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インド Vol.03政権交代によりインドの労働法規が簡素化する兆し

2014年5月に実施された総選挙で、政権交代が実現したインド。新たに首相となったナレンドラ・モディ氏のリーダーとしての手腕に注目が集まっている。

州首相としてリーダーシップを発揮

2014年5月、インドで実施された総選挙では、ナレンドラ・モディ氏率いるインド人民党が圧倒的な勝利をおさめ、国民会議派を中心とした連立政権からの政権交代が実現した。

一国の首相となったモディ氏は、これまで13年間にわたりインド北西部のグジャラート州の首相をつとめ、強力なリーダーシップのもとに規制改革や外資誘致政策を進めてきた。

たとえば、土地取得の際の規制緩和である。インドでは工場用地を取得する場合、農地からの転用には州政府の認可が必要で、その手続きも煩雑だ。また、取得後に地価が上がった場合には、前の所有者や所有を主張する者と紛争が起こるリスクがある。そのため、複数の所有者が関係するようなまとまった土地を必要とする製造業には頭の痛い問題となっている。

モディ氏は、グジャラート州の農民・個人の不満を回避するため、州政府の許認可を不要とし、個別合意に基づく土地取得を基本方針とすることで手続きを簡素化。取得後に地価が上がった場合には、前の所有者への補償内容を個別事情に応じてきめ細かに設定するなど、土地の開発・収用をめぐる紛争を抑えることにも注力した。その結果、外資系企業による工場用地の確保が容易になり外資誘致に成功、経済成長に寄与したともいわれている。

インドでは連立政権による決められない政治や国全体の経済成長の鈍化を背景に、強いリーダーシップを持つ人物が望まれていただけに、モディ氏への期待が高まっている。

多数の労働法規。定義や適用基準もそれぞれ

インド人民党の公約を見ると、インフラ整備や製造業支援とともに、外資誘致の積極化やビジネス環境の改善が盛り込まれている。そのなかで労働法規についても触れ、「複雑で時代遅れ、矛盾した労働法制を見直す」としている。

インドでは社会主義的な色合いの濃い独立後の経済政策の名残りで、今なお、労働者に“優しい”さまざまな労働法規が残っている。また、労働法に括られる法律が40以上と非常に多く、法律間で定義や適用基準が異なる。たとえば代表的な法律には以下のようなものがあり、ほとんどが数十年前に制定されたものである。

労働法規の簡素化は実現するのか

そのなかでも論点となるのは、産業紛争法にある解雇に関する規定である。インドでは被雇用者をワークマンとノンワークマンに分けており、ワークマンに対しては解雇に関する制限がある。ワークマンとは、工場労働者など比較的単純な作業に従事する被雇用者である。産業紛争法では、「100人以上のワークマンを雇用する企業は、工場の閉鎖や解雇などに先立って州政府の許可を得なければならない」と規定している。「どのような場合に解雇が認められるのか」といった解雇の実体規定は存在せず、解雇の際の手続きのみを定めている。とはいえ、手続きを順守すればすべての解雇が認められるわけではなく、解雇に相当な理由が必要とされる。この規定のために、ワークマンについては整理解雇や能力不足などによる解雇が容易には認められないのが通例である。企業の対応としては、試用期間をもうけて採用するか、有期雇用とする傾向が強くなる。

インド人民党の公約では多くの労働法規を整理するとしているが、どこまでできるかが今後の焦点になる。なぜなら、多様性が高く格差の大きいインドでは多くの抵抗勢力が存在するため、すべての利害関係者の意見を取り入れると、場合によっては中途半端な改革になりかねないからだ。州首相として活躍してきたモディ氏であっても、国全体のかじ取りを担う場合は、さらに多くの利害関係者との調整が必要であることが予想され、越えるべきハードルが高くなる。

ビジネス環境の改善を進めるという観点から、労働法規を簡素なものにし、競争力を高めることを課題として明確に打ち立てたことは、多くの識者に評価されている。現在はモディ氏のリーダーシップが、国政でどこまで通用するかという点に注目が集まっている。

 

研究員 戸田淳仁