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中国 Vol.02人材獲得だけでなくあらゆる領域で競争力を高める中国企業

現在中国では、成長のスピードが速い中国企業が、人材獲得領域だけではなく、さまざまな領域で競争力を高めている。日本企業が中国でビジネスを成功させるためには、何が必要なのか。

法人サービスに占める中国企業のシェア上昇

中国の人材獲得競争において、企業の勢力図に変化がみられることを、Works122号(2014年2月発行)で「人材獲得の勢力図に異変あり 欧米企業につぐコンペティター」(*1)としてお伝えした。

人材獲得では、賃金水準やキャリアの将来性の違いから、「欧米企業>日本企業>中国企業」という構図を前提に話が進むことがよくある。しかし、人材獲得においてもはや日本企業のみならず、欧米企業さえ凌駕する中国企業が生まれつつある。これは、国の所得水準や発展段階の違いに起因する「先進国企業>新興国企業」という構図が、進出国の経済が発展し、消費市場としての魅力が増すほど崩れるからだと前回説明した。

今回お伝えしたいのは、中国のこの変化は何も人材獲得に限ったことではないということである。証左となる2つの事象から説明を試みたい。

1つ目の事象として、外資系や日本企業向けの法人サービスを行っている企業で、取引先に占める中国企業のシェアが上昇している。

わかりやすい例は、日本企業向けの業務支援コンサルティング会社や人材サービス会社である。かつて取引先シェアのほぼ100%を日本企業が占めていたこれらの企業であっても、現在、中国企業の取引シェアが20%、30%と上昇してきている。日中関係の悪化による、日本企業の中国事業の縮小や撤退が相次いでいることも大きな要因だが、理由はそれだけではない。なぜなら欧米企業向けの法人サービスをしている企業でも同様の傾向がみられるからだ。

欧米企業向け人材紹介会社の北京の責任者はこう言う。

「中国でも2008年のリーマンショックで業績が悪化したのです。そのため、これまでの欧米企業とは異なるクライアントを開拓することになり、中国企業との取引に力を入れるようになりました。今ではそのシェアが想定以上に伸びています」

また、別の中国国有企業の副総経理は次のように述べる。

「わたしたちはこれまで外資系企業に向けてだけサービスを行ってきました。しかし、中国企業向けのサービスに力を入れるようになったところ、非常にポテンシャルがある。中国企業向けサービスは今後大きく伸びていくと考えています」

これらのコメントに共通するのは、中国企業向けのサービスにシフトしたきっかけが何であれ、中国企業に高い将来性を感じているということである。

サプライチェーン上流における中国企業の台頭

もう1つの事象として、ビジネスのサプライチェーンの各工程において中国企業の存在感が増していることがあげられる。

中国・インド・インドネシア・ブラジル・ロシアの新興5カ国で、自動車や家電、食品などの7領域におけるトップシェアの企業を調べ、日本企業が欧米多国籍企業やローカル企業の後塵を拝していることを、ボストンコンサルティンググループの市井氏らは指摘した。この調査結果において、中国は7領域のうち4領域でローカル(中国)企業がトップとなっており、ほかの4カ国以上にローカル企業の躍進が著しい(*2)。

この調査結果から、国の経済発展段階に応じて、ローカル企業が先進国の多国籍企業を放逐していく傾向を読み取ることができる。技術開発は先進国企業がアドバンテージを有している一方で、カスタマーマーケティングや販路開拓はローカル企業に地の利があるため、食品や日用衛生品のような消費財の領域ほど、ローカル企業の台頭が目覚ましい。そしてその国の発展が進むにつれ、ローカル企業が先進国企業並みの技術力を持つようになり、自動車などの耐久性の高い領域でもローカル企業が高い競争力を持つようになる。加えて中国の場合、市場への政府の介入余地の大きさが、ローカル企業の競争力向上を促進している可能性もある。

中国で製造業といえば、かつては生産拠点でしかなかったが、次第に販売拠点も持つようになり、近年ではR&D拠点も設ける動きが出てきている。このように、事業の上流から下流までの全工程で中国シフトがはかられている。さらに、サプライチェーンの上流にある素材産業などでも中国企業が先進国企業のライバルとなりつつある。この傾向は、基礎研究など高度な知見が要求される領域でも、中国企業が欧米企業や日本企業に伍す競争力を獲得し始めていることの兆しにほかならない。実際、ある素材メーカーの副総経理は次のように述べる。

「これまで中国企業は、日本や米国の企業のマネばかりしていました。しかし、最近ではどこよりも速く、大規模に新技術を導入している。規模とスピードを同時に狙うことで、ビジネスの力関係を一気に反転しようとしているのです」

機動的かつリスクテイキングな中国企業のこの動きは、日本企業にとって大きな脅威となりつつある。

海外事業の明暗が次第にはっきりする

新興国への進出では、最前線で事業に奮闘している人たちはそうではないものの、日本国内ではいまだ「発展の遅れた国だから」と見下した態度を取り、進出国で起きている事象を見くびっている人が少なからずいる。ところが、中国の上記の動きは、そのような安穏とした態度に強い警鐘を鳴らす。

新興国が成長を遂げる過程で、先進国企業も競争に巻き込まれる。地の利と、守るべき既存の成功事業がないローカル企業の勢いはすさまじいものがある。しかも、この競争は極めて速い変化の中で行われる。今後、残念ながら、この勝負で敗北を喫する日本企業が少なからず生まれるだろう。そして、人口減少に直面する日本企業を救うユートピアとしての海外事業は、容易にはたどりつけないことに気づかざるをえなくなる。

日本企業は「グローバル化」を永遠に続く挑戦だと考えがちだ。しかし、中国だけでなく、いずれほかの新興国でも同様の動きが出てくる。地の利という大きなアドバンテージを持つローカル企業と勝負がついてから、海外事業の成功を狙うのでは遅すぎる。

中国でのビジネス環境は既に熾烈なものになりつつある。そこにどのような経営の意思をもって、どのような人材を送りこんでいくのか。日本企業に待ったなしの覚悟が問われている。 

 

リクルートワークス研究所 主任研究員 中村天江

 

(*1)「人材獲得競争に異変あり 欧米企業に次ぐコンペティターの登場」
http://www.works-i.com/wp/world/china/

(*2)Shigeki Ichii, Susumu Hattori, and David Michael, How to win in Emerging Markets Lessons from Japan : Harvard Business Review 90.5, 2012.