2014年度研究プロジェクト

人物教育の基本は家庭
朝比奈一郎氏
― 学校教育の中で、伝記を使った人物教育をもっとやるべきなのでしょうか。

朝比奈 いや、本来それは家庭教育でやるべきでしょう。学校教育は読み書きそろばんの実学に特化すべきだと思います。そもそも、人物教育は地域も含めた家庭が担い、実学は国家が学校を用意し、面倒みますという役割分担だったはずなのに、最近は何でも学校教育に押し付けようとする風潮があります。困ったことです。
それでも昔の小中学校では先生自身が優秀で感情豊かで、読み書きそろばんを教える中でも、子どもの感性を磨くような授業をしていたはずですが、昨今はサラリーマン教師が増え、しかもしっかりした家庭教育をやらないものだから、感情が貧困な子どもが増えてしまったのではないかと。
家庭教育といっても、意図的なものでなくてもいいんです。兄弟含め、感情は人間関係の中で勝手に育っていくものです。私には子どもが3人いて、お姉ちゃんはずるいとか、喧嘩ばかりしています。でもそういう喧嘩の中から自分たちで人間関係のルールを見つけ、問題を解決していく。暴力はいけませんが、些細な言い争いさえも駄目だと親が頭ごなしに叱るのもどうかと思います。

師自身が行動するリーダーたれ

― 親にせよ、教師にせよ、今の大人たちは摩擦を嫌います。子どもたちをそこから遠ざけ、無菌状態においておく傾向があります。

朝比奈 おっしゃる通りです。僕も塾生によく言います。時には土足で相手に踏み込め、と。人の魂に火をつけ、次の一歩を踏み出させるには人間同士のぶつかり合いが必要なんですよ。そのぶつかり合いは直接的なものではなくてもいいんです。
明治初期、札幌農学校で教えたウィリアム・クラークというアメリカ人はご存じですよね。彼がそこを去るにあたって残した「少年よ、大志を抱け」という言葉はあまりにも有名です。このクラーク、どのくらいの期間、農学校にいたと思いますか?

― クラークはそこで学んでいた内村鑑三や新渡戸稲造に多大な影響を及ぼしたはずですから、結構長い期間、在籍していたんでしょうね。

朝比奈 違うんです。たった8カ月しかいなかったんです。内村も新渡戸も直接教えていないですよ。それなのに、なぜ農学校生の魂に火をつけることができたか。
私はクラーク自身が単なる教育者ではなくて、アクションする人だったからではないかと思っています。現にクラークはアメリカに帰国後、事業に手を出し、失敗もしている。
「少年よ、大志を抱け」というフレーズには実は続きがあるんですよ。“Boys, be ambitious”の後に “like this old man.”と続けたと言われています。this old manとは自分のこと、この老人のように若いあなた方も大志を抱け、と言ったんです。

― 頑張っている俺の後に続け、と。

朝比奈 吉田松陰もそうですね。松下村塾をつくり子弟を教えましたが、彼は教育者ではなく、革命の実践者だった。
私もこの塾を「私教える人、あなた学ぶ人」という形にしたくありませんでしたので塾長ではなく塾頭としています。塾頭たる私も、その仕事とは別に、日本を変えるための政策づくりに携わっています。
この塾を始める時、役所の先輩から「君はまだ30代だ。塾頭なんて若すぎる。多くの経験を積んで世の中の酸いも甘いも噛みしめられる70歳くらいになってからのほうがいいんじゃないか」とアドバイスされたんです。でも僕は違うと思いました。未熟な30代の自分でも「日本を変えるんだ」という志を持ち、そのための活動を行いつつ、塾頭もつとめ、講義もするからこそ、若い人の魂により大きな火がつけられると信じています。

プロフィール
朝比奈一郎
青山社中株式会社 筆頭代表
中央大学(公共政策研究科)客員教授

1973年東京都生まれ。
東京大学法学部卒業。ハーバード大行政大学院修了(修士)。97年経済産業省(当時の通商産業省)入省。エネルギー政策、インフラ輸出政策などを担当。アジア等の新興国へのインフラ・システム輸出では省内で中心的役割を果たす。小泉内閣では内閣官房に出向。特殊法人・独立行政法人改革に携わる。2003年にNPO法人「新しい霞ヶ関を創る若手の会」(プロジェクトK)を立ち上げ、初代代表に就任。10年に青山社中株式会社を創立。13年より、総務省 地域力創造アドバイザーを務める。

青山社中株式会社
http://aoyamashachu.com/

TEXT=荻野進介 PHOTO=刑部友康

2015年01月29日