イントロダクション

新たな社会価値を創造し、人々の未来を豊かにすることを自らの使命と自覚し、そのための行動を惜しまない人。われわれはこうした人物を「社会リーダー」と呼ぶ。過去を遡(さかのぼ)れば日本にも多数の社会リーダーが存在した。彼らは迫りくる変化に対応して、あるべき方向へ社会を動かす転轍機(ポイント)であり、あるべき方向を指し示す羅針盤でもあった。 本プロジェクトの目的は、未来に向けて、社会リーダー創出の孵卵器となるような制度や仕組みを提言することである。そのためには過去の検証が欠かせない。現在は過去の延長線上にあり、未来は現在の、これまた延長線上にあるからである。

この連載は、日本の社会リーダー史をテーマとする。具体的には、どんな時代相のもと、どのようなリーダーがいたのか、そうした人材はどんなきっかけで、いかなる志を育み、どのような教育あるいは選抜システムを経て、どんな行動を通じて志を形にしていったかを探りたい。

ただ、過去といっても太古の昔を対象とはしない。そこまで遡ると、現在との関連が弱くなるからだ。そこで明治以降に時間軸を設定する。近現代の社会リーダー輩出史というわけだ。 その時間軸を幕末から現在までで2期に分ける。大東亜戦争敗戦までの前期とそれ以降の後期である。さらにそれぞれを2期に分ける。前期を分かつものを、欧米列強への仲間入りを日本が果たした日露戦争の勝利、同じく後期を分かつものを日本が先進国と見なされる大きなきっかけとなった高度成長としたい。どちらも明治以来の日本が歩んだ“上り坂”の頂点であり、それ以後、社会や価値観が変わっていく転換点だったと考えるからだ。
具体的には以下となる。



第Ⅰ期:欧米へのキャッチアップが至上命題だった時期
幕末から明治維新(1868年)~日露戦争(1904年)

第Ⅱ期:遅れた列強入りとその中での生き残りを賭けた時期
日露戦争(1904年)~敗戦(1945年)

第Ⅲ期:戦後復興と、平和国家日本の構築時期
敗戦後(1945年)~高度成長(1960年代)

第Ⅳ期:先進国入りとバブル後の迷走期
高度成長後(1970年代)~現在



各期において、時代を象徴する2名の社会リーダーを挙げ、その生涯、正確にはその人物がリーダーになるまでの前半期のキャリアにスポットをあてる。学校や留学制度といった何らかのシステムの恩恵を受けている場合、その解説もできるだけ試みたい。

一つ心がけたいことがある。歴史を、そして、その歴史と不可分である社会リーダーの思想や行動を、現在の価値観によって「断罪」しないことだ。戦国時代を終わらせ、日本統一の大きな足がかりをつくった織田信長を無慈悲な殺戮(さつりく)者とだけ見なす愚を犯してはならないというわけだ。

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