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ノルウェー Vol.01白夜の国で、朝方(早朝)勤務が定着する理由

北欧企業は、寒冷地ということもあり早朝勤務をすると聞いていた。そこで、2014年9月にノルウェーに出張した際、実際の始業時間を調べてみたところ、ノルウェーの労働者の働き方や豊かさについての考え方が見えてきた。

人間開発指数は5年連続トップ

ノルウェーの人口は約510万人。国土の広さは日本とほぼ同じだが、国土の約半分が北極圏に位置し、「ノルウェー人はスキーを履いて生まれてくる」ということわざもある。一般的なイメージとして思い浮かぶのは、広大なフィヨルド、森と山、氷河、オーロラ、白夜、サーモンなどの海産物、エドヴァルド・ムンクの「叫び」、ノーベル平和賞、そして物価の高さだろう。

前々号(Works №125)では、スイスの物価の高さに触れたが、9月末にノルウェーを訪問し、オスロの空港で購入した500ml入りのミネラルウォーターは約650円、(普通の)ハンバーガーとフライドポテトのセットは約4000円とスイスをはるかに超えるものだった。地元の人の、物価が高いので「外食をしない」「飲酒は控えめ」との話にもうなずける。

国連開発計画(UNDP)が2014年7月に発表した、国の豊かさや進歩の度合いをはかる包括的な経済社会指標である“人間開発指数(Human Development Index)”では、187カ国中ノルウェーは1位(日本は17位)と、世界で最も豊かな、生活の質の高い国として5年連続トップ(通算11回)に君臨している。

北欧各国の企業訪問の際に、「北欧といってもノルウェーは別」といわれたが、かつてのノルディックバランス(*1)というよりも、豊かな石油資源に後押しされた好景気によって、国全体が潤っている。首都オスロの町全体がインフラ整備、公共事業と、道路も建物も工事中だらけである。

クォータ制の発祥地はオスロ

ノルウェーは、少子化とは無縁の高い出生率(1.9%、WorldBank2014)や、男女平等参画社会の形成など、さまざまな女性活用施策が注目され、首都のオスロは女性議員や女性役員の割合を定めるクォータ制の発祥地としても知られている。

男女平等参画社会の形成には10年を要したといわれるが、結果、2人目の女性首相となるエルナ・ソルベルグ氏の就任に始まり、財務相や雇用主連合のトップなど、多くの女性が要職に就いている。2008年には企業にもクォータ制が義務付けられ、違反すると企業の存続に大きく関わることから、当初は優秀な女性の争奪戦が生じ混乱したという。このため、ノルウェー経営者連盟(NHO)は、将来要職に就く女性を育てるために「女性の未来」プログラムを導入し、経営者になるためのノウハウや専門教育を施し、また、候補者のデータベースも作成するなど、国全体で優秀な女性を育て、活用を推進するためにさまざまな取り組みを行った。これが実を結び、現在のような実力重視の社会の下で、男女が対等な力を発揮できるまでになった。

通勤渋滞は朝6時から、帰りは14時半から始まる

OECDの調査によると、ノルウェーの労働者1人あたりの就業時間は約1418時間。日本の1745時間と比較すると、年間で327時間程度短い。多くの企業は朝8時に始業し、15時か16時には終業する。勤務時間は約7時間半で、残業や休日出勤はしない。理由は「残業する人は、仕事ができない人とみなされる」からである。また、宗教上の「労働は罰(悪)である」という考え方も根強い。

実際に、宿泊先のオスロ中央駅横の高層ホテルから、企業は朝何時から仕事を開始するのか、実際の点灯時間と、通勤状況をウォッチしてみた。ビルには大手企業の社名が掲示されており約10社の社屋を眺めていると、はじめに小さく点灯した企業は朝5時半。6時からは各企業とも点灯しはじめ、6時半には各ビルの約半数の部屋が点灯、駅周辺も通勤をするビジネスマンの姿が増えはじめる。7時には10社のビルで全ての部屋が点灯。早朝勤務は事実のようだ。通勤は、電車、LRT(路面電車)、バス、電気自動車を使う。自転車通勤も多い。自転車の後ろに乳母車のような荷台を取り付け、複数の子供を乗せて保育園へと急ぐ父母も多く見られた。聞くと、保育園の開始は施設にもよるが朝7時台。預かりは17時までで延長はない。

朝方(早朝)勤務の理由

現地企業によると、早朝勤務は「普通」のことで、労働者は朝7時から8時には出社し、昼休みは30分以下でサンドイッチをつまむ程度。長く仕事を中断しないので、労働生産性にも影響が少ないという。昼休みに時間を割くより少しでも早く仕事を終えて16時には帰宅し、17時には家族と一緒に家で夕食をとる。「18時に夕食というのは遅いくらいだ」という。

ただし、これは一般社員の話で、管理職は男女にかかわらず、早くに帰宅した場合でもモバイルワークをするのは普通という。

また、商業施設はほぼ17時に閉店する。唯一、コンビニエンスストアは7時から23時までだが、商品価格は人件費が上乗せされるため、約1.5倍程度割高となる。物価の高いノルウェーでさらに1.5倍の料金を支払うのは、「よほどのことがあったとき」、もしくは富裕層である。退社後ビジネスアワーが終わる17時までの間に全ての人が用事を済ませ、家路に就くという社会システムが出来上がっている。

このような国全体ができる限り無駄をそぎ落としたシンプルなシステムは、慣れてしまえば心地よい。しかし、日本のような24時間稼働する社会で、付加価値サービス、人によるおもてなしに溢れた生活に慣れ親しんでいると、ノルウェーの生活は簡素に見える。

働き方の改革以前に、今一度、本当の豊かさは何かを再考すべきかもしれない。

(*1)ノルディックバランスとは、第二次世界大戦後の東西冷戦中の北欧の動向。アメリカ寄りのデンマークとノルウェー、中立のスウェーデン、ソ連寄りのフィンランド、といったように「北欧の均衡」を保ち、北欧に表面的な平和を提供するものと言われた。

グローバルセンター長 村田 弘美