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インド Vol.02有期雇用へのニーズから、人材の質的な問題が明らかに

経済成長の鈍化によって、無期雇用の採用数は減少し、有期雇用への採用ニーズが高まったインド。こうした変化によって、インドが抱える人材の質的な課題が顕在化している。

中途採用は有期雇用にニーズ

インドでは2012年中頃から、自国通貨が100ルピーあたり2.2ドル(2012年8月)から1.5ドル(2013年8月)へと減価し、経済成長が鈍化傾向に陥った。2008年から2012年の5年間の四半期ベースの経済成長率(実質GDP成長率)の平均が+7.3%であるのに対し、2012年以降は4%台後半を推移。2013年10~12月においては+4.7%にとどまっている。

経済成長の鈍化を受けて、大手企業を中心に軒並み採用を控えている。正確な統計がないため、インドの人材ビジネスの商況から推測すると、新卒採用だけでなく中途採用でも採用数が減少しており、とくに無期雇用の採用数が減少しているといえる。

インドの人材ビジネスのうち、採用関連の業態は次の3つに分けられる。1つ目は部長クラスから役員クラスを対象とする「サーチ」、2つ目は一般スタッフから課長クラスを対象とする「セレクション」、3つ目は「スタッフィング」(派遣)であり、主に有期雇用の人材を対象としている。人材ビジネスの関係者に筆者が取材した限りでは、サーチやセレクションにおける人材ビジネスの売り上げは、2013年に入り1~2割ほど減少しているが、派遣は2013年も引き続き増加している。経済成長の鈍化が進むなかで、相対的に有期雇用に対する採用ニーズが高まっていることがうかがえる。

人材の質的課題が顕在化

こうした変化によって、インドが抱えている人材の質的な課題がより顕在化してきた。

企業が有期雇用で採用したものの、その人材が仕事をうまく遂行できないケースや、企業が派遣会社に人材を依頼しても、企業の依頼に対して十分な能力・スキルを持った人材を供給できていないケースが見られる。

インドでは無期雇用で働きたいと思う人材と有期雇用で働きたいと思う人材の質は大きく異なり、有期雇用については、とくにエンプロイアビリティ(雇用される能力)が低い人材が少なからず見られる。エンプロイアビリティとは、インドにおいては「決められた時間に出社する」「上司に指定されたタスクをこなす」など、組織のルールに従って働く能力であり、日本の感覚ではそれほど高いレベルではなく、社会人としてごく当たり前のことだ。無期雇用に対する採用ニーズが減少するなかで、レイオフされる人も増えているが、このような人はあえて有期雇用として働くことを選ばない。そのため、インドは、世界第2位の人口大国であり豊富な労働力を有するにもかかわらず、質的には課題があり、事業に貢献できる人材の量が限定的だといわざるを得ない。

大卒でも仕事遂行能力のある人は少ない

インドの人材コンサルティング会社3社がまとめたレポート “The India Skills Report 2014”によると、新卒者約10万人に対して数的処理能力や論理力、コミュニケーション力や働くうえでのスタンスなどのテストやアセスメントを行った結果、仕事遂行能力のある人は34.0%にすぎないという結果が得られた。学科別に見ると、工学部出身者は51.7%、MBA出身者は41.0%であるが、その他の学部出身者は2~3割と低い水準である。

インドでは工学部系の大学に限定しても、分校を合わせて1万校以上もあるといわれ、しかもここ10年で多くの大学が設立されてきた。大学に進学すれば就職できるとの考えから、多くの学生が大学への進学を希望する。しかし、一部の上位校を除き、十分な教育がなされていないのが現状であり、大学を卒業したとしても企業に雇用される可能性は低い状況となっている。

また、仕事遂行能力のある人は地域による偏在がある。仕事遂行能力のある人材が多い地域は、デリーやその周辺を中心とした北部と、ITの集積地で有名なバンガロールを有するカルナタカ州やその周辺を中心とした南部に集中しており、中央部や西部は相対的に少ない状況である。

産業人材の育成がインドの社会課題に

人材の質については多くの人が懸念を示しており、インドの経済成長のためにも人材育成は喫緊の課題だ。製造業のさらなる成長が必要だと認識しているインド政府は、製造業を担う人材の育成プログラムを策定し、貧困者や中途退学者が仕事に就くために必要なスキルを学ぶ機会を提供している。政府だけでなく、一部のIT系企業や財閥系企業が大学に寄付講座を提供したり、企業のエンジニアが直接学生に教える機会を増やすなどして、産業人材の育成に力を入れている。ただし、インドでは長期間の育成を要する人が多いため、諸々の取り組みを進めていても量的にはまだ不足しているといわざるを得ない。

企業内での人材育成に強みを持つといわれている日本企業は、進出した海外においても評価が高い。それは、インドで展開する日系の現地法人についてもあてはまる。筆者が日本企業に勤めるインド人にヒアリングをした限りでは、日系企業で働いてよかったという声が多い。日系企業では、導入研修を実施するだけでなく、仕事の現場でもOJTできめ細かく指導するのが一般的であり、そこで働くインド人が仕事遂行能力が高まっているという感覚を持つことができるからだ。

とはいえ、インドにおける日系企業の認知度はまだまだ低く、シェアも一部を除いてそれほど高くはない。また、日系企業のことを知っていて好印象を持っている人たちが日系企業で働きたいと思ったとしても、企業と接点を持つ機会はほとんどないのが現実である。日系企業の持つ人材育成のノウハウはインドの社会課題の解決に大きく貢献する可能性が高く、ノウハウの提供を通じて日系企業のプレゼンスが高まることを期待したい。

研究員 戸田 淳仁