ブランクからのキャリア再開発をどう支える?「仕事に就く」ための支援から「生き生き働き続ける」ための支援へ

これまでのコラムで、離職期間のある女性のキャリア再開発を巡って生じている問題や、本当にやりたい仕事に出会い、自分らしいキャリアを築くヒントについて整理してきた。

今回は、リクルートワークス研究所が2018年12月に行った「ブランクのある女性のキャリア3千人調査(※1)」(以下、リクルートワークス研究所の調査)の結果も一部紹介しながら、離職期間のある女性のキャリア再開発を支える支援について考えたい。

キャリア再開発に関わる問題の多くは「再就業後」に発生している

離職期間のある女性のキャリア再開発をめぐっては、以下の3つの問題があった。

一方、離職期間を経て本当にやりたい仕事に出会い、自分らしいキャリアを築いている女性には、以下の3つの行動のヒントがあった。

問題の多くや行動のヒントは再就業後(就業期)に関わっている。仕事を再開する前(就業希望期)の不安も、その対象は再就業後の生活や仕事についてのものである。

現在行われている様々な女性への再就業支援は、「仕事に就く」ことを主なゴールとしている。その一方、再就業後に生じやすい問題は解決されず、キャリア再開発につながる行動へのサポートもほとんど行われてこなかったと言える。

「試行期」のあるキャリアを推進する

以上を踏まえると、ブランクのある女性の再就業支援は「仕事に就く」ための支援から、再就業後を見据えて「生き生き働き続ける」ための支援へと位置づけし直す必要がある。

その第一歩として、連載の第2回で触れた再就業後の期間を、(1)いくつかの仕事を試して自分の強みを再確認したり、本当にやりたい仕事を見つける「試行期」と、(2)本当にやりたい仕事で働く「キャリア実現期」に分ける考え方を提案したい。再就業の最初から理想を叶えようとすれば、再就業の最初の一歩で理想に近づくことが必要になり、踏み出す時のハードルは上がってしまう。再就業後しばらくの間を「お試しの期間」と位置づけることで、一歩一歩の不安を小さくし、無理のない時間で仕事を再開したり、興味がある仕事をためすことを自分のキャリアの中で積極的に位置付けられるようになる。

図表1 試行期のあるキャリア再開発

その上で、試行期の模索を支えるために「3つの機会」を提供することが必要と考える。

その1つ目は、女性が無理なく試行期に移行できるよう、業務の範囲が明確で、短時間・短日数の就業機会を地域に創出することである。近年、人手不足の深刻化により、短時間で働ける仕事が増えているが、離職中の女性が最初の一歩を踏み出しやすい1日2~3時間の超短時間の仕事はまだ少ない。シフトによって実際に働く時間帯や子どもの病気で休めるかどうかの実情が分かりづらい場合も少なくない。

このような状況を踏まえ、いくつかの地方自治体では、人手不足に悩む地元企業と、仕事への不安が大きい女性をマッチングする手段として、地元企業と連携してシフトや業務内容の分解を行い、1日2~3時間、週3日などの超短時間で、業務の具体的な内容が分かりやすく、子どもの病気時にも休みやすい仕事を創出する取り組みが始まっている(※2) 。

ステップアップの機会を作るための支援

2つ目は、再就業した女性が、ステップアップできる就業機会を作ることである。当事者の女性へのインタビューでは、仕事を再開後しばらくして生活が落ち着いたり、仕事に慣れたりするなかで、他の仕事もやってみたい、もっと専門性を深められる仕事をしてみたいと思ったことが、次の仕事を模索するきっかけになっていた。しかし現在の職場ではそれが難しかったり、ステップアップできそうな仕事はフルタイムが前提だったりして、思うように希望を実現できないケースは少なくない。

ステップアップの機会を手にしにくいことは、女性の働く意欲が低下した再び離職する事態を招きかねない。実際に、3年以上の離職期間を経て再就業し、現在も仕事を続けている女性の中では、仕事で成長を実感できない人ほど、転職や離職を希望する割合が高かった。

地元企業と連携し、フルタイム以外の働き方でも意欲に応じて成長できる職場づくりを推進すること、そのような職場の存在が周知されるよう、表彰制度やミートアップ(企業と女性が直接対話できる場)、試行就業の仕組みを作ることなどが必要だろう。

図表2 ブランクのある女性就業者の成長実感と今後の就業希望

(注)3年以上の離職期間があり仕事を再開した経験のある女性で、現在就業者。「成長実感あり」は、「仕事を通じた成長を実感している」に「当てはまる」または「どちらかと言うと当てはまる」と回答した人、「成長実感なし」は、「どちらかと言うと当てはまらない」または「当てはまらない」と回答した人。

(出所)リクルートワークス研究所「ブランクのある女性のキャリア3千人調査」
2018年12月

企業を超えた多様なつながりの場を提供する

3つ目は、再就業者が企業の枠を超え、多様な人とつながれる「機会」を提供することである。上記調査によれば、再就業後に仕事やこれからのキャリアについて家族や親族以外の人に相談したことがある女性では、家族のみに相談した人や誰にも相談していない人と比べて、その後に離職する割合が低い(※3) 。さらに、仕事を続けている人の中でも、家族や親族以外に相談したことがある人で、これからの仕事や人生を展望することができている。しかしながら、再就業した女性の約7割は誰にも相談していないか、家族以外に相談した経験がない。

行政による支援としては、再就業した女性が、ロールモデルや同じ境遇の女性と出会える、学びやネットワーク形成ができる場を提供することが考えられる。また、地方自治体の女性就労支援の相談やセミナーは「これから再就職したい女性向け」が中心であるため、その発展編として、再就職後の働き方やこれからのキャリアに悩みを抱えている女性向けの相談会やセミナーを開催することも一案だろう。

離職期間のある女性が地域の中核人材に成長できるための支援を

離職期間のある女性を「短時間の労働力」として見ているうちは、女性が本当に活躍し、地域経済の活力や生産性を支えていくことは難しいだろう。女性が不安なく仕事に踏み出し、生き生きと働き続け、意欲や経験に応じて企業の中核人材として成長していくための道筋を作ること必要だ。本連載で、そのためのヒントを少しでも提供できたならば、何よりも幸甚である。

(※1)リクルートワークス研究所では、2018年12月に3年以上の離職期間を経て再就業した経験のある、25~54歳の子どもと配偶者のいる女性を対象に、再就業前の問題や再就業後の就業状態や仕事満足、行動や働く意識などについてアンケート調査(インターネットモニター調査)を実施した。
(※2)三重県鳥羽市、岩手県釜石市、兵庫県豊岡市などでこうした取り組みが行われている。
(※3)仕事やキャリアについての再就業後の相談状況別に再就業後の離職割合を見ると、(1)誰にも相談していない人で30%、(2)家族・親族のみに相談した人で35%、(3)家族・親族以外に相談した人で28%であった。回答はピアソンのχ2:9.66で、p<0.01で有意差が認められた。分析はデータに矛盾のある81名を除く。

「ブランクからのキャリア再開発をどう支える?」は今回で終了です。引き続き、当事者の方のインタビューを2回にわたりご紹介します。

また、ブランクからのキャリア再開発プロジェクトでは、2019年3月末に報告書を公表予定です。こちらもあわせてご覧ください。