【インタビュー】地域で活躍するUターンIターン人材石巻市6次産業化・地産地消推進センター 産業復興支援員 森優真氏

※調査結果をとりまとめた研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」

石巻で新たに築いたネットワークと東京での人脈を活用し、石巻の6次産業化を推進

東京で10年間の勤務の後、宮城県石巻市へIターンし活躍する森氏と上司の村上氏にIターンの経緯とその活躍のポイントについて伺った。

【本人インタビュー】

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石巻市6次産業化・地産地消推進センター 産業復興支援員
森 優真氏

<プロフィール>
神奈川県出身。東京で10年勤務した後、2014年に石巻市6次産業化・地産地消推進センターに採用される。

東京にいても石巻のネットワークを広げられる機会はあって、それを徹底的に活用した

―石巻にIターンするまでの経緯を教えてください。

関東出身で、ずっと東京で仕事していて、2014年11月に石巻に来ました。
ダイビングが趣味で離島に行くことが多かったのですが、地元の人たちと触れ合うなかで、島での仕事がない、特に1次産業の漁業が衰退している、という現実を目の当たりにしていて、そこに対して何かアプローチできないかという思いがありました。

被災地は、震災から2、3年経った頃から、補助金・助成金などの新しい制度、特区がつくられてきて、石巻は漁業の町なので、漁業に対して新しいことができる環境が整備されてきました。「WORK FOR 東北」という被災地の行政関連の人手不足に対して民間の人をマッチングさせるサービスを通じてこのセンターに応募しました。

―移住のハードルは高くありませんでしたか。

石巻に来たのは、32、33歳のときですが、ハードルはめちゃくちゃ高かったですね。ただ、自分のやりたいことが実現できる可能性が極めて高いということと、移住前にボランティアで活動しているときに知り合いもできていました。震災後からずっと東京から石巻に通っていましたし、東京で開催された震災関連のイベントにも行って、関係を構築していました。東京にいながらでも石巻のネットワークを広げられる機会はあったので、それを徹底的に活用していました。そこに、たまたまいいご縁、いいお話があって石巻に来たということです。

―今の仕事について教えてください。

その名のとおり6次化をサポートする事業ですが、6次化というのは、たとえば、農家の人がイチゴをつくり、加工してジャムにして、販売に至るまで、全て自身ですることを指します。

そもそも商品をつくるところからつまずいている人もいれば、パッケージができないからデザインのサポートが必要な場合もあり、あるいは、販路に困っているから売り先をつなげてほしいなど、商品を売るためのあらゆるサポートをしています。
私たちが直接何かするのではなく、たとえばパッケージをつくってほしいということであれば、デザイナーやカメラマンを紹介したり、販路に困っていたら流通に詳しい人を紹介したり、そういう仲介のマッチングをやっているのと、もう1つは、出口戦略の1つとして、ネット販売サイトを立ち上げて、運営しています。

地元に溶け込むためにシェアハウスに入居し、まったく関係のない集まりにも顔を出し続けた

―いちばんのやりがいはどういうところですか。

地元の事業者のなかには東京に売る販路を持っていない方も多くて、そういう販路を持つことは「夢のまた夢」みたいな人が、ネットを通じて東京に売れたりするとやっぱりうれしいです。感謝の言葉をダイレクトにもらえますし、たとえば、「カキ持ってってよ」とか、「お米持っていきな」ということも結構あって、そういうこともうれしいですよね。

―今の仕事で難しいと思うのはどういうところですか。

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やっぱりよそ者なので、なかなか受け入れてもらえない場合もあります。販売の補助の案内に行っても、「東京から来た」というだけで、相手にしてもらえなかったこともありました。 特に石巻はボランティアが延べ140万人も出たり入ったりしていて、それに慣れている人もいれば、そういうのに疲れてしまっている人もいます。そういう難しさは現実にあります。

―新しく仕事の進め方や知識などで学んだことはありますか。

根回しの大切さでしょうか。石巻の人たちは知り合い同士の確率が高いんです。だから、ネットワークがある程度見えてくると、この仕事だったらまずこの人のところに行かなきゃというようなことがわかってきました。恐らくこれは、規模の小さな市区町村に行くほど当てはまることだと思います。これは東京にいたときはない感覚でした。ある程度時間をかけて見ないと見えてこないものなので、そこが最初は難しかったです。慣れるまでに1年ぐらいは必要ではないかと思います。

―これまでの経験で活きていることはありますか。

東京の人脈は活用しています。それを活用していくのが1つミッションだと思うので、たとえば販路開拓にしても、関東の友人を通じて飲食店を紹介してもらったり、あとは、石巻のものの販売会を東京でやったりします。

