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Vol.02パトリック・ニューウェル氏(TEDxTokyo)

今回のGUEST
パトリック・ニューウェル氏
教育活動家
TEDxTokyoオーガナイザー

国境も世代も超えて強みを提供し合い、機能する次世代の「チーム」。次世代のチームをつくるリーダーなどをゲストに招き、チームマネジメントやメンバーシップに詳しい日本ラグビーフットボール協会・中竹竜二氏との対話によって、そのあり方を導き出す。

「Have a nice daaaay!!!」。取材が終わった瞬間、パトリック・ニューウェル氏はスケートボードに乗って去っていった。彼こそ、米国発のアイデアスピーチイベント、TED(テッド)を日本に持ち込み、TEDのような、それでいて、独自性を持つTEDxTokyo(テデックス・トーキョー の仕掛け人の1人である。

スケートボードを自在に操り、東京を、日本を、世界を自由に駆け回るニューウェル氏は、日本の人々が五感を閉じ、生気のない顔で町を歩く姿を「ゾンビウォーク」と表現する。そんな人々が自由にアイデアを出し合う場をつくるには――。そのヒントは2つある。

パトリック・ニューウェル氏
Patrick Newell_米国出身。1991年より日本に在住し、教育活動家として20年にわたり世界各国の学習環境の変革と向上を目指した活動を行う。児童養護施設の子どもたちを支援するNPO法人「Living Dreams」や21世紀にふさわしい教育法を開発するNPO「21 Foundation」を創設し、さらに東京インターナショナルスクールの共同創設者、日本における起業活動の支援と育成を提供する環境づくりを推進する一般社団法人「IMPACT Foundation Japan」の共同創設者として運営に携わる。

「場」に参加する人が、「場」をデザインする

中竹 (取材が行われた東京インターナショナルスクールを見て)自由でオープンな雰囲気の、すてきな学校ですね。

ニューウェル もともとこの東京インターナショナルスクールは、子どもたちの自由な発想とそれぞれの個性を育むことを目的に僕と妻で創設しました。

2013年に学校を移転したとき、小学6年生から中学3年生の生徒と僕で、共有スペースや教室を一緒にデザインしたんです。ポジティブな気持ちになれる壁や床の色も、クリエイティブな作業にピッタリの机の配置も、全部。子どもたちが使うんだから、子どもがデザインするのがいちばんいいですよね。「場」に参加する人が「場」をデザインする。これが前提です。

場づくりの基本は、Learning&Sharing

中竹 パトリックさん(*ニューウェル氏)がつくる場には、アイデアがあふれています。パトリックさんが出すアイデアはもちろん、この学校に関していえば生徒たちのアイデアが、そして、パトリックさんがTEDの発展型として立ち上げたTEDx Tokyoでは、国籍、業界、年齢などを超えて、プレゼンテーターと参加者がアイデアを共有し、新しい未来をつくっていこうとしている。なぜ、そんなことが可能なのでしょう?2_taidan

ニューウェル それは、僕の根底にLearning& Sharing(学びと共有)という思想があるからだと思います。人は、誰もが自由にアイデアを出す力がある。そして、それを人から学ぶ力を持っています。すばらしいアイデアをみんなのものにして、発展させていくためには、学び、シェアする場づくりをしなければなりません。その場づくりこそ、僕の使命なんですね。

たとえば、東京インターナショナルスクールで学ぶのは4歳から14歳まで、310人の生徒たちです。生徒たちは、もともとすばらしいアイデアを生む力を持っている。だから第一に、学校はその力をより強く発揮できる場にすることが重要です。

第二に、それをみんなで自由にシェアしてお互いに学べる場にしなければなりません。そうしないと、せっかくのアイデアは子どもたちのなかに、閉じこもったままでいることになってしまいます。シェアすることで、子どもたち同士が学ぶ。そして、僕自身ももちろん学んでいます。学校というよりは、みんなで学び、シェアし合う「ラボ」ですね。

アイデアが出ない企業は、自由とルールのバランスが悪い

中竹 従業員からアイデアが出てこない、イノベーションが起きないと言っている多くの企業の問題点は、今、パトリックさんがおっしゃったことの裏返しにあるのだと思います。アイデアを生む力を発揮させる場になっていない。たとえあったとしても、それをシェアできる場がない。違いは何でしょうか?

