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ベトナム Vol.01求職行動の背景を理解し、 企業ブランドの確立を急げ

ベトナム人労働者の離職率の高さは、進出を検討する企業の多くが懸念する課題だ。労働者の求職行動の背景には何があり、どのような対応が求められるのか。データと、現地日系企業へのヒアリングをもとにレポートする。

ベトナム労働法下の求職行動で、離職率が高いと感じる

ベトナムへの進出を検討している経営者にとって、従業員の離職率の高さは懸念材料である。近畿経済産業局(2013)によれば、ベ トナムに進出後のものづくり中小企業における重要課題の最上位は「現地マネジャー人材の育成、確保」(17.6%)であり、これに「現地でのワーカー等の 確保、定着」(11.8%)が続く(*1)。人材の確保と定着に関する課題感は、進出前よりも進出後に顕在化してくるようだ。
だが、ほかのアジア諸国と比べて、ベトナムでの人材確保・定着が困難であるか否かははっきりしていない。労働市場の流動性をみてみると、ベトナム人の勤続年数は短いとみる調査(*2)もある一方で、転職回数に差はみられないという調査(*3)もある。

では、なぜベトナムにおける離職率の実感値は高いのだろうか。この背景には、ベトナムの労働法制に導かれたベトナム人労働者の求職意識と、長期的な雇用関係を期待する日本の経営者との認識上のギャップがある。
たとえば、ベトナムの労働法によれば、大卒またはそれ以上の技術を要する仕事の雇用契約では、60日以内の試用期間を設けた後、1年以上3年以下の有期労働契約を締結、1回更新の後、無期雇用に転換することが定められている(*4)。
この法律を所与の条件とすれば、ベトナムにおいては、採用時の従業員・経営者双方のコミットメントは緩やかなものとなる。就職してまもない従業員は、ジョ ブ・ショッピング(*5)の段階にあり、よりよい条件を求めて離職しうるし、経営者も選別を先送りして、資格の有無やレファレンスよりも試用期間での従業 員のパフォーマンスを重視するようになる(*6)。

日系企業が試行錯誤するベトナムでの新卒採用

より具体的に、大卒新卒市場を考えてみよう。ベトナムでは、一般的に大学卒業後に就職活動を始める。企業からの求人は採用枠や採用 時期がさまざまであるため、求職者が求人内容を比較衡量する余地はあまりない。そこで、有力な求職手段となるのが「知人や家族の紹介」である。学生のほと んどは、卒業後2、3カ月間で仕事を見つけるが、初職を得た段階では、仕事に対する確信や覚悟を持つには至らず、「試用期間」で働きながら適性や適職を見 極めている。

日系企業は、従業員に対してはじめから長期的なコミットメントを期待しがちであるが、ベトナム人新卒人材に対峙して、その方針を変 更せざるを得なくなる。 実際に、企業の向き合い方もさまざまだ。いくつかの事例を紹介しよう。たとえば、「前職よりよい条件を提示して経験者を採用したほうが定着率は高くなる」 という理由で、大学新卒者を採用しない企業がある。また、社員の紹介で新卒者を採用する企業もある。新卒者と経営者双方の情報ギャップを埋める狙いだ。さ らに、「採用後に会社のよさを新卒採用者およびその親族にアピールする」企業もある。親族からの支持を取り付けることで、新卒採用者が転職を思いとどまる かもしれないからだ。

人材の定着、企業ブランドの確立には3年は必要

いずれにしても、従業員と企業の双方が様子見している状態は、設立直後の企業の経営者にとっては、あまり望ましくないかもしれな い。設立直後の企業は、優れた人材を確保するために、企業ブランドの評判効果を利用したいが、企業ブランドこそは人材が定着して企業固有のノウハウが蓄積 されてはじめて確立するものである。

法制上、当面3カ年の人材移動は避けられないなかで、人材の確保・定着と企業ブランドの確立を同時に達成しうる時間軸はどれくらいだろうか。 筆者の企業ヒアリングによれば、設立後5年程度を過ぎれば、大卒ホワイトカラー従業員のジョブ・ショッピングが落ち着いてくるとの声がきかれた。この時期になれば、会社に定着する社員の割合が徐々に高まってきて、会社としての色が出始めてくるようだ。

ベトナムに進出する日系企業においては、人材の確保・定着は重要な課題である。これを解決するためには、ベトナムの労働法制が誘発 するベトナム人従業員の求職行動を理解して、ベトナム人従業員に対する期待を修正しつつ、3~5年後の従業員の定着を目指して、企業のブランドを確立させ ることが求められる。

*1 近畿経済産業局 平成24年度「中小企業の海外展開支援に向けた、関西とアジア新興国の地域間における戦略的経済交流促進のための調査研究」報告書 平成25年2月
*2 HayGroup(2010) Rewarding Vietnam: Getting off the talent-go-round.
*3リクルートワークス研究所(2013)Global Career Survey
*4 もちろん、優れた人材を確保するために、はじめから無期雇用契約を締結したり、試用期間を前倒ししたり、試用期間の賃金を100%(通常は85%以上)支払ったりすることができる。
*5 仕事の特徴を知るために試しに働いてみるという行動(Johnson, William R. (1978) “A Theory of Job Shopping” The Quarterly Journal of Economics Vol. 92, No. 2, pp. 261-278.)
*6 The Centre for Labour Market Studies, University of Leicester (2011) Youth Employment in Vietnam: Report of Survey Findings.

主任研究員 久米功一