私を通じて石巻の現状を見てもらうきっかけにもなるので、私自身が石巻と東京を行ったり来たりすることも必要で、それ自体が価値だとも思っています。

転職された当初に工夫したことがあれば教えてください。

地元にいかに溶け込めるか、自分自身が根を張れるかというのがポイントだと思い、私はシェアハウスに入りました。もともと、知り合いはいましたが、きちんと地に足が着いた関係を築かなければと考えて、それだったらシェアハウスに入居して、そこからネットワークを広げていこうと思いました。私は石巻に来てから結婚したのですが、彼女ともそこで知り合いました。

移住前から石巻の人に、「まずは地に足を着けて、きちんと関係をつくってからいろいろやれ、いきなり来てぽんと派手なことをすると絶対受け入れられない」と言われていました。だから、それを肝に銘じながら、最初の半年間は、少しずつ顔を売っていくことを地道にやりました。石巻には、今もNPOや活動団体が多くいるので、夜にそういう人たちが集まる情報交換の場にも片っ端から行きました。まったく自分の関係ない、たとえば福祉や敎育、ウェブ関係の集まりにも顔を出しました。そのおかげでかなり顔は広がって、そこから自然と自分の仕事に結び付いたりしています。

Iターンをした満足度はいかがですか。

満足度は本当に高いですね。来てよかったなと思っていますし、東京にいた頃には感じられなかったような満足感があります。根底には自分のやりたいことが今できているというのがあります。生活面に関しても、仲のよい人が増えて、よくしてくれる人もたくさんできました。たとえば、いきなり、隣のおばちゃんの家に電話して「今日ご飯ないから行っていい?」と言うと、「ああ、いいよ」と刺し身を出してくれて、酒を出してくれて、みたいな関係ができています。よく自己実現と移住をリンクさせるというような話を聞きますが、自己実現は私のなかではできています。

Iターンして活躍するには、本人の要因だけではない。受け入れ組織のサポートも不可欠だ。森氏の上司の村上氏に活躍のポイントを伺った。

【上司インタビュー】

石巻市6次産業化・地産地消推進センター
事務局長
村上 忠範氏

たとえば、漁業の品質管理でもいろんなノウハウが蓄積されていて、それを発掘するのが、外からの人たち

―採用に至った経緯を教えてください。

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私も2014年9月に石巻に来て、まだ何もない状況だったので、具体的に何かこういう仕事をやってもらおうということがあったわけではありません。今やっている6次産業化の仕事をやる陣容が必要だということはありましたが、仕事の中身の詳細までは詰まっていませんでした。だから、相性だったり、本人のやりたいという希望だったり、熱意から判断して、彼を採用しました。

―UターンIターンの人材が活躍する要因は何だと思われますか。

私は、ずっと海外との仕事をやってきましたが、日本は、同質性が強すぎると思っています。特に、地方は、同質性が強いために自分たちが持っているほかとの「違い」がわかっていません。「違い」のなかに悪いところも良いところもあって、その「違い」がわかる外からの目線で「これは普通のところにはない特色だ」とか、石巻のよさとか、そういう価値が見出せるのだと思います。私たちセンターは、ほぼ全員、石巻の外からの人なので、こういう違いがあって、こういうよさがあって、「これが資産ですよね」という発見につながりやすいです。

たとえば、漁業の人たちがやっている、温度管理による品質管理も、いろんなノウハウが蓄積されていますが、発信されていません。どうして発信しないのかと聞くと、「そんなの、当たり前だからだよ」と言われます。すごいことがたくさんあって、それを発掘していくのは、外からの人たちのほうが合うんだろうと思います。自分たちの持っている資産だとか、それをどう活用していくかだとか、そういうアイデアを出す段階では、外からの人が入らないととんがったものになっていかないです。地元の人たちには当たり前すぎてわからない。そういう意味で、私たちの6次産業化というのは、大事なことだと思います。

―今後期待することを教えてください。

6次産業化の仕組みは市が導入しているため役所が仲介に入り交通整理をすることで、民間だけで活動を行うよりも動きやすくなります。産業復興支援員としてキーパーソンのところにつながれます。それをうまく使って人脈を掘り起こしていけば、次のステージに行けると思うし、彼は、そういう動きをしています。 だから、ここでの仕事が終わった後に自分で事業を起こすとか、将来、自分が石巻で生きていくための仕組みづくりにつながるので、自分にアサインされた仕事プラス、自分がやりたい仕事を発掘していってほしいと思います。

【石巻市6次産業化・地産地消推進センター 森優真氏 の活躍のポイント】

今回のインタビュー結果を研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」でまとめた3つのターニングポイントに当てはめると以下のポイントで整理される。

Iターンから活躍するまでの3つのターニングポイント※1

※1:3つのターニングポイント
UIターンから活躍するまでを入社までの「移住前」、入社後約半年までの「適応期」、入社後1~2年までの「活躍期」の3つの期間に分類して整理した考え方

3つのターニングポイントと学習3階層モデルの詳細については、下記の「UIターン人材活躍のセオリー」のレポートを参照
https://www.works-i.com/pdf/160407_uiturn.pdf