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Series.1「日本市場の理解」から生まれたサービスで、国内外の客を魅了する

2001年の開業初年度以来、12年ぶりに年間入場者が1000万人を超えたユニバーサル・スタジオ・ジャパン。実際に訪れてみると、日本人だけでなく、外国人客も多い。同社が、低迷期を脱し、インバウンド(*1)にも成功した理由を探る。

入場者数の落ち込みを背景に、変革に着手

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの開業は2001年。ユニバーサル・スタジオが手がけるテーマパークとしては「ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド」(米国カリフォルニア州)、「ユニバーサル・オーランド・リゾート」(米国フロリダ州)に続いて3番目である。米国外に初めてできた、この日本のパークも、当初は米国に倣い、「ジョーズ」や「E.T.アドベンチャー」、「ジュラシック・パーク・ザ・ライド」など、ハリウッド映画をテーマにした迫力のあるアトラクションを前面に打ち出した。

だが、入場者数は、初年度は1000万人を超えたものの、その後は低迷を続け、2004年には経営陣が交代。米国ユニバーサルのグレン・ガンペル氏が新たに代表取締役CEOに着任し、業績回復に向けて舵をきった。

日本市場の理解から生まれた2つの方針

「ガンペルがまず徹底したのが、日本市場の理解です」とマーケティング本部営業部部長・村山卓氏は語る。

綿密な市場調査の結果、日本は、漫画やゲームなど娯楽のジャンルの幅が広いこと、また、恋人同士や家族で遊びに行くときなどレジャー行動に関する決定権限は女性が握っている場合が多いことが明らかになった。こうした結果から、ガンペル氏は2つの変革方針を示した。

「1つは、“ハリウッド映画”というブランドだけにこだわるのではなく、拡張させること。2つめが、若い女性と小さい子どものいる家族をコアのターゲットに置くことです」(村山氏)

社員は、ガンペル氏が掲げた「Everything is possible. Swing the bat. Decide now. Do it now.(チャレンジすることで可能性は広がる。全ては可能になる。失敗を恐れず、自ら決断し、行動しよう!)」というスローガンのもと、この方針に従って自律的に変革を進めた。

「変革を象徴するのが、ハローキティやセサミストリートのエルモなどのキャラクターです。日本の市場、とくに女性や子どもには、『迫力』よりも『かわいい』が受け入れられるのです」(村山氏)

また、アトラクションも、以前のようにハリウッド映画の世界のスリルや迫力を追体験するものではなく、心地よさや感動をアピールするものに変えていった。たとえば、「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」は、ジェットコースターにありがちなガタガタという振動をなくし、滑らかに動くようにした。これによって、空を自由に飛んでいるような感覚を楽しむことを実現したのである。

客との対話を通じて、ブランドの価値を説明

 

こうして、さまざまなキャラクターや、アニメやゲームといった映画以外のジャンルのアトラクションが増えていったが、「何でもあり」だったわけではない。「世界で高い評価を受けているブランドだけを慎重に選んでいます。そのことを広告媒体やお客さまとの対話を通じて説明してきました」と村山氏は語る。

客との対話の柱となるのが、2009年にスタートした「マジカル・モーメント・プロジェクト」(MMP)だ。従業員(クルー)が、来園者に積極的に声をかけ、「マジカル・モーメント」をつくりだすことが目的だ。マニュアルがあるわけではないが、クルーが来園者に対して、①アイコンタクト・笑顔・あいさつをする、②アトラクションなど自分のお気に入りを薦める、③子どもと友だちになる、の3つが行動の基本となる。実際、筆者がパーク内のショップでスヌーピーのグッズを購入したところ、クルーがスヌーピー関連のアトラクションとその魅力を手短に説明してくれた。また、クルーとの会話が楽しいから再訪する客も多いという。

こうした変革によって、来場者数は徐々に回復し、2013年度は、開業以来2度目となる年間入場者数1000万人を達成した。また、近年は、台湾や韓国などアジアを中心に外国人の客も増えているという。

“ブランド”と“体験”の改革

サービス産業を中心にビジネスのイノベーションを研究する、京都大学経営管理大学院特定准教授・前川佳一氏は、現在のユニバーサル・スタジオ・ジャパンについて、“ブランド”と“体験”の両面で変革に取り組んだ成果とみる。

「“ブランド”の面の変革では、市場調査から『日本では迫力よりもかわいらしさが受け入れられやすい』とわかると、さまざまなキャラクターや感動を与えるアトラクションを取り入れました。この点に関して京都大学経営管理大学院の鈴木智子講師らは、次のように分析しています(*2)。『ブランド論の第一人者である、スタンフォード大学経営大学院教授のジェニファー・アーカー氏は、アメリカの消費者が企業のブランド・パーソナリティ(*3)を、“誠実”“能力”“刺激”“洗練”“たくましさ”の5つの因子で捉えるのに対して、日本の消費者は、“誠実”“能力”“刺激”“洗練”“平和”で捉えるとしている。日本では、男性的で力強い・迫力があるという意味あいの“たくましさ”ではなく、おっとり・子どもっぽい・かわいいという意味あいの“平和”の因子が重要な要素になる。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは“たくましさ”から、“平和”にブランド・パーソナリティを変更したことで、日本の来場者の心をつかむことができたのではないか』と」(前川氏)

また、“娯楽について目の肥えた人が多い”日本市場に合うように、世界で高い評価を受けるブランドだけを集めたことも“ブランド”の面での変革といえる。

一方、“体験”の面の変革として、前川氏は MMPをあげる。「MMPは、ガンペル氏が日本での生活のなかで『日本のサービスは丁寧だが一方的で、インタラクティブになっていない』と感じたことから始まった活動だそうです。テーマパーク内のどんなアトラクションやイベントが来場者の心を動かすのか、そこまで考えたうえでの一歩踏み込んだ声掛けが、従業員のモチベーション向上や来場者の体験価値を高めることにつながったのでしょう。1対1のコミュニケーションは難しいものですが、従業員の多くは関西人。その特有の気さくさが、ガンペル氏の思惑とうまくかみ合ったのかもしれません」(前川氏)

“ブランド”と“体験”の両面の変革は、日本人の来場者数を回復させただけでなく、外国人客の増加にもつながっている。世界で高い評価を受けるブランドを集めていることやMMPによる心地よいサービスに加えて、アトラクションの安全性、お土産の品質、清掃が行き届いた園内などが魅力となっているようだ。

「インバウンドは、今後さらに伸びていくでしょう」と前川氏は言う。「そのためには、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでの体験価値を高めるのはもちろんですが、大阪や京都、神戸といった関西の都市での滞在価値も高める必要があります。今後は、企業単体ではなく地域や行政との連携が重要になってくると思います」

 

前川 佳一氏 プロフィール
京都大学経営管理大学院 特定准教授
Maegawa Yoshikazu_京都大学工学部卒業。家電メーカーで映像機器やデジタル機器の技術・事業企画に従事したのち、ボストン大学MBA、神戸大学大学院経営学博士を経て現職。現在は、観光業や老舗を含むビジネスのイノベーションを研究している。

 

ユー・エス・ジェイ
■事業内容/テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(R)」の運営
■本社所在地/大阪府大阪市
■資本金/371億円

 

*1外国人旅行者を自国へ誘致すること。

*2 鈴木智子、竹村幸祐「サービス業のグローバル・ブランディングに関する再考」、『マーケティングジャーナル』Vol.33 No.3(2014)

*3ブランドに重ね合わせることのできる人間的な性格や特徴のこと。強いブランドは、確固たるパーソナリティ(人物像)を持っている。

Text=湊 美和
Photo=和久六蔵