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研究レポート

生徒たちに様々な世界を見せることの大切さ
和田孫博氏
- まさにキャリア教育ですね。

和田 そうです。もう10年以上続いていますが、うちには「土曜講座」というものがあります。学校として唯一仕掛けている場で、キャリア教育につながると考えています。当校の出身者や、趣味を持つ先生たちが講師に立つ講座を用意し、生徒は好きに自分で選択して受けることができる。政治、経済、科学技術、医療などジャンルも多彩で、これは受講率がかなりよく、「今度はこういう先生を呼んでほしい」と生徒から挙がる要望も多いんですよ。
先生のほうもだんだん刺激されてきて、普段の授業を超えて、自分の持っている能力や趣味を生かしてやり始めています。英語の先生がハングル語の基礎講座をやったり、なかには「誰でも趣味で砂金が採れる」というタイトルでフィールドワークをやっている先生もいる。砂金を採るのが趣味だから(笑)。また、医者や弁護士、あるいは官僚が行う講座もあり、生徒たちにいろいろな世界に触れてもらうことが目的です。

- キャリア教育の意味において有効ですね。お話を伺っていると、灘校は、指導要領のような縛りはあるにしても、かなり自由な授業をしていらっしゃる印象です。

和田 そうですね。そもそも、うちには「こうやって教えなさい」という基準がありません。どこか一点図抜けた生徒も多いので、極端な話、生徒ごとに教える工夫が必要になってきますから、個々の教員には自由な教え方を認めています。先生たちも担当科目をいい加減にして、生徒に退屈がられたり、面白くないと思われると、しんどさが自分に返ってきますから、皆それぞれ工夫していますよ。
それと、当校では、「担任団チーム」というかたちを採って、ひとつの学年を持ち上がりで6年間続けて担任しているんです。各教科の先生たちがフラットに相談し合いながら教育にあたれる“緩い幅”があり、そこにも自主性が生まれる。よく「灘校には6つの学校がある」という言われ方をしますが、本当にそうだと思います。自由な環境のなかで、生徒と先生との間に有機反応が起こり、それぞれの特色を形成しているのでしょう。

トップダウンよりボトムアップ
和田孫博氏

- 灘校で育った芽が、社会のあちこちに存在すれば楽しそうですし、新たな価値形成に力を発揮すると思うのですが、教育機関としては、そういう“埋め込み”は考えられないものでしょうか。

和田 それは広義のトップダウンになってしまうので、いかがなものかと思います。昨今は、首長のトップダウンの重要性が声高に言われていますが、能力のない人が立った場合のトップダウンは大変な事態を招きますよね。企業でもどこでも。
振り返れば、日本は明治時代から官僚機構をうまくつくり、それで国を動かしてきたわけです。だから、大臣がコロコロ変わっても、機能してこられた。企業にしても、極端な言い方をすれば、トップが誰でもそこそこうまくいく産業界の強みのようなものがあったと。その構造が崩れ、「それではいけない」という揺れ戻しはあるにしても、行きすぎたトップダウンは、やはり危険です。教育界においても今、それに振り回されている感があります。大学入試の大幅な変更、小中一貫校の創設といった案が浮上しているのは、その典型です。現場をわからずして強く政治力が働くのは怖い話です。押し付け憲法論と同じで、六・三・三制はGHQが押し付けたもので、それを変えたいという側面が見え隠れしているように思うのです。

- 国がいろいろと言っても、個別にやれればいいんでしょうけれど……。そのためには、現場にいる人間がもっと主体的に、まさにリーダーシップをとっていくかたちを活かさないといけないですね。

和田 そのとおりです。教育界だけの話じゃなく、それぞれの世界で、現場を知っている人が問題意識や自主性を持つこと。先述したように、必要に応じて、自然発生的にリーダーが生まれるのが本来なのですから。その豊かな芽を育てることが、私たちの役割であると考えています。

プロフィール
和田孫博(わだ まごひろ) 灘中学校・灘高等学校 校長

1952年大阪府生まれ。灘中学校・高等学校出身。76年、京都大学文学部卒業後、母校に英語科教諭として就職。野球部の監督・部長を務める。2007年より現職。

TEXT=内田丘子 PHOTO=和久六蔵

2015年02月19日