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フィンランド Vol.01民間企業が義務教育に協力 学校現場で普及するビジネスゲーム

フィンランドでは、優秀な人材を労働市場に輩出するために、民間企業が学校教育に協力する。その取り組みを、現地の学校・教育関係者たちへのヒアリングをもとにレポートする。

キャリア教育としてのビジネスゲーム

Works誌121号、特集「北欧流『時間価値』の創造」において、北欧では自律的な人材を育成する社会システムや組織環境によって、彼ら・彼女らが「適職」にたどり着き、時間価値を最大化していることを考察した。とくに、義務教育段階からキャリア教育に工夫を凝らしているが、今回はそのなかでも、北欧・フィンランドのビジネスゲームを紹介したい。

日本では、2003年に村上龍氏の『13歳のハローワーク』が発行された頃から、キャリア教育への関心が高まっている。なかでも、子どもが仕事を疑似体験できるテーマパークが人気で、2006年の東京都・江東区のキッザニアに続いて、2013年千葉市・美浜区にカンドゥーがオープンした。しかし、日本における子どもたちへの仕事の疑似体験は、あくまでも民間主体の取り組みにとどまっているのが実情だ。
他方、フィンランドでは官民連携のもと、学校教育現場で小学校6年生を対象にした「ビジネスゲーム」が、急速に広がりを見せている。

幼少期からさまざまな起業家教育を実施

フィンランドの教育は、PISA(OECDによる生徒の学習到達度調査)で世界一を獲得したことで脚光を浴びるようになった。1994年〜1999年に教育大臣を務め、現在、内閣府長官の任に就くオッリペッカ・ヘイノネン氏は、「①問題解決能力、②物事を自ら学ぶ能力、③クリエイティブ能力、という3つの力を体得していくことでどんな状況にでも対応可能になり、将来のキャリアチェンジも可能になる」と、その教育の力点を説明する。

こうした教育の目的は、自律的な人材を輩出することにある。そして、そのための起業家教育は、幼少期から始まる。たとえば、「児童の実体験の話を大人が聞き取り、物語として聞かせる『ストーリーテリング』も就学前教育、幼稚園段階から広く一般的に行われている」と、ヘルシンキ市国家教育委員会のクリスティーナ・カイハリ教育参事官は語る。自らの主張を論理構成させるスキルを大人と二人三脚で体得させているのだ。

さらに、中学生レベルでは校内の売店を生徒自らが運営し収益を上げるなど、実学志向の取り組みを学校の現場に取り入れてきた。これらに加えて、小学校6年生を対象にスタートした新しい取り組みがビジネスゲームの授業への導入である。

ビジネスゲームで社会の動きや働くことの大事さを学ぶ

起業家教育プログラムの最高責任者で、フィンランド企業連盟のトミ・アラコスキ氏は、キャリア教育の開始を「8年生(*1)では遅すぎる」と感じ、ターゲットを6年生、12歳に設定し直した。さらに、「生活困窮世帯では、子どもはお金の稼ぎ方や職業の選択モデルがわからないままに成長し、また貧困に陥ってしまう」という危機感から、お金を稼ぐことを学ぶ授業としてビジネスゲームを始めた。アラコスキ氏は、「社会がどのようにして動いているのかを学ぶ機会であること、仕事をしてお金をもらうということの大事さ」を強調し、ビジネスゲームの必要性を説明した。

子どもたちは、学校で10時間ほどビジネスゲームの準備授業を受けた後で、企業・商店などのブースが設置されたキャリアセンターにやってくる。ユリトゥスキュラというキャリアセンターには、民間企業や公的機関が協賛した製紙会社、エネルギー会社、スーパーマーケットなどの20種類のブースがある。

ゲームは、生徒のなかから市長を選び、市長があいさつするところから始まる。次に、各自起業するために、銀行からゲーム上の疑似通貨を借りる。参加者は事前に決めたグループごとに分かれて商店や企業、自治体の経営を行う。
たとえば、市長の場合は、みんなから税金を集めて、市営住宅の候補地の選定、建設、入居者募集などを行い、その運営状況などが問われるという。
 1日が終わって、銀行にどれくらいお金を戻すことができるかで成果を競う。このような流れで、ビジネスゲームが進行される。


将来の人材のために、民間企業が学校教育に協力する

ビジネスゲームは首都ヘルシンキの全6年生を対象にスタートし、全土に拡大中だ。アラコスキ氏の開発したビジネスゲームは、国際パートナーシップ・ネットワーク(*2)において、学校や企業間連携のグローバルベスト賞に選ばれた。また、複数の研究者が論文の題材にしているほか、子どもたちが将来どのような道に進むのか追跡調査を行うことも予定されており、どこまでこの取り組みが実を結ぶかに期待が高まっている。

北欧では、民間企業が学校教育に協力することが、自律的な人材を労働市場に輩出していくことにつながると理解されている。日本でも、民間企業が積極的に協力し、実学的な教育プログラムのバックアップをしてゆく必要がある。


*1フィンランドの義務教育は7〜15歳(1〜9学年)。
*2 International Partnership Network。
教育事業に関して提携する国際組織。

(主幹研究員 長島一由)