2014年度研究プロジェクト

和田孫博氏

和田孫博氏 灘中学校・灘高等学校 校長

名門進学校として名高い灘中学・高等学校は、創立以来約90年にわたり、質の高い教育を提供し続けてきた。中1から高3まで、同じ教員団が学年を持って上がる「6年間完全一貫教育」のもと、“人間形成”を第一義とし、伝統的に自主・自律を主眼に置いた教育方針を採っている。ここから多くのユニークな人材が輩出されているのは、周知のとおりだ。今の日本に求められているリーダーシップとは――。また、次世代リーダーを育むために肝要となる教育環境とは――。灘校を率いる和田孫博校長への取材を通じて考察する。

機能しなくなった旧来のリーダー育成システム

- 教育現場に立っていらっしゃる校長から見て、日本の次世代リーダーを輩出する社会システムは、今、どのように映っているのでしょう。

和田 旧来の日本社会では、あらゆる分野においてリーダーを育てていくシステムがうまく機能していました。戦前でいうなら軍隊組織。まず試験を受け、成績によって配属が決まり、各組織で勉強しながら優秀な人たちがリーダーへと育っていく。学校も同じで、平教員から始まり、様々な試験を受けながら教頭、校長となっていく各過程で、組織のリーダーはどうあるべきかを自然に身につけてきたわけです。これは、社会組織全般にあったシステムで、日本で重んじられてきましたが、どの時期からなのか、「それではダメだ」ということになり、結果、従前のリーダー養成システムが大きく崩れてしまった。官僚など最たるものでしょう。

- 確かに。日本の近代官僚制が高度に機能していたのは、70年代くらいまでかもしれません。明確な転換期はわかりませんが、社会とのボタンのかけ違いというか、「回っていたものが回らなくなった」と。

和田 何にでも功罪はありますが、今の社会に官僚システムが合っていないことは確かでしょう。こういった混沌とした時代が続くなか、どういうリーダーシップが必要なのかはっきり見えないのは、一番気がかりなところではあります。

不変の精神「精力善用・自他共栄」
和田孫博氏

- そういった社会変化を背景に、中・高生に対する教育方針や内容も変わってきているのでしょうか。

和田 カリキュラム自体は文科省の指導要領に沿って変化しますが、核に据えている教育方針は変わっていません。子どもの個性や、最も良いところを自由に伸ばす環境を提供することです。私学というのは、教育制度がいかに変わろうとも、人をどう育てるか、つまり建学の精神を貫かなければいけません。もっとも、それが時代に合わなくなれば変えていくべきですが、今はむしろ、時代が合ってきているように思っています。

- 灘校の建学精神は、「精力善用・自他共栄」ですね。この言葉を拝見した時、社会理念の一つであるノーマライゼーションに近い考え方だと感じたのですが。

和田 そうですね。教育者であり、柔道の祖としても有名な嘉納治五郎先生が定めたものですが、人それぞれが自分の持っている力を最大限に発揮し、互いの個性を認め合えば、皆が幸せになるという教えです。今考えれば、極めて進取的な提唱です。
だから私も、事あるごとにこの言葉についての話を生徒にするようにしています。例えば、国際間での問題に触れるならば、「日本は日本の得意分野で世界に貢献し、それ以外の貢献ができる国はそれをすればいい。各国が得意分野を発揮することで、世界は平和になっていくんだよ」という具合に。私自身、中学1年生を対象に、話をする場を持っていますが、こういった子どもたちが接したことのない世界の話や、あるいは、戦争や地震などの災害を乗り越えてきた当校の歴史を教材にしながら、そこに息づく「精力善用・自他共栄」の精神を伝えているのです。

- 中1の生徒たちにとっては、ほとんど未知の話だと思うのですが、何かしら影響を及ぼしていますか?

和田 すぐさま影響が出るというわけではないでしょうが、こんな例があります。つい先日、高校の生徒会が持ってきた企画があるんですよ。2015年の1月で、阪神・淡路大震災から20年が経ちますが、それを契機に、文化祭で展示室をつくろうというものです。また校内に残っている写真や資料だけでなく、自治体や20年以上勤めている先生たちにインタビューをして記録を集めて冊子を作ることも考えているようです。生徒会が設置・運営すると言っているのですが、「自分たちでできることをやろう」という思い、自主性が育まれているんだなぁと嬉しく思いますね。

(本インタビューは、2014年10月に実施されたものです)

2015年02月19日