2014年度研究プロジェクト

リーダー素質を高める在学時代の経験は何か
ここで話をもとに戻せば、今回の議論は、リーダー素質を高める経験は何かという疑問から出発した。そして、これまでみてきた在学時代の活動のどれが素質の向上をもたらしていても不思議ではないように思われる。いうまでもなく、就業後のキャリアの影響も忘れてはならない。けれども、部活動や課外活動で培うこと。遊びや趣味活動から学ぶこと。読書によって育まれること。これらはいずれも「人」として大きな成長をもたらしてくれることに違いはなく、なによりこれら在学時代のさまざまな活動経験が、総合的にリーダー素質を高めているという側面は多分にあるように思われる。

しかしながら、より効果的な学校経験は何か。あるいは、素質の向上をもたらす要件として当然視されていたものに、実は目立った効果が認められないということはないか。こうした問いが、いまだ解明されていない実証的な課題として残っているのもたしかであろう。そこでここからは、データを開成・灘卒業生調査のものに限定し、以上でみてきた経験の影響を「ロジスティック回帰分析」という方法で検証することにしたい。

ロジスティック回帰分析とは、「有無」といった「1」と「0」の2つのカテゴリで示される目標変数に影響を与える要因が何かを特定化し、影響を与える要因については、その要因が加わることによって目標変数が「1」になる確率がどれぐらい高まるのかを検証する手法である。今回はこの手法を用いて、「他人には描けないような、大きなビジョンやプランを描きたいと思う」と「喜んで自分についてきてくれる人がいる」のそれぞれについて、「傾向有(=1,傾向無が0)」と回答する確率を高める在学時代の経験が何であり、その影響がどの程度なのかを探ることにしよう。分析に投入したのは、上述の活動を中心とした在学時代のさまざまな経験であり、現在の年齢も加えた。図6は、その結果として影響が認められた要因(経験)を簡単にまとめたものである。

図6 リーダー素質(就業後~現在)に影響を与えている在学時代の経験図6 リーダー素質(就業後~現在)に影響を与えている在学時代の経験

分析には、中高時代の経験10項目、大学時代の経験13項目に年齢と、合わせて24項目を投入したが、2つの素質に影響を与えていたのは、それぞれ5項目だった。そしてこの結果からは、大きく次の3点が指摘されるように思う。

第一に、在学時代の経験のなかで、2つのリーダー素質にマイナスの影響を与えているものはない。このことは、とりわけ勉強面の効果を理解するにあたって示唆的だろう。すなわち、受験勉強を頑張ること、あるいは学問に真摯に取り組むことは、「知識ばかりの人間関係に不得手なタイプ」になることを意味しない。むしろ、学問分野の内容に面白味を感じられるほどの状況に達することが、「他人には描けられないような大きなビジョンやプランを描きたい」という熱意を持つことにつながるという結果も見受けられる。

第二に、「大きなビジョンやプランを描きたい」という傾向を強めるのは大学進学以降の経験に限定されるのに対し、「喜んで自分についてきてくれる人がいる」という傾向については、中高時代の経験も関わっている。周りからの信頼獲得に関する項目の成長が早い時期から確認されることは冒頭でも再確認したとおりだが、ここに理由のひとつをみることができるだろう。そして、中高時代のさまざまな活動のなかで、この項目の成長に結びつくのは、「学校行事・課外活動への積極性」と「歴史小説・ノンフィクション・ドキュメンタリー関連の書籍を読むこと」の2つである。前者については、「非積極的=1」、「積極的+リーダー経験無=2」、「積極的+リーダー経験有=3」と得点化したものを分析に用いたが、結果によれば、積極性が1増すとフォロワーがいる状況に1.32倍ほどなりやすくなる。また、歴史小説等を中高時代に読んでいたことは、読まなかった人より1.44倍ほどフォロワーがいる状況になりやすい。経営者には歴史好きが多いという話もあるようだが、早くからこうしたジャンルに馴染むことによって、自然と人心掌握術の本質がみえるようになるということなのかもしれない。

そして第三に、フォロワーに恵まれる状況の背後にあるのは、「学校行事・課題活動」や「体育会・サークル活動」への積極性であって、「遊び・趣味活動」あるいは「部活動」への積極性は関係ないということである。やや意外ともいえるこの結果については、たとえば、「好きなもの(こと)を介した均質な少人数グループの活動では、周りからの信頼を集めるという次元の魅力は形成されない」と考えれば、理解しやすくなるのではないだろうか。学校や学年全体をまとめる必要がある行事や新しい企画も試みる生徒会活動。女子や地方出身者といったあまり接点のなかった層との関わり合いも増える大学での体育会・サークル活動。こうした取り組みに精力を注ぐことの方が、リーダー素質を伸ばすために有益だというのは、それなりに説得力があるロジックのように思われる。

2015年03月17日