ニューウェル それは、ルール(規定)と自由さのバランスと、その質の違いだと思います。僕がつくる場は、ルールをできるだけ少なくする。学校だから、始業時間や施設の使い方など最低限のルールは必要。でも、たとえばこの学校には教科書がない。その学年が学ぶべきことにあわせて、教師が自由に、そして真剣に教材を選び、生徒たちはそこから自由に考えて、個性を育んでいきます。

中竹 学校のあちこちに、いろんな掲示物がありますね。これはルールではないんですか。

ニューウェル ルールは悪いものばかりじゃないですよ(笑)。たとえば、グーグルの20%ルールとか。それが「質」。自由を制限するためのルールではなく、自由であることをサポートするためのルールです。

日本の教育も、企業の人のマネジメントも、まだ「20世紀」から抜け出せていない。人の個性を尊重し、そこから生まれるアイデアを大事にし、共有するのが世界の21世紀の潮流。日本ではまだまだ、個の力よりも、集団のなかに個性を埋没させるルールがまかり通っています。

中竹 では、日本の教育や企業が、21世紀型に変わっていくには、どうすればいいと思いますか。

ニューウェル それは、さっきの話と同じですね。1つは個人がアイデアを思いつくような仕掛けをつくること。もう1つは、アイデアを出すことに対して、安全な場をつくることです。

五感に飛び込んできた情報が、第六感でアイデアになる

中竹 具体的にはどういうことでしょう。

ニューウェル 朝、渋谷駅に行くと、みんな朝、「ゾンビウォーク」をしているんですよ。

中竹 ゾンビウォーク、ですか。

ニューウェル ほとんどの人が、同じ時間に同じ行き先を目指して、同じ道を通っています。It’s automatic! です。つまり、五感をまったく使っていないんです。まずは五感を鍛えないと、人は第六感が冴えてこない。アイデアを出すには、第六感が重要ですから。

中竹 五感を使うということからまず始まる、と。

ニューウェル そうです。クリエイティブであることのカギは、新しい感覚を育てること。それは単純に、よく見なさい、よく聞きなさい、ということともまた違います。もし、目に見えないものを表現してください、と言われたらどうしますか? それは、映画のあり方ではなく、本のあり方に似ています。視覚を閉じたほうが、何かを創造したり、より正しく表現するには適していることも多い。目を閉じてものを食べることによって、味覚が育つ。何も聞こえない状態の中では、違うものが見えてくることがある。だから僕は、静かに“瞑想”する時間をとても大事にしています。

同時に、いつもと違う経験をし、違う世界を見回すことも重要です。僕は、毎日スケートボードで東京の町を移動しています。行き先も毎日違うし、行動する時間も違う。通る道も日によってバラバラ。すると、いつもいろんな情報が目や耳や鼻に飛び込んできます。新商品の看板、新しいビル、人のファッションの変化、町を流れる流行の音楽、なじみのない食べ物の香り……。研ぎすました五感で、それを強く、深く感じます。

そうすると、一つひとつは関係ないことでも、研ぎすました五感を使って飛び込んできた情報が、第六感でいきなりつながる瞬間があります。関係ない、関係ない、関係ない……、あ! 関係ある!ってね。

中竹 そうすると、深く何かを感じる時間をとって、また、習慣を変えると、新しいアイデアが生まれる可能性があるということですね。確かに、幸運な人は、毎日違う道を通っている、というサーベイ結果を見たことがあります。具体的に、どんなことが起こるのでしょう?

