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南アフリカ共和国 Vol.01アパルトヘイト撤廃から20年、所得の格差は縮まったか

1994年、故ネルソン・マンデラ氏が南アフリカ初の全人種参加選挙で大統領に選出され、約80年続いた人種隔離政策=アパルトヘイトが撤廃された。黒人は白人専用だったビーチで海水浴を楽しむようになり、同じバスにも乗れるようになった。それから20年が経った今、所得の格差は縮まったのか。

不満の種は、人種の差から所得の差へ

南アフリカ(以下、南ア)では、雇用均等法(Employment Equity Act)に基づいてジェンダー、人種、HIV感染を理由とする差別を禁止している。また、黒人権利拡大(Black Economic Empowerment: BEE)政策で、企業に黒人の上級管理職への登用や株式所有、経営の意思決定への関与、能力開発を促しており、企業は達成度に応じて政府や国営企業の公共事業の入札で優遇されるなどのメリットを受けられる。こうした南ア特有の差別是正措置で、黒人、カラード、インド系を取り巻く雇用環境は改善されてきた。

BEE政策の浸透により大卒の黒人労働者を求める企業が増え、黒人層への富の分配が進んだことで、「ブラックダイヤモンド」と呼ばれる中所得層の割合も増加している。南ア統計局の調査によると、2011年の黒人世帯の年間所得は前年比34.5%増と大きく伸びた。しかし、金額の平均は6万9632ランド(約70万円)で、白人世帯(38万7011ランド、約387万円)の約6分の1となっており、その差は依然として大きい。

日本と新興国の、社会における所得分配の不平等さを表すジニ係数を見ると、日本は0.33とOECD諸国平均並みだが、南アはBRICsの諸外国よりも高い0.65となっており、世界的に見ても格差が大きくなっている(下表参照)。

格差については、オリファント労働大臣が2014年7月の国会でも「経営幹部と労働者の賃金格差に対する取り組みは、喫緊の課題である」と述べ、「労働省は今後、労働者全般の保護、とくに弱い立場にある労働者の保護に取り組んでいく。その際、経済成長と労働者保護のバランスが重要になってくる」と話した。また、今年に入ってプラチナ鉱山や金属業界の労働者が賃上げを要求したストライキを数カ月にわたって起こしており、トヨタが工場の生産ラインを一部止めるなど、人々の格差に対する不満が企業の生産活動や国の経済成長にも影響を及ぼしている。

非正規雇用者の増加

この格差の背景には、非正規雇用の増加がある。南アでは、もともと鉱山労働者などを中心に、社会保障制度が不十分な非正規労働者として働く黒人が多い。また、近年では、アフリカ諸国に事業を拡大する製造業・鉱業・建設業・輸送業などの企業が、非正規雇用者を増やしている。

南ア人材サービス会社最大手のアドコープ社によると、2014年5月時点、非正規雇用の形態で働く労働者は全就労者数の37.7%を占める390万人で、その内訳は人材サービス会社を介した派遣労働者は約100万人、直接雇用主と契約する臨時労働者は290万人となっており、全体の8割が黒人である。

大々的な法改正にはならず

こうした非正規雇用者の給与水準を見直すため、2014年5月、同一水準の仕事をする非正規雇用と正規雇用の労働者の賃金を同等にする、という雇用均等法の改正案が承認された。アドコープ社の試算によると、この改正案が施行された場合、派遣労働者の賃金は平均で69.2%増、臨時労働者の賃金は47.7%増と見込まれるため、企業にとっては大きな負担となるが、非正規雇用者の賃金は大幅に上昇する。

しかし、鉱山労働などブルーカラーの労働者は、同じ業務を行う正規雇用者がいない場合が多く、賃金見直しの対象とならない。また、南ア労働者全体の約9割が勤務する中小企業は、法律順守をチェックする労働省の監査官不足で監視を免れ、大企業のみ厳しい監査を受けることになるだろうという指摘もある。結局のところ、均衡待遇は企業にとって多大なコストがかかるため、長期的には正規雇用を減らし有期契約雇用にシフトしていくと見られている。

また、均衡待遇の案とともに、企業の管理職を人口統計の属性(白人と黒人の割合)に比例して雇用すべき、という改正案も提示されたが、就業者の割合に対して人口構成比が少ないインド系や、カラードから反論が上がるなど混乱があり、この改正案は取り下げとなった。

一方で、南アの失業率は1995年の16.7%から2014年には25.2%と悪化している。求職意欲喪失者も約368万人と増加傾向にあり、実際の失業率は約4割という指摘もある。失業者の内訳を見ると、約86%が黒人、約75%が25歳以下の若者である。
長年教育や雇用の面で不利な立場に置かれていた影響は根深く、人種間の差別は排除されても新たに黒人同士の不平等感が深刻化しており、所得格差の是正は一朝一夕にはいかない。

 

グローバルセンター 北野愛子