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マレーシア Vol.02高所得国入りを目指すマレーシア、人的資本の充実へのチャレンジ

安価な非熟練外国人労働力に依存し、高付加価値産業への転換を果たせないマレーシア。課題は、国内の人材育成と、海外に流出したマレーシア人を含む海外人材の誘致だ。

労働人口の約25%が外国人労働者

クアラルンプールでカフェやレストランに入ると、アジア系ばかりではなく、スラブ系かと思われるウェイターやウェイトレスが多いことに、不思議な感覚を覚える。訊くと、トルクメニスタンやカザフスタン、ウズベキスタンといった中央アジアの国々からやってきたという。イスラム国家であるマレーシアには、インドネシアやバングラデシュといった近隣だけでなく、遠く中央アジアのイスラム圏からも外国人労働者がやってくるのだ。

マレーシアは、東南アジアではシンガポールに次いで第2位の経済規模を誇る。賃金水準も周辺国にくらべれば高いため、少しでも高い賃金を求める労働者が多く流入する。労働力人口約1200万人のうち外国人労働者は約200万人、これ以外に不法就労の外国人が約100万人いるといわれている。外国人労働者の多くは、農業・建設業・製造業の現場と小売店や飲食店などのサービスの現場で働いている。

マレーシアがはまる「中所得国の罠」

経済発展の前期には、こうした労働力は貴重である。しかし、中進国となったマレーシアは新たな問題を抱えている。さらなる経済発展のためには、高付加価値産業や高度技術製品への転換が必須であるが、安価な外国人の非熟練労働力にいつでもアクセスできる使用者は、新しい設備導入などの投資を嫌がるため、いつまでも低付加価値製品・産業から脱することができないのだ。これを「中所得国の罠」というが、マレーシアは典型的にこの罠にはまりこんでいる状況といえる。
実際、2012年のマレーシアの生産性伸び率は2%でタイ(4.9%)、インドネシア(4.2%)に劣っている。(マレーシア生産性公社『プロダクティビティ・レポート2012/2013』)

政府はこうした状況に危機感をおぼえ、第10次マレーシア計画(2011~2015年)でも、外国人労働者への依存度を下げると言明している。各種施策の1つに、2013年に施行された最低賃金法がある。最低賃金の縛りは外国人労働者にも適用されるため、いつまでも「外国人労働者=安価な労働力」と考えてはいられないわけだが、こうした規制は民間企業からの強い反発を招いており、政府は小規模企業への同法の適用を遅らせる決定をせざるを得ないなど、混乱はおさまっていない。

国内の人材育成と海外の高度人材の誘致が大命題

一方で、国内や海外で高等教育を受けたマレーシア人は、より高い賃金、よりよい生活環境や子供の教育環境を求めて海外に出ていく。国外に流出している労働力の数についての正確な統計データはないが、在外マレーシア人の数は約150万人(人口の約5.5%に相当)。居住国はシンガポール、オーストラリア、ブルネイ、イギリス、アメリカの順になっており、特に地理的にも民族的にも近しいシンガポールには約100万人のマレーシア人が住んでいる。(世界銀行『Migration and Remittances Factbook 2011』)また、2007年の国会答弁ではマレーシアの人的資源省の副大臣が、海外で働くマレーシア人は35万人、うち24万人がシンガポールで働いていると発言した。

中所得国の罠から抜け出るためには、こうした海外に流出した高度人材を国内に呼び戻し、同時に外国人の熟練労働者や高度人材を呼び込むことも重要である。そこで、マレーシア政府は2011年1月に 国内の人材育成と海外人材の誘致を任務とする政府機関として人材開発公社(タレント・コーポレーション・マレーシア=タレントコープ)を設置した。タレントコープは、2012年4月には「2020年能力開発ロードマップ(タレント・ロードマップ2020)」と題する人材高度化計画をまとめ、マレーシア人の人材育成強化、在外マレーシア人を含む国外からの人材獲得、世界的な人的ネットワークの構築という3点を目的とした各種施策を導入すると発表した。具体的には、政府の認可を受けたインターンシップを実施する企業に対する税制優遇措置や、卒業後の一定期間に特定の民間企業や公社で働くことを前提とした大学生向けの奨学金制度、国家主要経済領域に含まれる知識集約型の事業活動に関わる事業者へのレジデンス・パスの発給などの施策が含まれている。

近隣諸国が国を挙げて経済成長に躍起になるなか、先を行くマレーシアがどのようにして人的資本の充実と高所得国への仲間入りを実現させられるかは、注視の的である。政府の力量が試されている。


主任研究員 石原直子