう。そこで、卒業生のなかでも、「企業勤務者として働いている者」のみを抽出して相関係数を計算する。また、領域に関しても、「文系領域に進学した者」と「理工農領域に進学した者」とを取り出して、それぞれの相関係数を出すという作業を試みた。その結果をまとめたものが、図4だ。プラスの相関がみられた部分に「+」、相関がみられなかった部分を空白にしただけの簡単な表ではあるが、興味深い事実もみえてくる。

図4 卒業生のタイプ別に分析した相関表図4 卒業生のタイプ別に分析した相関表
※図をクリックすると拡大します。

すなわち、教科と学問に関する経験こそ、すべてのタイプでプラスの効果がみられるものになっており、なにより内容に面白味を感じたかどうかが、価値創造の重要な鍵になっているのである。企業勤務者であろうと、あるいは文系領域進学者であろうと、理工農領域進学者であろうと、学校や大学で学んだ内容に関心を持った者ほど、社会に新しい価値を提供できている。

ただ、「“教科”に感じた面白味」の効果に関しては、解釈に留意が必要なところもある。というのは、調査では、「中高時代の成績」や「大学時代の成績」についても五択(下のほう…上のほう)で答えてもらったが、これらの回答を含めて多変量分析まで進めれば、理工農領域進学者を中心に「中高時代の勉強については、教科の内容に面白味を感じることより、成績のほうが大事」ということを示唆する結果が得られるからである。なかには、より高い認知能力が新たな価値創出の条件になっている世界があるようだ。

それに対して、「“大学で専攻した分野”に感じた面白味」のほうは、どのような分析を試みても、必ず有意な関係性が残ることになる。「大学時代の成績」に「中高時代の成績」ほどの情報がないだけなのかもしれないが、ここまでの安定性はおおいに注目されよう。面白味を感じながら学問に取り組むことは、新しい価値を生み出す仕事に近づくための大きな後押しになる。

なお、補足として「学校行事・課外活動積極性」と「教養獲得」についても指摘しておけば、前者は文系領域進学者にとって、後者は理工農領域進学者にとって有意義な経験になっている。学校行事に取り組んだ経験は事務や企画といった仕事に就いたときに、教養はむしろ専門性の強い仕事を進めるときに武器になるとみられるが、いずれにしても、これらの効果が「特定のタイプで強くあらわれるもの」だったということはもうひとつの発見だろう。また、理工農領域進学者で、友人関連や集団関連の項目にまったく影響がみられないことにも留意しておきたい。これら領域における価値創造のベースにあるのは、基本的に知識や能力といったものであるようだ。

2015年03月31日