調整期のリーダーは、書物で己の器をつくる
一方、調整期のリーダーが影響を受けた書物はどうか。
鮎川の場合はアメリカの鉄鋼王カーネギーによる『エンパイア・オブ・ビジネス(実業帝国)』であり、そこにはこうあった。

〈君たちを使っているボスが感心できなかったら、
一時の損は覚悟のうえでさっさと見切りをつけ去って行け〉


賀川は病気静養中、社会に見捨てられた弱者への伝道活動に生涯を捧げたジョン・ウェスレーの書物に入れ込んだ。あえて言うと、のちに賀川が神戸のスラムに住み込んで貧しい人たちへの援助と伝道活動に邁進したのは、このウェスレーの思想と行動を模倣したのだ。
稲盛の場合は、結核の病床で手にした『生命の實相』という宗教書であった。災難は弱い心に降りかかるから、いつも強い心でいるべし、という処世術的内容である。そこから稲盛は、目の前の困難から決して逃げずに立ち向かうという生き方を体得した。
そして、孫の愛読書は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』。ご存じ、何ごとかをなさんと思う男子なら誰でも夢中で読み耽(ふけ)る、今なお人気の国民的ベストセラーである。

こうして見ると、彼ら4人が影響を受けた書物は、今でいう自己啓発書なのだ。改革期のリーダーとは違って、彼ら調整期のリーダーは、自分はいかに生くべきかを、言葉を変えれば、他の人とは違うリーダーとしての生き方を書物から学んだのだ。「最初に社会問題ありき」ではなく、リーダーとしての器、つまり、ある社会課題を我が事として把握し、その解決に向かって粘り強く進んでいける力を先に培ったようである。

まとめよう。
改革期のリーダーには外から課題が降ってくる。つまり、時代がリーダーをつくる。一方、調整期のリーダーは課題を見出し、その解決に向けて行動できる力をまず己の内部で磨く。結果、リーダーが時代をつくっていく。こんな違いが見て取れる。

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