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インドネシア Vol.01外国人雇用条件が厳格化 現地の優秀な人材の獲得や育成が課題に

外国人雇用条件の厳格化が進むインドネシア。その目的は、自国労働者の保護と若手人材の育成だ。新規に参入する外資系企業は、優秀な現地人材の獲得に試行錯誤を重ねる。

19の職種で外国人労働者の雇用を制限

外資系企業の参入増加に伴い、インドネシアでは国内の人材開発・雇用促進のため、外国人雇用に関する規制の厳格化を進めている。

従来から、外国人労働者を雇用する際には、就労ビザ、雇用許可(IMTA)の取得、インドネシア人労働者の技術開発促進のための技能開発基金(DPKK)の納付(外国人労働者1人あたり100アメリカドル/月)が義務付けられていたが、近年は、就労ビザの発給を厳格化している。

インドネシア労働移住省は、19の職種で外国人労働者雇用制限を導入したことにより、2012年は前年比で6%、4880人の外国人労働者が減少したと発表した。人材開発省が発表した19の職種は以下の通りである。

  • 人事役員(Personnel Director)
  • 産業関連マネジャー(Industrial Relation Manager)
  • 人事マネジャー(Human Resources Manager)
  • 人事開発スーパーバイザー(Personnel Development Supervisor)
  • 人事採用スーパーバイザー(Personnel Recruitment Supervisor)
  • 人事配置スーパーバイザー(Personnel Placement Supervisor)
  • 従業員キャリア開発スーパーバイザー(Employee Career Development Supervisor)
  • 人事管理者(Human Resources Administrator)
  • CEO 最高経営責任者(Chief Executive Officer)
  • 人事・キャリア専門家(Personnel and Careers Specialist)
  • 人事専門家(Personnel Specialist)
  • キャリアアドバイザー(Career Advisor)
  • 労働アドバイザー(Job Advisor)
  • 職業指導・カウンセリング(Job Advisor and Counseling)
  • 雇用の仲介(Employee Mediator)
  • 職業トレーニング管理者(Job Training Administrator)
  • 職業面接者(Job Interviewer)
  • 職業アナリスト(Job Analyst)
  • 職業安全専門家(Occupational Safety Specialist)

これら19の職種については、明確に定義されたものはない。しかし、人事・雇用管理に関する職種に偏っていることが見て取れる。外国人労働者が、採用時の面接や最終的な採用決定および配置などの権限を持つことはできない。

主産業で外国人労働者の雇用を厳格化

さらに、2013年10月、インドネシア政府は、石油・ガスセクターにおける外国人労働者の雇用条件を厳格化する「エネルギー鉱物資源省規則2013年第31号」を定めた。同セクターに関わる全ての企業(探索・生産・精製・流通など)は、55歳以上の外国人労働者の雇用が禁じられるほか、雇用条件として、インドネシア語を話し、「インドネシア人の同僚に対して、知識やスキルを積極的に伝達する意識のある人」という条件が追加される。知識伝達を実践するため、外国人労働者は雇用期間中、インドネシア人労働者と常に一緒に働かなければならない。

石油・ガスセクターの外国人労働者を規制する一連の動きは以前からあり、石油・ガス関連企業が外国人労働者を雇用する場合、通常の企業に求められる「外国人労働者採用計画」を提出するほかに、石油・ガス総局(Directorate General of Oil and Gas)から推薦状2通と労働省の承認を事前に得なければならない。また、外国人労働者による知識伝達活動に関する年間報告書の提出が義務付けられる。規則に違反した場合は、外国人労働者雇用の認可が取り消される。

こうした事情もあり、石油・ガス関連企業では、優秀なインドネシア人の囲い込みに必死だ。現地の日系企業へのリサーチ結果(2012年12月)によると、「優秀なインドネシア人大学生を新卒で採用しても、一通りの育成が終わった頃には、石油・ガスセクターに倍の給与で引き抜かれる(大手メーカー)」といった声もあがっている。

厳格化の背景は自国労働者の人材開発

インドネシアにおける外国人労働者に関する雇用条件厳格化の背景にあるのは、若手失業率の改善と自国労働者の人材開発だ。インドネシア中央統計庁の調査によると、若年者の失業率が高く、とくに労働市場における大卒者は全体の6%にすぎないことがわかっている。中央統計庁は、「労働市場全体における大卒者比率は未だ少ないとはいえ、インドネシアでは高学歴にもかかわらず職にありつけない労働者の割合がアジアで最も高く、パートタイムに甘んじている者も含めると10%が失業状態にある」という。

インドネシア政府は、外国人労働者の雇用を制限することにより、とくにマネジメント層の国内人材育成を期待している。2015年には東南アジア諸国連合経済共同体(AEC)が発足する。インドネシア当局はこれを前に、自国労働者保護のための新たな政策を進める計画だ。

日系企業はオフィス労働者の採用やリテンションに苦慮

これら一連の施策を日系企業はどのように受け止め、対応しているのだろうか。
現地の人材調達に目を向けると、工場労働者とオフィス労働者では、労働市場はまったく異なっており、入職経路も異なっている。

工場労働者は、縁故採用が多く、現地の財閥系企業、欧米企業や日系企業は人気があるため、退職者は少ない。人員の補充は縁故採用や工場前での貼り紙が中心で、人員獲得の苦労はほとんどないと言ってよいだろう。しかし、工場労働者のなかでもマネジメント層については、同じ工場団地にある他社からハンティングする場合もある。
一方、優秀なオフィス労働者の採用は困難だ。とくに、前述した19の職種については、インドネシア人経験者が少ないにもかかわらず、必ず必要な職種でもある。なかでも人事責任者の採用は、新規参入企業が最も頭を悩ませる課題となっている。

新規参入の際にはネット求人や斡旋サービスを使い、人材調達にあたるケースが多い。しかし、エージェントに依頼をしても、「何カ月経っても採用できない」と嘆く企業もある。また、せっかく採用できたとしても、外資系他社からの引き抜きリスクも高いため、社内プロジェクトへの積極的なコミットを求めたり、近隣諸国や本国への研修参加を促すなど、モチベーション維持のための施策に苦慮しているようだ。
報酬面での特別処遇を検討する企業も一部にあるが、グローバルルールからの逸脱やほかの従業員からの不満を考慮し、各社とも報酬面以外でのモチベーション維持策を模索している。

今後は、ローカルの労働市場にあわせたグローバル人事施策の柔軟な運用が求められることになるだろう。自国で作成された、企業理念を具現化したグローバルルールを、どのように現地の実情にあわせた運用施策にのせていくかが今後の重要な課題になると考える。

参考:
週刊ライフネシア
新華社ニュース
Amcham Indonesia(米商工会議所インドネシア)
Asean Briefing

主任研究員 辰巳哲子