ブランクからのキャリア再開発をどう支える?誰もが履歴書の空白を経験しうる時代、「ふたたび、いきいき働ける」が個人と地域の未来を救う

「履歴書の空白」が身近になる時代

これまでのキャリアは、「働き続けていること」が前提だった。履歴書に長期の空白期間(ブランク)があると、中途採用で不利になりやすく、良い仕事に就きにくくなるというのは「暗黙の了解」であった。
しかし、社会は大きく変わろうとしている。70歳、75歳まで働くことが当たり前になると言われるこれからの時代。職業キャリアの途中で、介護、健康の問題、意図しない家族の勤務地変更など、予想外のイベントに遭遇する可能性は高まっていく。テクノロジーの進化が人の仕事を大きく変えていくことにより、いったん仕事を辞めて、本格的な学び直しが必要になる場面も増えそうだ。ブランクを経験してもいきいきと働ける、しなやかで強靭な社会を作るべき時にあるのではないだろうか。

「ブランクを経て働く人材」がこれからの地域経済を支える

地方自治体にとっても、ブランクがある人材の活躍はより火急の政策課題となっていくだろう。地域経済の担い手である中小企業では、現場を支える人材、組織の中核人材の不足が、事業継続や成長の足かせとなっている(※1)。かさねて2020年代以降は若手や中堅層にあたる25~49歳人口の減少ペースが加速するため、この年齢層の採用は、より困難さを増していくと考えられる(図表1)。
つまり現在は、地域が人材の更なる不足に甘んじるのか、本格的な対抗手段を講じるのかの分岐点にある。働く希望のある人が軽やかに仕事に戻り、その後にキャリアを積める道を作れるかどうかは、地域を支える人材の豊かさや広がりに、大きな差を生じていく(※2)。

図表1 25~49歳人口の変化と5年間の減少幅


(注)2005、2010、2015年の人口は実数値、2020年以降は将来推計人口(出生中位<死亡中位>推計)を使用。
(出所)国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」「日本の将来推計人口(平成29年推計)」より作成

働く手前で立ち止まる860万人

現状では「働いていない」から「働く」への移行は、それほどスムーズではない。総務省「平成29年就業構造基本調査」によれば、働く希望があるが今は働いていない人=就業希望者は、全国で約860万人に上る(図表2)。このうち約半数の480万人は、求職活動をしていない男女である。
リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2018」によれば、求職活動を行っていない就業希望者の約7割は、その理由として適当な仕事が見つかりそうにないこと、仕事の探し方が分からないこと、やりたい仕事が分からないことを挙げている(※3) 。働きたい人はたくさんいるのに、多くが「希望の仕事を見つける」ことに難しさを感じ、働く手前で立ち止まっている。

図表2 就業希望者の規模


(注)就業希望者は、現在就業していないが就業希望のある人。女性既婚・未婚、男性既婚・未婚は60歳未満、シニアは60歳以上。
(出所)総務省「平成29年就業構造基本調査」より作成

ブランクからのキャリア再開発を研究するプロジェクト

履歴書の空白期間が珍しくなくなる時代、地域を支える人材の減少、そして働きたい希望を実現できない大量の人の存在。この3つの問題を同時に解くカギは、ブランクを経た人材が、ふたたびいきいきと働くための方策にある。

このような問題意識から、リクルートワークス研究所ではブランクからのキャリア再開発に関わる研究プロジェクトを立ち上げた。最初のターゲットとするのは、出産や夫の転勤などによる3年以上のブランクを経て働き、キャリアを再開発しようとする女性だ。

総務省「平成29年就業構造基本調査」によれば、現在仕事に就いていないものの、働くことを希望する59歳以下の既婚女性は約300万人いる。ブランクからのキャリア再開発を考える上で、この女性たちは最も身近で、これからの地域を支える人材として期待できるグループと言える。

キャリア再開発を阻む「動けない」「見通せない」「掴めない」という課題

ブランクを経験した女性が、ふたたびいきいきと働き、地域経済を支えていくためにはどのような支援が有効か。そのヒントは、先駆者が辿ってきたキャリアにある。
そこで本プロジェクトでは、先行調査として3年以上の長期ブランクを経験し、現在は正社員、あるいは知識・経験を活かす仕事に就いている女性13名へのインタビューを行い、女性がふたたび働き、キャリアを再開発しようとする時にどのような問題に直面し、どうすればそれを乗り越えられるのかを探求した。

ブランクからキャリアを再開発するプロセスには、働く希望を持ってから仕事を探し始めるまで、仕事を再開してから希望するキャリアを見出すまで、希望する仕事を掴んでから、などの局面があり、異なる課題(「動けない」「見通せない」「掴めない」)や局面間の移行を阻む壁がある。

インタビューから見えてきたキャリア再開発の課題、それを乗り越えるための方策について、次回以降の連載で詳しく紹介していきたい。

※1)中小企業庁『2017年版中小企業白書』によれば、中小企業の48%が中核人材(高い専門知識や技能を有し、事業活動の中枢を担う人材)の不足を、53%が労働人材(中核人材の指揮を受けて、事業の運営に不可欠な労働力を提供する人材)の不足を指摘している。またリクルートワークス研究所「新卒-中途採用横断レポート 人材不足下における企業の正規社員採用動向」(2018年8月23日)によれば、中小企業では新卒採用における未充足の割合について、採用計画数のうち29.9%が未充足となっている。未充足が生じた企業では未充足分の約7割が中途未経験者採用の増加によって埋められている。
※2)萌芽的な取り組みとして、行政が短時間の業務の創出や求人票の見直しをサポートし、ブランクのある人材の掘り起こしに成功する事例や、NPO法人がブランクのある人材が自分の強みを企業にアピールする場を創出し、地元企業で中核人材候補として働く機会につなげる事例などがある。また採用に苦戦する地方企業で、ブランクのある優秀な人材を登用し、管理職として活用する事例も見られる。ただしこうした動きはまだ一部で、大きな流れとはなっていない。
※3)リクルートワークス研究所では全国の約5万人を対象に追跡調査を行う「全国就業実態パネル調査」を実施しており、就業希望のある非求職者にその理由を16の選択肢で尋ねている(複数回答)。2018年の調査によれば、求職活動を行っていない就業希望者(ここでは就業希望者のうち就職先が決まっていない既卒者で、求職活動を行っていない者とした)のうち、非求職理由として「適当な仕事がありそうにない」に該当する選択肢(「自分の知識・能力にあう仕事がありそうにない」「賃金・給料が希望にあう仕事がありそうにない」「勤務時間・休日が希望にあう仕事がありそうにない」「勤務地が希望にあう仕事がありそうにない」「希望する種類・内容の仕事がありそうにない」「今の景気や季節では仕事がありそうにない」「その他」)または「仕事の探し方が分からない」「やりたい仕事が何か分からない」のいずれか1つ以上に該当ありと回答した人の割合は約66%であった。