ニューウェル 2012年にオープンした渋谷ヒカリエで、2013年5月、TEDxTokyoを開催しました。そのアフターパーティをどこでやろう、と考えていたとき、ふと目に入ったのが渋谷の金王八幡宮でした。新しい渋谷の象徴と900年以上前から続く渋谷を結び付けたら、新しい世界が生まれると思いました。結果は、名プレゼンの嵐でした。“1+1=11”というのは、僕が考えたTEDxTokyoのテーマの1つ。異質な“1”が出合うと、2ではなく、11になるくらいパワーを発揮します。

五感を使うために、ルーティンワークの枠組みを外す

中竹 組織のなかにそんな変化を起こすために、会社としてできることはありますか。

ニューウェル 僕は自由にアイデアを出す場づくりのために、企業にコンサルティングに入ることがあります。そのときすることは、ワンフロアずつ、全部見て回ります。企業の人たちは、「うちの会社は、どのフロアも変わりませんよ」と言うけれど、つぶさに見て回ると、雰囲気も、人の表情も、そこでなされる会話の調子も、全部、全部違うんですよ。

だから、まずは会社のなかでいいから「混ぜる」こと。アイデアを出し合う会議は、毎日同じ人、同じ場所で、ルーティンワークの枠組みのなかでやってはいけない。そこは、五感を強く刺激する場ではありません。
人生の長期保障という安全から、アイデアを出すことへの安全へ

中竹 もう1つは、アイデアを出すことに対して安全な場をつくることとおっしゃっていました。

ニューウェル 英語でいうところ、エモーショナル・セキュリティということなんですが、日本語でどう表現するのかよくわからない。まあ、そこに安心していられる安全な場、ということなのでしょう。

中竹 日本はエモーショナル・セキュリティがない、ということですか。

ニューウェル かつては強固なエモーショナル・セキュリティがあったんですよ。でも、それは自由に対する安全ではなくて、人生の長期保障、という安全です。一生懸命勉強して大学に入って、大手企業にいったん入社すれば一生安泰、というような。新しい奇抜なことをやろう、というような気持ちをそぐエモーショナル・セキュリティです。今はそういうエモーショナル・セキュリティは希薄になっていて、多くの人が自分の未来に対して不安に思っている。でも、会社は相変わらず、古い時代のエモーショナル・セキュリティに支配されて、社員は目の前のことを粛々と続け、大きな変化を望まずにいる。これが、多くの日本企業の姿だと思います。

中竹 今、日本企業の多くが欲する新しいアイデアやイノベーションを出す場づくりのためには、まずは古い時代に培ったエモーショナル・セキュリティを捨てて、アイデアを出すことに対するエモーショナル・セキュリティの醸成が重要なんですね。

ニューウェル 日本人の多くは、100%正しいと思えたり、100%完成したアイデアしか口に出さないでしょう。それは、失敗が怖いから。社会や会社が失敗を受け入れてくれるような安全な場ではないんですよね。一応言っておくと、僕はもう20年以上日本に住んでいて、日本が大好き。だから、国も、学校も、企業も失敗に対してのサポートシステムがほとんどないことを心配しています。「Wild Idea」(とっぴな考え方)をOKにしないと、アイデアは出てこない。これは、TEDがわかりやすいですよね。誰もが自分のアイデアをプレゼンできる。そんなプラットフォームが重要です。

個人のインテリジェンスをチームのコレクティブ・インテリジェンスに

中竹 そして、そのプラットフォームは、「関係ない」をつなげる場であることが重要、という話なんですね。パトリックさんがおっしゃった2つの点は、密接に結びついている。

ニューウェル そう! 結局は、Learning & Sharingなんです。ウェア・アーツ・ミーツ・サイエンス(Where Arts Meets Science)。コネクティング・ザ・アンコネクティッド(Connecting the Unconnected)。これは、僕がつくったTEDx TOKYOのコンセプトのいくつか。一人ひとり個性は違って面白いけれど、そこで出てきたアイデアをシェアしてつなげることで、もっと面白いアイデアに昇華されます。これが、個人のインテリジェンスをつなぎ、チームのコレクティブ・インテリジェンスを紡ぎ出す手法なのです。

