2014年度研究プロジェクト

最も重要なのは、論理である
柳沢幸雄氏

― 言葉での説明能力、確かに重要ですね。言葉で伝えるときに、ではどういったスキルが必要なのでしょうか。

柳沢 万国共通の、人類にとって共通のお互いを理解するための手段というのは、恋愛感情を除けば、論理だけだと思うんです。なぜ、何のためにそれをやるのかという論理をきちんと組み立てることができれば、その集団が3人のグループでも、1000人の学校でも、数十万人の大企業でも、あるいは数億人の国民でも言葉で集団を引っ張っていくことができる。このように物事を言葉を使って論理的に組み立て、集団を了解させられる人。それがリーダーだと思います。

具体的な例を挙げると、戦後の首相の中で小泉純一郎はリーダーとしての資質に富んでいたと思う。つまり彼の政治手法は「ワン・フレーズ・ポリティクス」と揶揄されることもありましたが、ワン・フレーズ、ひとつの言葉で民衆をぱっと集め、魅了し、自分の望む方向に引っ張っていった。彼ほど言葉の使い方のうまい首相はいない。

グローバル化というと、英語力が必要という話になりがちですが、私は言語は論理を運ぶ客車だと思っている。つまり論理をどの言葉に乗せるかはどうでもいい。別に日本語であっても、英語であっても、中国語であってもかまわない。ただ、お互いが了解可能になるために共通の言葉が必要になるというだけの話。でも肝心の論理が不明確だと、相手を了解させることはできない。だから英語を勉強する前にロジカル・シンキングとロジカル・スピーキングを身につけることが必要だと思う。

― その論理の力を身につけるためには、どうすればいいのでしょうか。

柳沢 論理とは形式美。形式があるわけ。それを日本の学校教育の中で明確に意識してやっているのは、幾何学。だから開成では、中学校で幾何学をやる。仮定と結論を明示して、証明、終了という一連の決まったパターンを繰り返すことにより、論理的に考え、話す力は鍛えられます。

ボストンの学校ではこの論理系をきちんとしたパターンで教えることにとても力を入れている。小学校4年生から大学卒業まで、各科目で必ず半年に1回ほどプロジェクトと称する学習があります。生徒一人ひとりにテーマを与えて、そのテーマについて半年間研究して成果を報告させるという授業です。

そのテーマに関する本を読んで、内容を咀嚼して、カードを作る。次に関連する項目がまとまるようにカードを並べ替える。そしてカードのまとまり毎にタイトルをつける。このタイトルが報告書の目次の章の題になるわけです。このようにして目次を作ることが、そのテーマに関して自分の論理の構成することになる。論理の骨格が決まったら、内容を肉付けしていく。これが論理の基本的な構築法で、繰り返し行うことによって論理的に考え、伝えることができるようになり、受け手側も理解し、了解できるようになるんです。

つまり、共通の言語以前に最も重要なのは論理の構築法。お互いに了解可能な共通の手段であって、アメリカはそれを国民に共有できるようにしている。私は、これこそが最も重要だと思うんです。

だから私がハーバードや東大の大学院で教えていたとき、学生たちに博論、修論や卒論のための研究を始める前にまず3~4ヶ月間かけて学位論文の目次を書かせていました。そうすることで、全体の構造や自分が取り組む研究のゴールが見え、行き当たりばったりではない論理的な研究になる。

実は、新しいものを生み出すときは常にこの構造なんです。例えば革新的な商品が世にでるとき、最初に企画した人が必ずいる。それで会社の上層部を説得して、これがこうなってこうなるとこれだけ売れるから、作りましょうという話になるわけ。まずゴールを見通して、そのゴールに対してきちんと説明できる構造をちゃんと用意する。もちろんそこには仮説があって、その仮説を一つひとつ検証していく。そういう意味では大学の研究も新製品の開発も全く同じで、それこそがリーダーが持っていなければいけない基本的な素養なんです。

― その取り組むべき新しいこと・目標を見つけるためにはどうすればいいのでしょうか。

柳沢 それは各個人がやって楽しいと思うことでしょうね。さっき「社会的使命」という言葉に私は違和感を感じるといったでしょう? 別に社会的使命なんてなくたっていい。自分がやって楽しいと思うことをすればいいものは必ず出ると私は信じ込んでいる。

それはなぜかというと、嫌いなもので努力はできないから。例えばイチローは野球が好きだから常人では不可能な努力ができ、その結果、前人未到の記録を残せるわけでしょう。だからそれはもう、みんな昔から知っているじゃない。「好きこそものの上手なれ」でね、夢中になってやっているから、できるようになっちゃう。でも好きなものは各人、各様、全員違うから、そこをちゃんと好きなことを見つけだせるように支えてあげる教育が、一番重要。

― 開成では在学期間中に自分の好きなことに出会うための教育が組み込まれているのですね。

柳沢 そうです。開成の教育の中では、教室での授業と課外活動の両者を重要視しています。教室の授業というのはいわば基礎的な知識だから、これは好き・嫌いにかかわらずやってもらわなければ困る。だけど課外活動は自分の好きなことをやれと。だから開成には70近い部があるんです。その中から自分で好きなものを選んで、自分の個性を発揮すればいいでしょう。自分の好きなことにはまっていくことに楽しみを覚えると、今度はちゃんと自分はこれをやりたいですと主張することができるようになる。それができるようになったら、開成の教育の基本的な部分は完了。

― 「どこの大学に行きたい」ではなく、「何がやりたい」かを生徒に見つけさせるということなんですね。

柳沢 その通りです。この学校では、東大へ行けとは誰も言わない。なのに東大へ行く生徒が多いのは、先輩との交流を通じて自分も将来こうなりたい、そのためには東大へ行きたいと、自分の将来像をイメージするからです。自分の希望を表現できるようにするのがわれわれの能動的な教育で、そこから先は生徒一人一人の個性、希望に合わせた受け身で対応しています。

生徒が海外受験をしたいと申し出てきたので、ちゃんとアドバイスできるような組織を作るし、数学オリンピックの大会に出たいけど試験が重なって困っているという生徒には出来る限り便宜を図ります。

こんな感じで、やりたいことを見つけたらその後どうするかは生徒次第。みんなが自分の居場所、自分の個性を表現することの心地よさを知っているから、少々変わっているやつでも全然違和感なく受け入れられる。

みんな自分の個性を表現することにためらいがないので、勉強でも部活でも何でも全部自主的にやるんです。逆に先生があれやれこれやれと指示しても生徒は聞かない(笑)。

2015年02月19日