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ベトナム Vol.02マネジメント人材は不足、地道に人材育成するしかない

新興国では、ビジネスの急速な進展に対して、マネジメントを任すことができる人材の育成が進んでいない。その実態をベトナムを例に紹介する。

現地マネジメント人材の育成がカギ

新興国におけるビジネスで成功するカギは、スピードとローカル化といわれている。先手を打って商機をつかみ、現地のニーズを開拓して満たすこと、それを可能にするためには、現地事情に詳しく、経験とネットワークを備えた現地のマネジメント人材の登用が不可欠である。その一方で、新興国では、ビジネスの急速な進展に対して、マネジメントを任すことのできる現地人材の育成が追いついていない現状がある。本稿では、その一例として、ベトナムにおけるマネジメント人材の育成に注目して、人材育成上の4つの実態について、日系企業の声を交えながら見ていきたい。

実態①:基本動作から教え込まなければならない

平均年齢が29歳であるベトナムにおいては、30歳そこそこの若さでマネジャーに昇格することは珍しくない[1]。この若きマネジャーが、日系企業が期待するような、マネジャーとして備えるべきスキルや経験を有しているかといえば、疑問符がつく。サラリーマン第1世代である若いベトナム人にとっては、マネジャーの作法そのものが未知の世界である。彼らがマネジャーとして活躍するためには、マネジャーの基本動作を懇切丁寧に教え込んでいかなければならない。現地人材のマネジャーに対して、「正直に報告しなさい、部下の声を聞きなさい、ルールを守らせなさい」といった指導を徹底している日系企業もある。

実態②:人材育成には時間がかかる

ミドルマネジャー候補として採用した現地人材が独り立ちするまでには、かなりの時間が必要だ。ある日系企業によれば、現地ワーカーを指導できるベトナム人リーダーの育成には、3~5年ほどかかるそうだ。育成コストを節約するために、「経験者」を採用したとしても、採用された人のスキルが、日系企業が期待するレベルに達していないことも少なくない。いずれにしても、現地人材をマネジャーとして登用するには、人材育成に時間をかけなければならない現実がある。

実態③:キャリアパスを提示できない

将来のマネジャー候補であるベトナム人従業員に対しては、マネジャーとして必要なスキルを取得できる仕事の機会やポジションを提供したいが、その数には限りがある。「悩ましいのはポジションが少ないこと。副所長が上がりでは、キャリアステップがない」「最後(定年)まで勤め上げた人がほとんどおらず、キャリアパスを提示するに至っていない」との日系企業の声も聞かれる。キャリアパスを提示できないことが、ベトナム人マネジャー候補の成長機会の逸失、ひいては、早期離職につながっているおそれがある。ベトナム人従業員の成長欲求を満たし、現地人材のマネジャー候補を育成するためには、スキルアップにつながるタスクとポジションのより細かな設計が望まれる[2]

実態④:ベトナム人従業員は異動を好まず、近視眼的である

ベトナム人従業員は、異動や転勤をあまり好まない。ベトナム人従業員は「自分がなにかまずいことをしたので、他部署への異動になったのではないか」と考えてしまいがちであるため、人材育成を意図した異動や転勤を指示することが難しい。また、ベトナム人従業員は、目先3年くらいを視野に入れている人が多いようだ[3]。「転職が前提にあれば、学ぶ側も教える側もうわべだけとなり、効果的な人材育成はできない」との日系企業の声も聞かれる。ベトナム人マネジャーの育成にあたっては、ベトナム人従業員の価値観に寄り添いつつ、人材育成の意義を懇切丁寧に説明することによって、より中長期的な視点に目を向けさせる必要があるだろう。

実態を踏まえて、地道に人材育成するしかない

以上をまとめると、ベトナムの現地人材のマネジャー育成においては、マネジャーとしての基本動作から徹底的に、より細かなタスクやキャリアパスを提示しながら、人材育成の意義を懇切丁寧に説明して、しかも、スピード感をもって取り組むことが肝要といえる。これは、長期的な雇用関係を前提として、ハイコンテクストな関わりのなかで人材を育成してきた日本企業の育成手法とはかなり異なる。だが、日系企業がベトナムの経済成長の果実を享受するためには、現地人材のマネジャー候補を早期に戦力化することが不可欠であり、地道に人材育成に取り組むなかで、それを可能にするような人材育成手法の開発やノウハウの蓄積が実現できるといえよう。

 

主任研究員 久米功一

 

[1] ちなみに、日本企業において課長(相当職位)に昇進・昇格する平均的な年齢は40.6歳(「Works人材マネジメント調査2013」上場企業175社の回答)である。

[2] ある日系企業では「資格や役職を2年に1回は引き上げるように」心掛けているそうだ。

[3] 筆者ヒアリングによる。