ニューウェル氏がつくる場に見る 次世代のチーム像
“自由”とは、“ルール”である

中竹竜二氏
日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター

パトリックさんのことを多くの人が「自由な人」と表現します。でも、本当に単に好きなことをやっている自由な人だろうか。インタビュー後、そう自問自答しました。よく考えてみると、自由をことのほか大事にする人であるのは事実ですが、それを大事にするために、厳しい「ルール」を設けているのではないかと思います。もっと言えば、彼にとっては、自由であることそのものがルールなのではないでしょうか。

自由ではないところを探して、ひたすら壊す

パトリックさんがやっていることは、ご自身が経営される学校やTEDx Tokyoはもちろん、彼が出向く場、組織をひたすら自由に、フラットにして、アイデアをシェアできる場にすること。そのために、自由の障壁になっていることを発見し、それを打破するための、つまり、自由であるためのルールをつくっていくのです。お互い自由な意見を認めましょう。それは、彼にとって、すべてのルールを凌駕する上位概念であり、それを適用することによって自由ではないところに自由を生み出している、いわば自由のアンバサダーなのでしょう。自ら毎日、自由に動き、考えることをルールにして、自由ではないところを探しています。そして、その壁をひたすら壊しているのです。

自由にアイデアを出せる安全な場こそ、次世代のチーム

パトリックさんもおっしゃっていましたが、まさに自由にアイデアを出せる安全な場こそ、今、日本企業に求められる次世代のチームのあり方だと思います。僕自身も、チームづくりで大事にしているのは、まさにそういうことです。

僕は自由にアイデアを出すために、「帽子を脱ごう」とよく言っています。帽子とは、年齢や役職、スポーツで言えばポジションなど。その人の属性のすべてを脱ぎ捨て、みんなでフラットにアイデアを出し合おう、ということです。人はついつい役割発言をしますし、ポジションが自分より上の人の前では萎縮します。それはダメ、というルールです。

また、「失敗体験こそシェアしよう」というルールもよくつくります。失敗なんて、できれば人前でシェアしたくはありません。心の奥底にしまわれてしまうのが普通です。しかし、失敗をシェアすることで本人の振り返りになるだけでなく、ほかの人の成功や成長にも確実につながります。だから、「失敗こそ財産だ」と言い続けるのです。

次世代のリーダーは、自由を阻むルールを壊す

パトリックさんから我々が学べることは、リーダーシップの変異型です。組織を引っ張っていくリーダーシップではなく、学んでシェアする場を崩しかねないルールを壊すというリーダーシップです。常に進化やイノベーションを目指す次世代のリーダーは、自由を邪魔する組織の内外にある壁を見逃さず、疑問を持ち、それを排除するルールをつくるために戦うことが必要です。

今日から自由です。そう言っても、組織は自由になりません。つまり、自然発生的に自由な組織はできないのです。自由のために、リーダーが戦うこと。そして自由のためのルールをつくること。それが今回のメッセージです。

Nakatake Ryuji_1993年早稲田大学人間科学部入学。4年時にラグビー蹴球部の主将を務め、全国大学選手権準優勝。97年卒業後、単身渡英。レスタ―大学大学院社会学修士課程修了。2001年三菱総合研究所入社。2006年早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。2007年度から2年連続で、全国大学選手権制覇。2010年2月退任。同年4月、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターに就任し、指導者の育成、一貫指導体制構築に努める。2012年度はラグビーU20日本代表監督を兼任。主な著書に『判断と決断』(東洋経済新報社)、『人を育てる期待のかけ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワ ン)、『リーダーシップからフォロワーシップへ』(阪急コミュニケーションズ)、『挫折と挑戦』(PHP研究所)、『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP社)など多数。日本におけるフォロワーシップ論の提唱者の1人。

Text=入倉由理子 Photo=刑部友康(インタビュー)

写真提供=Tokyo International School、Misao Akashi、TEDxTokyo 、TEDxTokyo Team