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ASEAN Vol.01職場実態調査からひも解く、現場マネジメント

リクルートワークス研究所では、ASEAN4カ国(タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)の現地のマネジャーに対して、職場実態に関する調査を実施した。その結果、各国の違いが明らかになった。

文化的背景が異なるASEAN諸国

高い経済成長率で世界の注目を集めるASEAN。生産拠点としてだけでなく、力強い内需を狙った外国企業の進出の勢いは止まらない。ただし、「ASEAN」と一言でいっても、加盟国は10カ国。それぞれ経済発展段階だけでなく歴史や文化も異なるため、一括りに捉えると戦略を誤る。

たとえば、自動車市場をみても、タイでは、排気量2500~3000ccの1トン積みピックアップトラックの販売台数が多く、インドネシアでは3列シートのミニバンが人気といったように、国によって売れ筋が異なる。それは、タイでは荷物の運搬や人の輸送ができる利便性と併せて、ピックアップトラックに課される税金がセダンより安いというメリットがあること、一方、家族を大切にするイスラム教国であるインドネシアでは、子どもの人数が多く、親も同居するために大人数が乗れる車が望まれる、といった背景があるからだ(*1)。

同じ問題でも深刻度が違う

同様に、進出した先の国で現地の人材に活躍してもらうためには、各国の歴史や文化を背景としたリアルな職場実態と、それに適した人材マネジメント方法を知ることが重要だ。そこで、リクルートワークス研究所では、ASEAN4カ国(タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)の代表的な企業に勤める現地のマネジャー(各国200名)に対して、職場実態に関する調査(2014)を実施した(*2)。

たとえば、「日常的に遅刻する人がいる」という質問に対する回答。ある(「よくある」「ある」の合計)と答えた割合が最も高いのはタイ(61.9%)で、フィリピン(54.8%)、インドネシア(50.0%)と続き、半数を超えた。最も少ないベトナムでも29.5%である。また、「連絡なく辞める人がいる」は、タイ(50.4%)が最も多く、フィリピン(37.1%)、ベトナム(33.3%)、インドネシア(27.6%)と続く。日常の遅刻や突然の離職について、日系企業の現地駐在員の嘆きはよく聞くが、どちらの質問もタイとベトナムではかなりの差がある。これだけ差があれば、マネジメントは一括りにはできないことがわかる。

マネジャーの工夫も4国4色

実際に、現場で指揮する各国のマネジャーが、部下のやる気を引き出すために行っていること(自由記述)をみてみると、「インセンティブ(昇進、昇格、手当、表彰)」に関する記述が最も多い点は4カ国に共通している。しかし、それ以外では各国の事情に合わせた特徴が表れている。

タイのマネジャーの記述には、「兄弟のように親しく接する」「家族のような付き合いをして、仕事に関して素直に話をする」「心を込めて接し、時には一緒に食事をする」など、「まるで家族であるかのように」という内容が目立つ。ヘンリー・ホームズ&スチャーダー・タントンタウィー(2000)によれば、「タイ人は人に就く」のだという。上司が望ましい上司であれば、上司について転職するし、上司の言動に落胆して仕事を辞めることもタイでは一般的である。それは、タイ人の望ましい上司像として「部下への気配りができること」が条件の1つになっていることからもわかる。今回の記述からも「家族の一員のように部下に気配りをする」ことで、望ましい上司として部下のモチベーションを引き出そうとしている様子が確認できる。

人間関係を大切にするという点では同じだが、少し質が異なるのがベトナム。マネジャーの記述には、「意見交換や指導のために、お茶したり、酒を飲みにいったり、気軽に会話する」「避暑旅行やパーティーを実施」「休みの日に皆が集まり一緒に食事をしたり遊びに行ったりする」といった内容が多い。先ほどのタイが、上司と部下という強い上下関係を前提としていたのに比べると、ベトナムのほうが横並びの関係で、「みんなで場を共有して」仲良くワイワイと楽しむことを大切にしているという違いがみられる。

一方、フィリピンは、仕事場面での役割を意識した記述が多く表れる。「よき指導者になり、部下に手本を示す」「積極的に仕事に取り組む、遅刻しない、会社のために尽くすなど、部下の手本となる行動をとる」「仕事の面でも倫理的な面でも、まずは自分が手本を示す」など、上司が指導者として「手本を示す」ことで、部下のモチベーションをあげている様子がうかがえる。

最後に、インドネシア。「仕事で得られた経験は何ものにも代えがたい財産になると伝える」「仕事があることを感謝すべきだと認識させる」「私たちは働いて給料を得ているのだから、仕事に比して多くの給料を得ているとしたら、それは恥ずかしいと思わなければならない(と伝える)」といったような、上司が仕事観のようなものを部下に伝え聞かせる内容が目立つ。あるインドネシア研究者によれば、インドネシアには演説が好きな人が多く、街中でも演説上手な人の前に人が集まる光景をよく見かけるという。職場でも「部下の心に響くように伝える」ことが部下のモチベーションをあげるために効果を発するのかもしれない。

この調査に続き、中国、タイ、インド、米国のマネジャーに対する調査を実施予定である。各国の人材マネジメントのお国柄を把握する試みは、まだ始まったばかりである。今後のリサーチ結果に期待していただきたい。

 

研究員 萩原牧子

 

*1後藤康浩(2014)『ネクスト・アジア』日本経済新聞出版社
ヘンリー・ホームズ&スチャーダー・タントンタウィー(2000)『タイ人と働く――ヒエラルキー的社会と気配りの世界』めこん

*2リクルートワークス研究所(2014)「ASEAN4カ国の職場実態に関する調査」
http://www.works-i.com/surveys/asean.html